「ん?」柚香は穏やかな表情で顔を上げた。「社長はしばらく目を覚まさないと思います」恭介はいつも通りの態度だったが、その口調には少し気遣いが混じっていた。「先に自宅へ戻って休んでも大丈夫ですよ。時間があるときに、また様子を見に来ればいいので」柚香は少し意外だった。てっきり、自分に二十四時間ここで付き添っていてほしいと思われているものだと思っていた。「それと、こちらではいくつかの病院が入札を募集しています」恭介はその情報も伝えた。「挑戦してみてもいいかもしれません」柚香は視線を上げた。恭介はすぐに説明する。「ご安心ください。社長との約束もありますから、私は先方に口利きなどしていません。案件を取れるかどうかは、あなたの提案書と交渉次第です」「ありがとう」柚香は礼を言ったが、その態度はどこかよそよそしかった。蒼海市にいた頃から、京原市にも案件があることは知っていた。だが、こちら向けの提案書は一度も作っていなかった。理由は単純だ。こういう案件は、入札から契約獲得まで何度も出張を繰り返さなければならない。京原は広すぎるわけでも狭すぎるわけでもない。運が悪ければ、遥真と鉢合わせする可能性もあった。けれど今はもう、ここへ来ている。なら、一度挑戦してみるのも悪くない。もし大きな案件を取れれば、新しい案件を探し回る必要はなくなる。今抱えている二つを終わらせるだけでいい。仮に小さな案件だったとしても、もう一つ小規模案件を受ければ十分だ。「何か力になれることがあれば、遠慮なく言ってください」恭介は言った。「京原市なら、社長の力でどうにでもできますから」「結構よ」柚香は断った。今回のことは、正々堂々と勝ちたい。拓海たちに何一つ文句を言わせたくない。もし遥真や恭介が関われば、きっと彼らは『身内の力を借りた』だの『コネを使った』だのと言い出す。そうなれば面倒が次々と降りかかってくる。「恭介!」突然、時也が声を張り上げた。「上の階も下の階も、ボディーガードを全員呼べ!」今日はどうしても、この慎吾という男を懲らしめてやらなければ気が済まない。本当に腹が立つ。柚香の部下だから、自分が手を出せないとでも思っているのか。「百人呼んできても、たぶん勝てませんよ」慎吾は落ち着き払った口調で、いちばん腹の立つことを言った。「敵を
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