All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 491 - Chapter 500

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第491話

「橋本社長、高橋さん、鈴木社長、別のテーブルをご用意しますよ」この席は会場の隅の方だ。N市でも名のある彼らをこんな場所に座らせるわけにはいかない。「福田社長、今夜は福田会長のお祝いの席ですから。私たちはお祝いにきただけです。どうぞお気遣いなく。ここで結構ですよ」雫は手を振りながら言った。「でも、福田会長はまだお見えにならないのですね?」「もうすぐ来られますよ」そう言って潤平も彼らに無理して席を移動させようとはせず、腕時計に目を落とすと、宏香に言った。「おじいちゃんがもうすぐ着かれる。さあ、準備に行こう」宏香はうなずき、しゃがんで乃々香に話しかけた。「乃々香、おじいちゃんのところに行くわよ。また後で遊びに戻ってこようね、いい?」すると仕方なく乃々香は口を尖らせ、杏奈の手を離した。彼女は少し不満そうだったが、今日は祖父の誕生日だから、一緒にろうそくの火を消す約束をしたのを思い出したのだ。すると、彼女は杏奈を見上げて言った。「お姉ちゃん、絶対に待っててね。後でまた来るから。それに、渡したいプレゼントもあるの」「私にプレゼント?」乃々香は力強くうなずいた。「うん。お姉ちゃん、ここで待っててね」「ええ、わかったわ」それから乃々香は、ようやく名残惜しそうに両親と一緒に行った。彼らが行ってしまうと、杏奈は豪の方を向いた。「お兄さん、どうやら彼らは別に私たちを邪険に扱うつもりはなさそうね」豪はうなずいた。「さっきの福田社長からも敵意は感じられなかったな。本当に、ただお祝いの席に招かれただけみたいだ」雫が口を挟んだ。「あなたたちの家と福田家は何年も対立してきたでしょ。今回、福田社長から招待状が来たのは、きっと福田会長のご意向よ。ご健在なうちに、二つの家の間の溝を埋めたいのよ、きっと」それを聞いて、健吾も杏奈のグラスに水を注ぎながら言った。「どのみち、あなたたちの家と福田家のいざこざは前の代の話だ。この代まで引きずる必要もないだろう」杏奈は健吾が差し出したグラスを押し返した。「いらない」健吾は眉間にしわを寄せた。「唇、乾いてるじゃないか。喉は渇いてないのか?」そう言われ杏奈は唇をきゅっと結んだ。たしかに、少しひりつく感じがした。それで彼女はグラスを受け取り、一口飲んだ。するとグラスの
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第492話

杏奈と豪は、修の予想外の行動に、二人ともあっけにとられた。そもそも、修から招待されたこと自体を想定していなかったので、その上まさか自ら若い二人のためにケーキを持ってきてくれるなんて、二人とも思っていなかったから。しかも修のにこやかな表情は、決して演技には見えなかった。むしろ、本当に孫を可愛がる老人のような優しさがあった。そう感じて杏奈と豪はケーキを受け取ると、修にお礼を言った。そして、修は杏奈に視線を落とした。その少し濁った瞳には、どこか懐かしそうな色が浮かんでいるのだった。「君は、君の祖母に本当によく似ているな」杏奈は豪から、修と自分たちの祖父母との過去の話を聞いていた。だから、じっと見つめられると、なんだか少し気まずい気持ちになった。彼女は顔を少し傾けて、豪の方を見た。すると、豪が口を開いた。「福田会長、もし祖父母が生きていたら、今日、きっとお祝いに駆けつけていたと思います」その言葉で、修はようやく杏奈から視線を外した。彼は懐かしむように、夜の闇の向こうへ視線を向けた。「そうだな。もし二人が生きていたら、我々両家もこんなことにはならなかっただろう」しばらくして、修は視線を戻すと、豪を見た。「少し来てくれ。君と、二人で話がしたい」豪は修について行った。そこへ乃々香もケーキを持ってきて、杏奈に差し出した。「お姉ちゃん、ケーキどうぞ」これで杏奈の手元には、ケーキが二つになった。彼女は困ったような顔で言った。「ごめんね、ちょっと食べきれないかも」さっきホールでデザートをたくさん食べたばかりで、もうお腹がいっぱいだったのだ。そう言われ、乃々香も無理強いはせず、代わりにそのケーキを健吾の前に置いた。「じゃあ、意地悪なお兄ちゃんにあげる」健吾はその呼び名を聞いて、眉をぴくりと動かし、乃々香を見下ろした。「なんで俺が意地悪なお兄ちゃんなんだ?」乃々香は何か思い出したようで、腰に手をあてて健吾を睨みあげた。「だって、あなたは意地悪だもん!この前、パパに電話して、私を無理やり連れて帰らせたでしょ。お姉ちゃんと遊ばせてくれなかった!」小さな女の子は根に持っているようで、まだあの時のことを覚えていたのだ。しかし、健吾は自分が悪いとは少しも思っていなかった。彼はわざと悪戯っぽく
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第493話

