All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 401 - Chapter 410

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第401話

健吾も、不機嫌そうな顔をしていた。自分たちは正真正銘の恋人同士なのに、なんで豪が来た途端、邪険にされなきゃならないんだ?そう思うと健吾は杏奈の手を取り、不満げに彼女の指先をいじった。一方、振り返った杏奈は、健吾の恨めしそうな視線と目が合うと、彼女は言った。「私の車で帰って。それで、明日また迎えに来てくれる?」それを聞いて健吾の目に、ぱっと喜びの色が浮かんだ。「ほんとに?」「運転手になりたいんでしょ?ちょうどいいチャンスじゃない、どうする?」「もちろん!」こうして車のキーを受け取った健吾は、まるでお菓子をもらった子供のように喜んだ。彼はにこやかに、豪の方を見た。「もう遅いので、これで失礼します。ゆっくり休んでください」そう言って、健吾は得意げに、軽やかな足取りで車に乗り込むと、そのまま走り去っていった。杏奈は、彼が運転する車が見えなくなるのを見送ってから、豪の方へ歩み寄った。「ごめん、お兄さん。さっきスマホの充電が切れちゃって。午後はバタバタしてて、気づかなかったの」杏奈がしょんぼりと言うと、それまで不機嫌そうだった豪の表情も和らいだ。「気にするな。さあ、家に入ろう」杏奈は豪の後について、エレベーターに乗り込んだ。てっきり叱られると思っていたのに、豪は少しも杏奈を責める素振りを見せなかった。それどころか、彼女にお腹は空いていないか尋ね、夜食まで用意してくれていた。豪が用意するのはきっとまたあっさりした食べ物だろうと思うと、杏奈は夜食を食べたい気持ちもすっかり失せてしまった。だが、彼女は首を横に振ろうとすると、ふと豪の期待に満ちた眼差しに気づいたから、彼をがっかりさせたくなくて、杏奈はこくりと頷いた。豪に続いてダイニングに行くと、そこに他の三人の兄たちも揃っていた。「杏奈、おかえり。さあ、こっちへ座って」啓太がすぐに駆け寄ってきて、杏奈をダイニングテーブルの席へと案内した。それは、杏奈の想像とは全く違う光景だった。ダイニングテーブルには、商店街の屋台で売っているような食べ物がずらりと並んでいた。串焼き、唐揚げ、たこ焼き……それを見て、杏奈は食欲をそそられ、ごくりと唾を飲み込むと、空に視線を向けた。「私のために用意してくれたの?」彼女が何を心配しているのか察
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第402話

久保夫婦は橋本グループを訪れたが、案の定、受付で止められてしまった。どんなに杏奈の名前を出しても、受付の人は二人を通してくれなかった。すると、久保夫婦は思わず焦ってしまったのだ。そこへ息子の圭太から電話がかかってきてから、椿が出て言った。「圭太、橋本社長に会いに来たんだけど、全然会ってくれないのよ」それを聞いて、電話の向こうで圭太は少し間を置いてから、落ち着いた声で言った。「お父さん、お母さん、もう京市に戻ってきて。俺に会社を立て直すいい方法があるんだ」「本当なの?」圭太は、はっきりと、「ああ」と答えた。椿はそれを聞いて、ほっと胸をなでおろした。それから、二人はそれ以上橋本グループに長居することなく、京市へ戻る飛行機のチケットを取った。一方、真奈美はその知らせを知ってはいたが、久保家のごたごたを気にする余裕はなかった。彼女の頭の中は、竜也が杏奈に見せた気遣いでいっぱいだった。それはまるで、竜也がまだ未練があるように感じたからだ。でも、竜也が好きなのは自分のはずなのに。そう思って真奈美がホテルのソファに座っていると、竜也がけだるそうに起きてきたのだ。そして、彼はリビングにいる真奈美にちらりと目を向けたが何も言わず、キッチンへ行って水を一杯飲んだだけだった。それを見た真奈美も、昨日のことについてそれ以上竜也を問い詰めなかった。聞きたくない答えが返ってくるのが怖かったからだ。「竜也さん、うちの会社のこと、どうにかならないかな?」彼女は竜也の前に歩み寄り、甘えるような声で言った。しかし、竜也は、かつて久保夫婦が杏奈にしてきた仕打ちを思い出して、たとえ今、会社を助ける力があったとしても、手を貸す気にはなれなかった。彼は水を一口飲むと言った。「真奈美、中川グループも今、自分のことで手一杯なんだ。助けたくてもどうしようもない」真奈美も、もとから竜也が助けてくれるとは思っていなかった。中川グループは渉が亡くなった後、一度大きな打撃を受けていた。そのことは竜也から聞いていたから。ただ、あの日に竜也が杏奈を気にかける様子を見てから、彼だけに頼るのは危険だと感じていた。久保家は、やはり真奈美の最後の砦なのだ。そう思うと彼女も、久保家のために何か手を打たなければと考えた。「そっか……分かった
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第403話

