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夫と息子の裏切り~私、この世界から離脱します
夫と息子の裏切り~私、この世界から離脱します
Penulis: 金子大介

第1話

Penulis: 金子大介
御影洵也(みかげ じゅんや)の攻略に成功した城崎詩織(きのさき しおり)は、愛のためにミッションワールドへ残ることを選んだ。

しかし、その幸せな日々も束の間、わずか数年後。彼女は、かつてあれほど深く愛してくれた夫と、賢い息子が、とうの昔に自分を裏切り、別の女に心移りしていた事実を、偶然知ってしまう。

現実に目覚めた詩織は荷物をまとめ、眠っていたシステムを呼び出した。

「私、この世界から離脱するわ」

洵也、あなたと息子。もう、二人とも私にはいらない。

――

御影家の別荘の裏庭には、たくさんのイチョウが植えられている。

秋が深まると、そこは一面黄金色に染まり、まるで真夏の日差しをすべて留めているかのようだ。

詩織はお茶を手に裏庭のロッキングチェアに座り、その得難い景色を静かに眺めていた。

庭にあるイチョウは、すべて洵也が自ら植えたものだった。この数年間、手入れさえも彼が率先して行っていた。

以前、洵也は言った。ここにある一枚一枚の葉が、二人の愛の象徴なのだと。同じように熱烈で、眩いのだと。

今、詩織もこう言えるだろう。ここにある一枚一枚の葉が、二人の縮図で、遅かれ早かれ、枯れて散っていくのだと。

正午から、夕日が沈むまで。詩織はずっとそこに座っていた。そしてようやく、心の中で静かに呼びかけた。

「システム、まだいる?」

息を殺して待つこと五分、もう誰も応えてはくれないだろうと詩織が諦めかけた、その時。脳裏に、十年近く沈黙していた声が、再び響いた。

「います、宿主様」

「私、この世界から離脱したい」

「世界からの離脱は不可逆です。宿主様、離脱を確定しますか?」

詩織は一瞬黙り、しかし、すぐに迷いのない頷きを返した。「確定よ。完全に離れるわ」

「宿主様の要求を受理しました。審査通過。世界離脱のカウントダウンを開始します。十五日後、宿主様は当世界より正式に離脱します。準備を進め、当世界の家族や友人に別れを告げてください」