どういうことだ?杏奈と、鈴木家。まさか、杏奈は鈴木家の娘で、豪は彼女の兄だというのか?すると竜也の頭の中で、ぼんやりしていた何かが、一本の線となって繋がった。そういえば、京市で杏奈と鈴木家の三兄弟に会ったことがある。あの時、杏奈のことで、鈴木家の兄弟たちは自分に食ってかかってきたな。N市でもそうだ。杏奈に会うたびに、自分は彼女と鈴木家の兄弟の関係を誤解していた。今思えば、杏奈が鈴木に改姓したのは、過去と決別するためのヤケっぱちな行動ではなかった。彼女はもともと、鈴木家で行方不明になっていた娘だったのだ。そう思うと竜也は頭がガンガンして、そんな事実を受け入れたくなかった。しかし隣に座っている真奈美は、周りの声を聞いても顔色は悪いものの、少しも驚いた様子はなかった。その様子から、真奈美はおそらくこのことをとっくに知っていたのだろうと、彼は察した。竜也は真奈美に尋ねた。「とっくに知っていたのか。杏奈が鈴木家の人間だってことを?」不意に質問されて、真奈美はすぐには反応できなかった。ここ最近、竜也が自ら彼女に話しかけることは珍しかったからだ。しかも、それが杏奈のこととなればなおさらだった。それで真奈美はとっさに答えた。「ええ、知ってたわ。それに、あなたにも言ったはずよ」「いつ俺に言ったんだ?」「あなたが私を家から追い出した日よ。私は聞いたじゃない。彼女がどうして鈴木になったか知ってるって。でもあなたは平然としていたから、てっきり知ってるのかと思ったわ」そう言って真奈美は、竜也が話しかけてくれたこの機会を逃さなかった。これは、彼との距離を縮める絶好のチャンスだと思ったのだ。彼女はそれまでの強気な態度を改め、か細い声で答えた。竜也はあの日を思い出した。確かに、真奈美はそんなことを尋ねてきた。だが、その時の彼は、その言葉をまったく気に留めていなかった。そもそも、杏奈が鈴木家の人間だなんて、考えたこともなかったからだ。もし杏奈が鈴木家の人間なら、会社を立ち上げるにしても、健吾の助けを借りずとも、後ろには豪がいる。彼女には今、十分な後ろ盾がある。だからあの日、自分の出資をあんなにもきっぱりと断れたのか。そこまで考えた竜也は、屈辱で顔が真っ赤になった。杏奈が鈴木家の人間なら、どうして今まで黙っ
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第494話

