その言葉を聞いて、真帆は眉をひょいと上げ、目にわずかな驚きを浮かべた。それで引き受けるの?「言った通り、全力で私の足取りを隠して」玲奈は内心不安を抱えながらも、ここまで来た以上ほかに選択肢はなかった。「蒼海市を出たら、あの人が誰か教える」柚香「いいよ」玲奈はとにかく早く離れたかった。「遅くても来月2日には出る。その前にお金、いつ渡してくれるの?」柚香「お金?」玲奈「車の中で言ってた十億」柚香「いらないって言ってなかった?」玲奈は深く息を吸い、あのときの自分を殴りたい気分だった。柚香に了承させるためとはいえ、完全に判断を誤った。「じゃあ、あなたの人に準備させて」玲奈はそれ以上は言わなかった。「出る日に連絡する」柚香はあっさりと一言。「わかった」玲奈は念を押すように呼びかけた。「柚香」柚香「なに?」電話越しでは柚香の表情は見えない。それでも念のため、玲奈はもう一言付け加えた。「『全力で』っていうのは、あなた一人でどうにかするって意味じゃない。使えるものは全部使って。真帆でも、怜人でも、あなたのお母さんでも」柚香は何も答えず、そのまま電話を切った。ツーッという切断音が響く。玲奈は再び感情を押し殺した。こんな展開になるとわかっていれば、もっと早く井上先生のところへ行って、全部片づけておくべきだった。あの想定外の出来事さえなければ、彼女は一生、遥真のそばにいられたのに。柚香に嫌な思いをさせながら、同時に一生の富と地位、そして権力者の庇護まで手に入れられたはずだった。けれど、後悔してももう遅い。やり直す機会なんてない。柚香は、玲奈が今もそんなことを考えているとは知らない。電話を切ったあとも気にする様子はなく、いつも通り食事を続けていた。真帆が言う。「玲奈って、頭いいのか悪いのか分かんないよね」柚香は少し考えてから答えた。「確かに、判断しづらいね」「あなたに助けを求めるなんて、何考えてるんだか」真帆は当時のことをはっきり覚えている。「大学のときあんなことしておいて、よく頼めるよね」「まともな神経してたら、そもそも他人の身分なんて奪わないでしょ」柚香は思う。本当の「命の恩人」は気の毒だと。この件は柚香に大きな影響を与えてはいなかった。食べて、飲んで、いつも通り。安江と陽翔が戻ってきた
Read more