すると、真奈美は浩の手を引くと、にこやかに杏奈に視線を向けた。「浩くんはね、今日N市に来たばかりなのよ。せっかくだから、本当の母親であるあなたに会わせてあげようと思ったんだけど。でも、もうその必要はなさそうね」杏奈は、その言葉にうなずいた。「ええ、もう来なくていいわ。もともとこっちだって来て欲しいと思ってないから」そう言われ、真奈美は杏奈の言葉に、ぐっと詰まった。一瞬体がこわばり、すぐに悔しげに杏奈を睨みつけた。しかし、杏奈はまったく動じなかった。その様子はまるで、どうでもいい相手と話しているかのようだった。今の杏奈は、もう昔とは違う。以前のおどおどした態度はすっかり消えて、自信に満ちている。血色もよく、服装だっておしゃれになった。なるほど、うしろ盾ができたから、あんなに強気なのね。真奈美は杏奈の前に立つと、その瞳を見つめて言った。「橋本社長に取り入ったからって、もう安泰だとでも思ってるの?それとも、橋本グループがずっと安泰でいられると本気で信じてるわけ?」だが杏奈は、ただ冷ややかに彼女を見つめるだけで、何も言わなかった。すると、真奈美は皮肉を込めて言った。「今の幸せを、せいぜい噛みしめておけばいいのよ。どうせ長くは続かないんだから」そう言い残すと、真奈美は浩を連れて店を出て行った。去り際に、浩は思わず振り返った。そして杏奈と、そばにいた女の子に視線を送った。そして心に残っていたわずかな名残惜しさも、すぐに怒りにかき消され、彼は結局、真奈美の後について行った。こうしてケーキ屋に、また静けさが戻ってきた。そばにいた乃々香は、杏奈の手をゆさぶった。「あの子、ほんとにお姉ちゃんの息子なの?」乃々香に呼ばれて、杏奈ははっと我に返った。彼女は乃々香に多くは語らなかった。「今はもう違うの。さ、ケーキ食べよっか」そう言って杏奈は、もう一度席についた。でも、頭の中では真奈美が最後に言った言葉がずっと響いていた。どうして彼女は、まず橋本グループの名前を出したんだろう。そのあとに、今の幸せを噛みしめろなんて言ってきた。まさか、健吾の身に何か起きるっていうの?そう思った瞬間、杏奈はぶんぶんと首を振った。そして、その怖い考えを頭から追い出した。真奈美ひとりの力で、橋本グループをどうこうできる
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