すると健吾も杏奈の真似をして、彼女の耳元でそっと囁いた。「たぶん、福田会長が彼に何か言ったんだろう」杏奈は呆れたように健吾を見た。もちろん修が関係しているんだろうけど、自分が話したいのは「何を」言ったかってことよ。「まだ残る?それとも帰る?」健吾が小声で尋ねた。杏奈が答えようとした瞬間、横から手をくいくいっと引かれた。彼女が下を向くと、乃々香のくりくりした大きな瞳と視線が合った。「お姉ちゃん、プレゼントがあるの」杏奈は、首をかしげて健吾を見た。「もう少しかかるみたいだから、待っててくれる?」それから杏奈は乃々香に手を引かれるまま、庭を抜け、邸宅の外にあるあずまやを通り過ぎ、母屋の西に500メートルほど行ったところにある、独立した離れに入った。「お姉ちゃん、ここはね、私とパパとママが住んでるところなの。プレゼントは部屋にあるから、今取りに行こう」離れには使用人がいて、乃々香が客を連れてきたのを見ると、急いで明かりをつけてお茶の準備を始めた。杏奈が乃々香について彼女の子供部屋に入ると、既に使用人がお茶を運んできてくれた。杏奈はお礼を言うと、乃々香が自分の小さなクローゼットに入っていき、何やら秘密めいた様子でピンク色の箱を取り出すのを見ていた。そして、彼女ははにかみながら、そのピンクの箱を杏奈に差し出した。「お姉ちゃん、開けてみて」杏奈がピンクの箱を開けると、中には一足のバレエシューズが入っていた。杏奈は、とても驚いた。彼女は乃々香に尋ねた。「乃々香ちゃん、どうして私にバレエシューズを?」「ネットで、お姉ちゃんが踊ってる動画を見たの」乃々香はその動画を思い出したのか、キラキラした瞳を興奮で輝かせた。「動画のお姉ちゃん、すごく綺麗だった!たくさんの人がいたのに、私、一目でお姉ちゃんを見つけられたの。ママは、お姉ちゃんの踊りは羽化したばかりの蝶みたいだって言ってたけど、私はね、花から花へ飛び回る蝶々みたいだと思った。とってもきれいで、とっても素敵だった」杏奈は、乃々香が見たのがどの動画なのか、見当がついた。きっと、潤平が自分のことを調べていた時に、偶然見てしまったのだろう。あの動画は、先生が手がけたダンスツアー公演の大きな演目だった。自分はその中で主役を任され、完璧な演技をする
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第495話

それから、福田家を後にしても、杏奈は、帰り道ずっとそのピンクの箱を、まるで宝物のように大切に抱えていた。健吾は、杏奈が乃々香の誕生日にダンスをすると約束したのを知って、少し機嫌を損ねていた。後部座席に並んで座ると、健吾は杏奈の顔をのぞき込んだ。「じゃあ、俺は?」杏奈は彼に視線を向けて、不思議そうに尋ねた。「どうかしたの?」「俺にも、ダンスを見せてくれるって言っただろ」「あなたが見たいって言ったんじゃないの」「でも、約束は約束だろ」杏奈は気づいた。この人、乃々香にやきもちを焼いているんだ。こんな子供相手にやきもちを焼くなんて、健吾って本当に子供っぽいんだから。そう思って彼女は笑ってピンクの箱を横に置くと、健吾の手を取って優しく言った。「準備が必要だって言ったでしょ?少しだけ時間をちょうだい?」健吾はその答えに、まあ満足したようだった。彼は杏奈の手を引いて、そのまま自分の腕の中に抱き寄せた。……一方、福田家を出ると、竜也はすぐに裕也に電話をかけた。「杏奈がN市にいた間に、何があったのか調べろ」以前は、杏奈は何の後ろ盾もないと思っていた。だから苦労すれば、自分の元に戻ってくるはずだと竜也は確信していた。かつて、杏奈が自分の助けを求めてきた時のように。でも、今は違う。杏奈は健吾と付き合っているだけじゃない。N市でアトリエを立ち上げ、さらに、彼女には家族ができた。杏奈の周りには、彼女を愛し、支える人たちがたくさんいる。このままでは、自分のところに戻ってくるはずがない。そう思うとパニックにも似た感情が、心の中から湧き上がってくるのだった。竜也は、今ようやく気づいた。杏奈が自分の元へ戻ってくるというのはただ自分の過信でしかなかったのだ。杏奈は、もう自分を必要としていない。いやだ。そんなこと、絶対に認めない。杏奈とは8年間も連れ添ってきたのだ。そんなに簡単に、気持ちがなくなるわけがない。そう思いながら彼は車のドアを開けて、乗り込んだ。真奈美が追いかけてきて竜也の名前を呼んだ。でも、彼は全く気づかずに、そのまま車を発進させた。一方真奈美は冷たい夜風に吹かれ髪や服の裾が風に揺れながら、広い福田家の門の前で、彼女の姿はひどく寂しそうに見えた。……その頃、遠く京市にい
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第496話

