御影洵也(みかげ じゅんや)の攻略に成功した城崎詩織(きのさき しおり)は、愛のためにミッションワールドへ残ることを選んだ。しかし、その幸せな日々も束の間、わずか数年後。彼女は、かつてあれほど深く愛してくれた夫と、賢い息子が、とうの昔に自分を裏切り、別の女に心移りしていた事実を、偶然知ってしまう。現実に目覚めた詩織は荷物をまとめ、眠っていたシステムを呼び出した。「私、この世界から離脱するわ」洵也、あなたと息子。もう、二人とも私にはいらない。――御影家の別荘の裏庭には、たくさんのイチョウが植えられている。秋が深まると、そこは一面黄金色に染まり、まるで真夏の日差しをすべて留めているかのようだ。詩織はお茶を手に裏庭のロッキングチェアに座り、その得難い景色を静かに眺めていた。庭にあるイチョウは、すべて洵也が自ら植えたものだった。この数年間、手入れさえも彼が率先して行っていた。以前、洵也は言った。ここにある一枚一枚の葉が、二人の愛の象徴なのだと。同じように熱烈で、眩いのだと。今、詩織もこう言えるだろう。ここにある一枚一枚の葉が、二人の縮図で、遅かれ早かれ、枯れて散っていくのだと。正午から、夕日が沈むまで。詩織はずっとそこに座っていた。そしてようやく、心の中で静かに呼びかけた。「システム、まだいる?」息を殺して待つこと五分、もう誰も応えてはくれないだろうと詩織が諦めかけた、その時。脳裏に、十年近く沈黙していた声が、再び響いた。「います、宿主様」「私、この世界から離脱したい」「世界からの離脱は不可逆です。宿主様、離脱を確定しますか?」詩織は一瞬黙り、しかし、すぐに迷いのない頷きを返した。「確定よ。完全に離れるわ」「宿主様の要求を受理しました。審査通過。世界離脱のカウントダウンを開始します。十五日後、宿主様は当世界より正式に離脱します。準備を進め、当世界の家族や友人に別れを告げてください」それだけ言うとシステムは消え、詩織だけがその場に残された。彼女は自らに問いかける。「家族?」その視線は、自らの携帯の待ち受け画面に落ちた。それは、一枚の家族写真だった。写真の中の洵也は、愛しさに満ちた瞳で彼女を見つめ、彼女の腕の中には、二人の愛の結晶である、愛しい息子――御影怜央(みかげ れお)が抱かれている。
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