パラパラとめくると、適当に一つの生地を指さした。「じゃあ、これで」杏奈は健吾が指さしたものを見た。それは、ちょうど彼女が考えていたものと同じだったから、杏奈はうなずいた。そして、書類を片付けて、彼女は席を立とうとした。すると、健吾は慌てた。「もう帰るのか?」「仕事の話は終わったでしょ。他に何か用でもあるの?」「仕事の話は終わっても、俺たちの話はまだだろ?」健吾は不機嫌そうにうつむいたまま、銀色の髪が彼のまぶたに影を落とし、明らかに拗ねている様子だった。すると、杏奈はソファに座り直し、健吾の顔を覗き込むようにして聞いた。「忙しくないの?」「忙しくない!」彼がそう言った途端、コンコンとノックの音がして洋介が入ってきた。「社長、会議室の準備ができました。あと十分です」そう言われ健吾の顔が、見る見るうちに険しくなった。仕事なんて、くそくらえだ。明日から、父に会社のことを擦り付けてやると健吾は心の中で思った。一方、健吾から放たれる冷たいオーラを感じ取った洋介は、社長の邪魔をしてしまったと悟り、そそくさとオフィスを出ていった。それを見て、杏奈は笑いながら、健吾の頬を優しく撫でた。「もう、子供みたいに拗ねないで。仕事が終わったら迎えに来てね。二人でロマンチックなディナーでも食べに行こう」すると、「ロマンチックなディナー」という杏奈の一言で、健吾の機嫌はすっかり直った。杏奈をエレベーターまで見送ると、彼は会議室へ向かった。一方、杏奈はアトリエに戻った。アトリエの入り口に着いたところで、いきなり走ってきた子供にドンとぶつかられた。6、7歳くらいの小さな女の子で体も軽かったから、杏奈はよろけたりはしなかった。むしろ、ぶつかった勢いで女の子のほうが転んでしまい、しくしくと泣き始めた。「大丈夫?」女の子は顔中どろだらけで、汗びっしょりだった。転んでも大声で泣いたりはせず、ただひどく怯えた目で杏奈のことを見つめているのだ。それを見て、杏奈が女の子を抱き起こして、どこか怪我をしていないか確かめようとした、その時。怒鳴り声が響いた。「何してんだ!」その声を聞いた女の子は、慌てて起き上がると杏奈の服にぎゅっとしがみついた。「お姉ちゃん、あの人は人さらいだよ。知らない人なの。助けて
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第404話

