遥真は彼に一言だけ言い放った。「いっそ君が先に仁也と付き合ってみれば?」「なんで僕の話になった?」時也はすぐに距離を置きつつ、話題を変えた。「それより、あの隼人、あんなに動いて何がしたいんだ?」「さあな」遥真は人のいなくなったドアの方にちらりと視線をやった。「俺に神崎家の事業をもっと取らせたいのか、あるいは何か一緒にやりたいことがあるのかもな」「協力したいって言っといて、先に人の息子に手を出すとか、普通じゃないだろ」時也は理解できない様子だった。遥真は説明しなかった。隼人は実権が少なく、家でも兄に抑え込まれている。そこから上に行くのは簡単じゃない。陽翔の件も、おそらく彼のやけくそな一手だ。「恭介」「はい、社長」恭介はいつでも動けるようにしていた。「修司に電話を入れろ」遥真の目がわずかに鋭くなる。「蒼海市の支社はしばらく俺が預かる。京原市の方はあいつに任せるよう伝えろ」「承知しました」柚香がここに住むと決めた以上、しばらくはここで彼女に付き添うつもりだった。彼女が戻る気になれば、その時に一緒に帰ればいい。もし一生戻らないと言うなら、陽翔が小学校に上がったあと、少し強引な手を取るしかない。「こっちにいる間、玲奈が来たらどうするつもりだ」時也が釘を刺す。「彼女、じっとしてられるタイプじゃないぞ」「来てから考える」遥真の目がわずかに深くなる。その頃、玲奈はすでに動いていた。ただし、相手は遥真ではなく柚香だった。柚香はまだ家に着く前に、見知らぬ番号から電話を受けた。口を開く前に、向こうが先に言った。「話があるの。切らないで」柚香はためらいなく切った。玲奈はまたかけてくる。柚香はまた切る。ブラックリストに入れようとしたとき、玲奈からメッセージが届いた。【陽翔のことでも聞きたくない?】少し迷ったその隙に、また電話がかかってきた。前のこともあって、柚香は陽翔のことにはいつも以上に敏感になっていた。「何の用?」端的に聞く。「その前に、ひとつ条件を出したい」玲奈の声はいつになく真剣だった。「言って」玲奈は一気に言い放った。「遥真に十億出させて。そうしたら私は京原市を離れて、一生戻らない。恩のことも持ち出さないし、もう彼に何も求めない。どう?」「私には関係ない」柚香は即答した。
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