それだけ言うとシステムは消え、詩織だけがその場に残された。彼女は自らに問いかける。「家族?」その視線は、自らの携帯の待ち受け画面に落ちた。

それは、一枚の家族写真だった。

写真の中の洵也は、愛しさに満ちた瞳で彼女を見つめ、彼女の腕の中には、二人の愛の結晶である、愛しい息子――御影怜央(みかげ れお)が抱かれている。

あまりに幸せそうなその光景に、彼女は一瞬、我を忘れた。

再び意識が戻ると、すでに食事の時間だった。彼女を呼びに来たのは、洵也に二十年以上仕えている家政婦の早川昌代(はやかわ まさよ)だ。

「奥様、お食事の準備ができました」詩織は頷き、昌代の後についてダイニングへと向かった。

広いテーブルの上には、山海の珍味が並び、その中央には、微かに光を放つバースデーケーキが置かれていた。今日は、怜央の九歳の誕生日だ。

「洵也と怜央は?」

「旦那様は、日中、怜央坊ちゃまを連れて……遊園地にいらっしゃいました。今は戻る途中で、渋滞に巻きこまれているとのことです」

昌代は相変わらず嘘が下手だ。服の裾を何度も握りしめるその姿は、誰が見ても不自然だ。

だが、詩織にはもう、それを問いただす気力もなかった。

彼女は静かに歩み寄り、ケーキの蝋燭を吹き消した。

しばらくして、洵也が帰ってきた。

詩織が電気もつけずにソファに黙って座っているのを見て、彼はひどく慌てた様子で、隣にいた息子の背中をそっと押した。大小の二つの影が、詩織に飛びついてくる。

これまでの何回もの夜と同じように、二人はありったけの優しさで詩織をなだめ始めた。

「詩織、すまない。もっと早く帰るべきだったんだ。まさか、あんなに道が混むとは思わなくて」

「ママ、パパを責めないで。僕が、どうしてもパイレーツシップに乗りたいって言ったから」

「本当は君も一緒に連れて行きたかったんだ。でも、君は体が弱い。寒くなってきたから、風邪でもひいたら大変だと思って」

洵也はそう言いながら、いつもの癖で、詩織の冷たい手を握り、自分の懐へしまい込んだ。「どうしてこんなに冷たいんだ?俺が温めてやる」

「ママ、もう怒らないで、ね?パパと僕で、ママにプレゼントをたくさん選んできたんだ。気に入るか見てみてよ」

怜央はそう言うと、ぱっと玄関へ駆け戻り、プレゼントを持ってきた。高価なジュエリーの数々、限定版のバッグ、オートクチュールのドレス。

洵也は、どこか怯えるように、必死に機嫌を取ろうとする顔で言った。「詩織、気に入ったか?もしなかったら、明日また、別のものをお詫びに買ってくるから」

詩織はただ黙って、目の前の男を見つめた。この十年間、愛し続けた人を凝視した。

誰も知らない。詩織が、本当はここの世界の人間ではないことを。

彼女は不慮の事故でシステムにこの世界へ連れてこられ、洵也を攻略し、彼が御影家を継ぐのを助けるというミッションをクリアしなければ、元の家には帰れなかったのだ。

一日も早く家に帰るため、詩織はあらゆる手を使い、当時まだ冷遇されていた隠し子に過ぎなかった洵也に近づいた。幼くして母を亡くし、愛に飢えていた彼の心理的特徴を利用し、水が染み込むように、少しずつ、彼の生活と心に浸透していった。

あの頃の彼女にとって、洵也はミッションをクリアするための「道具」でしかなかった。あの、冷酷だった洵也が、完全に彼女に恋をする、その時までは。

一人の人間に深く愛されるということが、これほどのものだとは。

彼女が「食べたい」と一言呟けば、彼は真夜中の雨の中、街の反対側まで限定のケーキを買いに走った。

御影家の長男が差し向けたチンピラたちが襲いかかってきた時、彼は身を挺して彼女をかばい、その下に隠した。

彼女の誕生日プレゼント代を稼ぐため、彼は命がけの違法レースに参加し、半死半生で帰ってきた。

詩織は、石でできているわけではない。これほど真摯な愛を前にして、心が動かないはずがなかった。

洵也がプロポーズした日は、彼が他の相続人たちを打ち負かし、御影家の新当主として正式に認められた日でもあった。

詩織の目の前には、ダイヤの指輪を手に、緊張で額に汗を滲ませながら片膝をつく洵也。そして耳元では、システムの感情のない声が響いていた。

「任務完了。宿主様、直ちに任務世界から離脱しますか?」

その瞬間、詩織はためらった。二人が歩んできた過去が、脳裏をよぎる。苦しいことも、辛いことも、疲れることもあった。けれど、遊んだり、ふざけたり、笑ったりした、その根底にあったのは、いつも幸せだった。

何度も葛藤した後、詩織は決意を固めた。彼女は洵也の手から指輪を受け取り、目に涙を浮かべて言った。

「はい、喜んで」

欣喜雀躍した男が、彼女を抱き上げる。周りの喝采の中で、詩織は彼の首筋に顔を埋め、小さな声で呟いた。

「洵也、ずっと私を愛して。ずっと、私を大切にしてね」

「詩織、当たり前だ」

「あなたは、私があなたのために何を諦めたのか、知らないでしょうね」

ただ、悲しいことに。かつての美しい思い出は、今、残酷な現実に打ち砕かれ、見れば見るほど皮肉に感じられた。

詩織は体を起こし、洵也が腹部で温めていた手を引き抜いた。

その角度から、彼女にははっきりと見えた。洵也の黒いシャツの下に無数についた爪痕と、怜央の前髪の下に隠された、拭いきれていない淡いキスマークが。

そのすべてが、詩織の目を深く、深く刺し、彼女は思わず目を閉じた。

本当に、息子の願いを叶えるために遊園地へ行ったのだろうか。それとも、息子を連れて「新しいママ」に会いに行ったのだろうか。

おそらく、父子二人は、高月詩穂(たかつき しほ)のマンションから帰ってきたばかりなのだろう。

詩織が、洵也が別の女を囲っている事実に気づいたのは、三ヶ月前のことだった。

彼は日中、仕事が忙しいと言い訳してはその女と過ごし、夜は家に帰ってきてベッドで自分のそばにいる。自分にだけ捧げられるはずだった心は、今、別の女にも捧げられていた。

詩織に手を振り払われた洵也は、飛び上がるほど驚き、さらに緊張した様子で、ひたすらに許しを乞う言葉を並べた。

詩織は彼の様子を見て、ふと学生時代に彼女が拗ねた時も、洵也が同じように何度も彼女をなだめてくれたことを思い出した。

制服を着ていた頃も、スーツを着るようになった今も、彼が頭を下げる相手は、いつだって彼女だけだ。

長い沈黙の後、詩織はようやく口を開いた。

「怒ってないわ。ただ、少し疲れただけ」

洵也はそれを聞くと、まるで恩赦を受けたかのように安堵し、すぐに彼女を横抱きにして部屋へ運んだ。

「疲れたなら、もうお休み」

電気を消す前、洵也はいつものように詩織の額にキスを落とした。

「愛してるよ、ハニー」

詩織は、いつものように「私もよ」とは返さなかった。代わりに、彼に問いかけた。

「あなた、『僕は見た』って歌、知ってる?」

「いや。どうしたんだ、急に」

詩織は首を横に振った。「ううん、何でもない。ただ、歌詞を思い出しただけ」

―― もう「愛してる」なんて言わないで。

―― だって私は、あなたが本当に私を愛していた頃の顔を、知っているから。
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