崇介は男の手を掴むと、見事な背負い投げで地面に叩きつけた。すると、男は痛みに呻きながら悪態をついた。でも、分が悪いと察したのか、彼は逃げ出そうとした。しかし、すぐに崇介に地面に押さえつけられた。崇介は、野次馬をしに店から出てきた従業員たちに目を向けて言った。「手伝ってくれ!大の男が見て見ぬふりをしていられるかよ!」崇介の一声で、野次馬たちはスマホをしまうと、彼に加勢して男を一緒に押さえつけた。あとは警察の到着を待つだけだ。その間、杏奈は女の子をなだめるのに必死だった。「私のアトリエがすぐそこにあるの。中に入って少し休まない?」それを聞いて、女の子はこくりと頷いた。すると、杏奈は女の子を連れてアトリエの中に入った。それからまもなく警察が到着した。男が善良な人物でないことを確認すると、女の子も一緒に警察署に保護されることになった。そして、杏奈も、事情聴取のために警察署へ同行した。一方、崇介も杏奈に付き添おうとしたが、杏奈は橋本グループの書類を彼に手渡した。「私一人で大丈夫ですから、これを睦月さんに渡してください。最近アトリエが忙しいでしょう。二人とも大変だと思いますけど、よろしくお願いしますね」「大変だなんてとんでもないです。これだけ給料を貰ってれば、誰だってやる気が出ますよ」崇介はそう冗談まじりに言って、あっさりと書類を受け取ってアトリエに戻っていった。一方、女の子は、まだ怯えているようだった。道中も誰にも心を許さず、杏奈の袖をぎゅっと掴んで離さなかった。杏奈も、その子の好きにさせてあげた。30分後、女の子の両親が慌てて警察署に駆けつけた。「乃々香!大丈夫?怪我はない?」やって来たのは30歳くらいの女性だった。お洒落な身なりで、顔立ちも美しい。ひどく狼狽していたが、女の子の姿を見るなり感情が爆発したようだった。彼女は女の子の体を隅々まで確認した。そして怪我がないと分かると、力いっぱい抱きしめた。「よかった、あなたが無事で……もし何かあったら、あの男、ただじゃおかないんだから!」女性の隣に立っていた男性も、心配そうな顔で女の子を見つめていた。妻がさっきのことについて口にすると、彼の表情は一瞬で険しくなった。「お巡りさん、犯人をこのままただにしておくわけにはいきませ
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第405話

杏奈は笑った。「そんなに気を遣わないでください」「いえいえ、とんでもないです。娘の命を助けてもらったんですから。食事をごちそうするくらいじゃ、足りないくらいですよ」一方、乃々香も杏奈の手を引っ張って、甘えた声で言った。「ねえ、お姉ちゃん!一緒にごはん食べに行こうよ!パパとママはお金いっぱいあるんだから!なんでも頼んで、私が奢ってあげる!」そういって彼女は誇らしげに胸を張った。ここまで言われては、杏奈も断れなかった。こうして、一行は2日後に食事をするという約束をした。そして別れ際、乃々香はキラキラした目で杏奈を見つめていた。見つめられて杏奈は言った。「乃々香ちゃん、もし退屈になったら、いつでも遊びにおいで。おばちゃんはあそこの『アトリエ・シリン』で働いているから」そう言われ、乃々香はぱあっと顔を輝かせた。彼女は言った。「おばちゃんじゃなくてお姉ちゃんでしょ!おばちゃんなんていったら年寄りみたいじゃない、だってお姉ちゃんは若くて綺麗だから、大好きよ」そう言われ、杏奈は思わず笑ってしまった。だって、褒められて嬉しくない人なんていないはずだから。そして、アトリエに戻った杏奈は、もうすっかりさっきのことは忘れて、仕事に集中した。一方、睦月はすでに初稿を仕上げていて、杏奈に確認を求めた。杏奈がいくつか意見を出し、二人で修正を重ねた。今日の夜にでも、健吾に見せるつもりだ。すると、睦月は少し考えて、そのやり方に首を傾げた。「確かに健吾さんは橋本グループの決定権を持つ人ですけど、彼にデザインが分かりますか?生地の話ならともかく、デザイン画は橋本グループのプロジェクト担当者に見せるべきでしょう?」実際、橋本グループからの発注は健吾経由で受けた。その後の打ち合わせも、すべて杏奈が直接、彼とやり取りしてきたのだ。だからこそ、この案件の正式な担当者には、杏奈は一度も会ったことがないのだ。そう言われると杏奈も、睦月の言うことはもっともだと思った。しかし、健吾がデザインについて全くの素人だとも思えなかった。以前デザイン案を議論した時、彼の意見は非常に専門的で的確だったのだ。ただ、ずっと健吾と直接やりとりをしていると、コネを使っていると誤解されかねない。だから、杏奈は考えた末、今夜、健吾に相談してみることにした。
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第406話

