修司が柚香へ視線を向ける。相変わらず、落ち着いた上品な雰囲気をまとっていた。「久しぶりだね」「昔話をしに来たわけじゃないでしょう」柚香はいつも通り、まっすぐに言った。「お母さんから、私に用があるって聞きましたけど。何ですか? 」「遥真が倒れたのは知ってるか?」修司が尋ねる。「知ってます」「帰って、あいつに会ってやってくれ」「もう離婚してますから」柚香は誰に対しても同じ言葉を口にする。感情は少しも見せなかった。「来る場所、間違えてますよ」「あの時、取引したときに、君はあいつの命を見逃すって約束したはずだ」修司は過去の話を持ち出した。口調は穏やかで、焦る様子もない。「今日は、その約束を果たしてもらいに来た」「あの時、私たちは自分で出て行ったんです」「そうだな」「だったら取引は成立してません」「取引が成立するかどうかは、私が約束を守ったかどうかだ。君が実際に私の助けを借りたかどうかは関係ない」修司は静かに言い直した。「そのくらい、青葉医療の社長なら分かるだろ」柚香にも分かっていた。しかし、修司の目的がそんな単純だとは思えない。「遥真、もう長くない」修司が不意にそう言った。柚香の瞳が揺れる。「そんなはずないです」考えるより先に、否定の言葉が飛び出していた。「君が戻らなければ、あいつは年を越せない」修司は容赦なく現実を告げる。「離婚してからの一か月、あいつはひどい状態だった。毎日ちゃんと食べて、夜も時間通りベッドには入ってた。でも食べたものは全部吐いて、まともに眠れた日なんてほとんどない」柚香の胸がぎゅっと締めつけられる。修司は彼女を見つめた。「あいつは生きようとしてる。でも精神も感情も、自分じゃコントロールできなくなってる。あいつ、病院が大嫌いなのは知ってるだろ。でも自分から精神科に行って、睡眠薬を処方してもらった。その間、一度倒れたことがある。意識が朦朧としてる中で『柚香』って呼んでた。何て言ってたと思う?」柚香は顔を上げた。唇をきゅっと結んだまま、何も言わない。「柚香に心配かけちゃだめだ。ちゃんと良くならないとって」そこまで言った修司の目には、いつもの計算高さはなかった。ただ弟を見守る兄としての、複雑な感情だけが残っていた。その言葉は、まるで鋭い刃のように柚香の胸へ突き刺
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