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第12話

Auteur: 黙璃
この異様な結婚式は一日中続いた。

最後の舞台は墓地だった。

湊は自らの手で「小林愛」を葬った。

そこへ、隼人が引きずられてきて、激しく墓前に投げつけられた。

隼人の端正な顔は、恐怖で青ざめている。その表情のまま、隼人はすぐに慌てて命乞いを始めた。「なあ、信じてくれ!あんたの子供を殺すつもりなんてなかった!本当だ!あいつがあまりにも気が強くて、ちょっと触っただけで、三階から飛び降りたんだ!」

湊の冷たい瞳には、何の感情も宿っていない

彼は隼人の手を無言で踏みつけた。そして、靴の踵で力任せに押し潰す。

瞬間、隼人の顔が苦痛に歪んだ。骨が軋む音と共に、悲鳴が上がる。「ぎゃあああ……!全部、荻原詩帆の仕業だ!全部あいつがやらせたんだ!あいつはダンススタジオでわざと自分で転んで、あんたに小林愛が突き落としたと思わせた!

俺にもわざと小林愛の前で、あんたが詩帆を愛してるって嘘を並べさせたんだ!

彼女を妊娠させたのも、荻原詩帆が『バレエのためにスタイルを崩したくない』からだって!生まれてくるのはあんたと詩帆の子供だ、なんて、全部あいつに言わされたんだ!」

湊の瞳が氷のように冷たく
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