「どういうこと?」健吾の声は、低く響いた。健吾が不機嫌そうなのを見て、杏奈は慌てて説明した。「あなたは橋本グループの社長だから、毎日忙しいでしょ?だから、制服みたいな細かいことは私が担当の方と直接話したほうがいいかな、って思って」すると、健吾は、杏奈の目に一瞬よぎった後ろめたさを見逃さなかった。彼は少し考え、ゆっくりと口を開いた。「俺と話をすると、あなたがコネを使ってるって誤解されるのを心配してるのか?」図星を突かれた杏奈は、言い訳をしなかった。「あなたの評判にもよくないと思って」この間、ネットで健吾のことが色々騒がれていたから。本当のところ杏奈も気にしていたのだ。今まで、健吾の名前がネットに出ることなんてなかった。なのに今回は、自分の悪い噂と一緒に名前が広まってしまって、杏奈も少し申し訳なく思っていたんだ。健吾は、杏奈が少しうつむいて、顔色を曇らせているのを見た。彼は黙って、指で軽くテーブルを叩くと、いつものおどけたような態度は、すっかり消えていた。一方、杏奈が顔を上げて健吾の表情を窺うと、やはり少し怒っているように思えて、何か言おうと彼女は口を開きかけたが、結局何も言えなかった。「わかった。これからは担当者と話せばいい」健吾は口を開いたが、杏奈が思っていたように怒り出すわけではなかった。むしろ、驚くほど素直に彼女の考えを受け入れた。それには杏奈も少し驚いた。「じゃあ、その担当者の方の連絡先を教えてくれる?」彼女はおそるおそる尋ねた。健吾はうなずくと、スマホを取り出して杏奈にメッセージを送った。だが、杏奈は自分のスマホに目を落とすと、黙り込んだ。画面に表示された健吾からのメッセージは、担当者の連絡先ではなかった。そこには……「俺が、橋本グループの今回の制服プロジェクト担当者だ。よろしく」すると、杏奈は再び顔を上げて健吾を見つめて、微妙な表情を浮かべた。健吾はテーブルに両手をつくと、上半身を少し杏奈の方へ乗り出した。「杏奈さん、橋本グループの責任者として、社員の士気にも関わる制服デザインはとても重要だ。だから俺が担当することで、何も問題はないはずだよ。それとも、あなたは俺がデザインのことなんて分からないと思って、話したくないのかな?」そう健吾に真剣な顔で真っすぐ見
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第407話

しかし、お店にロウソクがなかったので、杏奈は店員にお願いして、火を使わないタイプの電子キャンドルを二つ買ってきてもらった。「杏奈さん」急に健吾の口調がこんなに厳しくなったのを聞いて、杏奈はびっくりした。彼女は眉間にしわを寄せて、尋ねた。「どうしたの?」健吾は明らかに不機嫌そうだった。でも、杏奈の顔を見ると、腹の虫がすっとおさまった。「デート中は仕事の話、やめてくれないかな?」彼はぶっきらぼうに言った。でも、その耳は赤く染まっていた。まるで、はっきり言わせるなんて、雰囲気が台無しじゃないかと言わんばかりだった。一方杏奈はそれで、ようやく健吾がなぜ機嫌を損ねていたのか分かった。健吾のむすっとした顔を見て、彼女は思わず吹き出してしまった。「笑ったな!」健吾は長い腕を杏奈の前に伸ばし、彼女の両頬をつまんだ。杏奈の笑い声はぴたりと止まった。すごく、良い感触だ。そう思って健吾は、杏奈が迫力のある顔で睨んでくるのを、しばらくそのままにさせておいた。そして、彼はさらに意地悪く、彼女の頬をむにゅっとつまんだ。ついに杏奈は痺れを切らして、健吾の腕を思い切り叩いて振り払った。「もう、子供みたいなんだから」「子供ならあなたと恋愛できないだろ?」健吾はムキになって言い返した。それを聞いて、杏奈は唇を引き結び、何も言わなかった。彼と張り合っても仕方ないと思ったから。そして、あの初稿は健吾がテーブルの脇に置き、その後、食事中は誰もそのことに触れなかった。健吾は、その後の杏奈の態度にとても満足した。ご褒美に、彼女の好物を買ってあげることにした。杏奈は喜んで、健吾の腕を組み、甘い言葉をささやいた。健吾は、ますます彼女にキスしたくてたまらなくなった。そして、スナックを買っている時、健吾は杏奈の耳元に顔を寄せて何かをささやいた。杏奈ははっと顔を上げた。耳たぶは血が滴るように真っ赤だった。それから彼女は手を振り上げ、健吾の頭を叩いた。……翌日。杏奈は、ラインで健吾と生地の買い付けについて連絡を取った後、彼からのメッセージを無視した。この人、最近ふざけてばかり、そう彼女は思ったのだ。昨日の夜、健吾は下ネタばかり言ってきたから。おかげで彼へのイメージはすっかり崩れてしまったようだった
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第408話

