蓮司が話を通していたおかげで、柚香は何の制止も受けずに神崎グループの社長室へ通された。芽衣がコーヒーを二杯運んでくると、二人が話しやすいように静かに部屋を出ていく。「覚悟は決まったか?」蓮司が口を開いた。柚香は頷く。「はい」「これが能力テストの課題書だ」蓮司は余計なことは言わず、書類を一部差し出した。「君の任務は、この会社を立て直すこと。正常に運営できる状態まで戻して、純利益二億円を出す。社員の離職率も基準内に収める必要がある」柚香は受け取り、数ページめくった。会社の体制は整っていて、部署構成もシンプル。社員数は数十人ほどで、主な事業は各病院向けの医療システム開発。ただ、この業界にはこれまで関わったことがなかった。「一応言っておくが、君は正式に神崎家の教育を受けていない」蓮司は感情の薄い視線を向けたまま淡々と言う。「今ならまだ引き返せる。家に戻れば、これまで通り毎年二十億は渡す」「人を雇うのは自由ですか?」柚香は確認した。蓮司は薄く口を開く。「自由だ。注意事項は資料に書いてある」「つまり、会社の純利益が二億円に達した時点で課題クリアってことですね」「そうだ」柚香はさらに確認する。「達成したその日に、神崎グループの株式20%を、約束どおりの価格で私に譲渡してくれるんですよね?」「その通りだ」「分かりました」柚香は資料を閉じた。頭の中では、すでに大まかな計画が組み上がり始めている。「そのときになって約束を反故にしないでくださいね」蓮司は芽衣を呼び、彼女を見送らせた。遠ざかっていく背中を眺めながら、普段ほとんど表情を変えない彼の顔に、珍しくわずかな重さが滲む。しばらくして、彼はスマホを取り出し、和雄に電話をかけた。「課題は渡した」「そうか」和雄は蓮司を信頼している。「しばらくは、君の父親と拓哉のほうを見張っておけ。裏で余計な真似をされちゃ困る」「ルール上、外部要因の介入があってもこちらは手を出さない」蓮司は静かに念を押した。「それも試練の一部だ」和雄は何か言いかけた。だが口を開く前に、蓮司の少し冷えた声が続く。「俺も、涼介も、隼人も、同じ条件だった」「君たちは神崎家で育った男だ。当然だろう」和雄は眉を寄せる。「でも、柚香は女の子なんだ……」「おじいちゃん」蓮司が言葉を遮
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