杏奈は、昨日警察で会った乃々香の両親のことを思い出した。自分が鈴木家に迎え入れられて間もないから、乃々香のご両親は、自分が鈴木家の子だと知らないのかもしれない。だから娘と遊ばせているのだろう。一方、乃々香は杏奈のアトリエをぐるりと見回すと、彼女の隣にいた睦月に目を向けた。「お姉ちゃん、お仕事してるの?」杏奈が何かを言おうとした。でも、乃々香はとても聞き分けがよく、リュックを下ろしてソファにちょこんと座った。リュックを抱える姿は、とてもお行儀が良かった。「お姉ちゃん、大丈夫だよ。お仕事の邪魔はしないからね。終わったら、私と遊んでくれればいいから」なんて聞き分けのいい子だろう。杏奈は、なんだか申し訳ない気持ちになった。一方、この子が昨日、杏奈と崇介に助けられた子だと知っている睦月は、ただ待たせるわけにもいかないと思った。そこで、手の空いていた稜花に、乃々香の相手をするように頼もうとした。しかし、乃々香は首を横に振った。彼女は杏奈だけを見て、そばにいたがった。杏奈も、さすがに子供をずっと待たせておくのは気が引けた。それで睦月との打ち合わせを急いで切り上げると、乃々香の手を引いて近くのケーキ屋に入った。「乃々香ちゃん、好きなものを選んでいいよ。私がごちそうするからね」すると乃々香はリュックからブラックカードを取り出し、気前よく杏奈に言った。「私、お金を沢山持ってるの!お姉ちゃんが食べたいものを、私がごちそうしてあげるね!」そのブラックカードは、子供が持っていいような代物ではなかった。杏奈は乃々香の目線に合わせてしゃがみこんだ。「乃々香ちゃん、教えてくれる?このカードはどうしたの?」「パパの」乃々香は正直に答えた。「パパが乃々香ちゃんに持たせてくれたの?これで何か買うって?」杏奈は優しく問いかけた。すると、ブラックカードを握りしめたまま、乃々香は急に口ごもった。「これ……パパのお財布から、勝手に持ってきたの」「パパはそれを知ってる?」乃々香はうつむいて、小さく首を横に振った。すると、杏奈は、優しく乃々香の頭をなでた。「そっか。じゃあ、お家に帰ったらパパに返そうね。今日は乃々香ちゃんに、私がケーキをごちそうするから。好きなのを何でも選んでいいよ」杏奈の優しい言葉に、乃々香
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第409話

すると乃々香はびっくりして、口をへの字に曲げてわっと泣き出してしまったのだ。浩はまさか女の子が泣き出すとは思わず、一瞬どうしていいか分からなくなった。「浩、何してるの!」浩がどうしていいか分からずにいると、背後から叱る声が飛んできた。今までどんな時も彼に優しかった杏奈が、まさか怒鳴るなんて。そして思いがけず驚いた浩は、杏奈が乃々香のそばに駆け寄り、その子を抱きしめて優しくなだめるのを見ていた。「乃々香ちゃん、泣かないで。彼に謝ってもらうからね」そう言うと杏奈は浩の方を向き、眉間にしわを寄せて言った。「彼女に謝って」「嫌だ!」浩は意地を張って拒否した。その瞳は傷ついたように杏奈を見つめていた。パパは言っていた。パパが誰と結婚しても、自分の本当のママは杏奈だという事実は変わらないんだ。浩は真奈美のことも好きで、彼女に母親になってほしいと心から願っていた。でも、彼の心の中にはちゃんと杏奈という人のための場所があったのだ。だから、父親と真奈美が結婚しても、時間がある時にはN市に来て杏奈に会おう、と浩は思っていた。それなのに、今回来てみたら、杏奈が彼以外の子供を可愛がっているなんて。そんなの、絶対に認めない。しかし、杏奈は静かに、でもはっきりと言った。「謝って」それは決して強い口調ではなかった。でも、その静かな言葉には、有無を言わせない強い意志がこもっていた。今までは、彼女がこういう口調の時は、浩はいつもおとなしく言うことを聞いていた。今回も、例外ではなかった。浩はちらっと杏奈を見てから、乃々香の方に視線を移したが、やはり母親の持つ威圧感に負けて彼はうつむいて、乃々香に謝ろうとした。その時、後ろから真奈美の声がした。「お姉さん、あなたはもう浩くんの母親じゃないでしょ。どうして浩くんに謝らせようとするの?」自分の味方が現れた。そう思うと浩は目に涙をためると、くるりと向きを変えて真奈美の隣に駆け寄った。「ママ、この人たち、僕をいじめるんだ!」そう言って、浩は乃々香の方を指さした。でも、どうしても杏奈の方を見ることはできなかった。心の中では、まだ彼女のことが少し怖かったのだ。杏奈は自分の息子を見つめたが、心は不思議と穏やかだった。中川家を出る前に、自分が何年も育ててき
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第410話

「お姉さん、浩くんはあなたがお腹を痛めて産んだ子でしょ。よその子のために、自分の息子にそんなひどい態度をとるつもりなの?」それを聞いて、浩も不満そうだった。「そうだよ。僕はママの本当の息子で、血がつながってるのに、どうしてよその子の味方をして僕をいじめるの?」だが、杏奈は冷めた目で二人を見つめた。特に、自分の実の息子を。「本当の息子?血のつながり?」その言葉を口にしながら、彼女は皮肉な気持ちになった。「私の本当の息子は、真奈美おばさんが大好きだったんじゃないの?真奈美おばさんにママになってほしいって駄々をこねてたくせに。願いが叶ったんだから、嬉しいはずでしょ?」そう言われ、浩は少し気まずそうな顔をした。しかし、杏奈の問い詰めに、彼は返す言葉がなかった。だってそれは、全部昔自分が言ったことだったからだ。でも、昔の杏奈は、たとえ自分が悪いことをしても、こんなにきつい言い方はしなかった。そう思うと、浩はやっぱり不満だった。ケーキ屋に客はそれほど多くなかった。だから、杏奈たちのいざこざに気づく人はあまりいなかった。ただ店員だけが、忙しいふりをしながらこっそり様子をうかがっていた。すると、真奈美は、あざ笑うように杏奈を見ていた。「お姉さんったら、だんだん子どもっぽくなってるんじゃない?子ども相手に本気になるなんて」そう言って、真奈美は浩に優しい眼差しを向けて、そっと彼の手を握った。「あなたが浩くんを育てていた時は、勉強ばかりさせていたでしょ。彼を追い詰めたから、私みたいな他人を母親だって慕うようになったんじゃないの。それなのに、今さら被害者ぶらないでくれる?」それを聞いて、真奈美の言葉が心に響いたように思った浩はますます不満に感じた。そうだ。ママはいつもあれこれうるさくて、遊ばせてくれず、勉強ばかりさせていた。真奈美おばさんだけが、「勉強がすべてじゃない、子どもは遊ぶべきだ、もっと自由にすればいい」って言ってくれたんだ。だから、毎日しつこく送り迎えをしたり、食事や寝る時間まで口を出したりするママが、どんどん嫌いになっていった。自分は悪くない。杏奈がちゃんとママの役目をしなかったから、自分は彼女をこんなに嫌いになったんだ。自分は悪くない。「そうだよ!僕があなたのことが好きになれな
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