そう言われ勇人は何も言わなかったが、心の中では、会社を辞めることを考えていた。久保グループは、とっくに抜け殻同然だった。自分の給料さえまともに払われないのに、立て直しなんて夢のまた夢だ。ここ数日で、勇人も気づいていた。久保グループが、何者かに狙われているのだと。しかも橋本グループが主な攻撃者で、それもかなりあからさまなやり方だった。実は、杏奈と健吾の交際がネットで話題になった時から、勇人は、健吾が彼女の復讐に協力しているのではないかと察していた。それに加えて、どうやら鈴木グループも陰でそれに加担しているようだった。久保グループが失った契約のいくつかも、鈴木グループが横やりを入れたせいだったから。杏奈がN市で、「鈴木」と名乗るようになったことを考えると、鈴木グループの動きは、彼女の改姓と関係があるに違いない。勇人はそう推測した。もしかしたら、杏奈は本当の家族を見つけたのかもしれない。その家族というのが、鈴木家の兄弟たちなのだろう。でも、どんな事情があろうと、自分のような雇われの身には関係のないことだ。家族を養うためには、彼も安定した仕事が必要だった。久保グループが十分な給料を払えないのなら、これ以上傷が深くなる前に見切りをつけるしかない。勇人が退職を申し出ようとした、まさにその時だった。圭太がすっと立ち上がった。「今、辞めたいと騒いでいる社員は多いか?」「……はい」「少し釘を刺してこい。会社と運命を共にする社員には、久保グループが再起した時に相応の報酬を約束する。だが、今ここで裏切るような人間が、この京市で生きていけると思うな」それを聞いて勇人は一瞬にして、退職の話を切り出す勇気をなくした。圭太は昔からやり口が手荒な男だ。彼のような財閥の御曹司が、一人の人間を社会的に抹殺することなど、朝飯前だろう。それから勇人が出ていくと、圭太のスマホが鳴った。真奈美からだった。圭太はもう、この妹にうんざりし始めていた。久保グループの経営が傾いてから、真奈美は家のことなど少しも考えず、竜也との結婚と、芸能界での成功ばかりを夢見ていた。それが、竜也に捨てられた今になって、やっと家族にすり寄ってくるのだから。そう思って、圭太は通話ボタンを押した。「お兄さん、すごく大事な話があるの」「竜也さんが
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第497話

「さあ、どうかしら。でもこの情報は、今の久保グループには有効なんじゃないかしら」真奈美はそう言ってにっこりと微笑んで、電話を切った。一方圭太は、杏奈が健吾と鈴木家をけしかけて久保グループを攻撃させたと思うと、悔しくて歯を食いしばった。久保家は杏奈をここまで育ててやったんだ。真奈美が家に戻る前は、杏奈は久保家の令嬢として何不自由ない暮らしをしてきたのだ。その頃は家族みんな、杏奈を可愛がっていた。それなのに杏奈は恩を仇で返すように、実家に戻ったからといって、かつて育ててもらった家を邪険にするなんて。そう思って彼は内線電話を押し、勇人に言った。「N市行きの、一番早い便のチケットを取ってくれ。N市へ行ってくるから!」一方、杏奈は今日、アトリエへは行かなかった。彼女は健吾を置いて、ある大切な人との約束へ向かった。カフェ店内。杏奈が店に入ると、窓際の席に座っている先生の南の姿がすぐに見えた。彼女は目頭が熱くなるのを感じ、南に駆け寄ると、嬉しそうに声をかけた。「先生」南も杏奈に会えてとても感激した様子だった。立ち上がって彼女の手を取り、その姿を上から下まで眺め、目に涙を浮かべた。「よく来てくれたわね。本当に嬉しいわ」杏奈と南は、十年来の師弟関係だった。杏奈は幼い頃から舞踊を習っていた。南は、大勢の子供たちの中から彼女を見出し、自らクラシックバレエを教えたのだ。杏奈が竜也と結婚するとき、南はダンスをやめないようにと説得した。結婚は素晴らしいけど、自分の愛するものを失えば、人は抜け殻になってしまうから、と言った。しかし、あの頃の杏奈は、竜也と両思いだと思っていたから、自分の選択を信じていた。だが年月が経ち、南の言葉が正しかったと、彼女は思うようになった。「ごめんなさい。先生の期待を裏切ってしまいました」「ばかな子ね。あなたの人生の選択でしょ、誰に謝る必要もないのよ。私にとって、あなたはいつでも一番優秀な生徒だわ」それを聞いて、杏奈は言葉を詰まらせた。彼女は溢れ出た涙をぬぐうと、笑顔で南を支えて席に座らせた。「先生、まずは食事にしましょう。お久しぶりですし、たくさんお話ししたいです」「ええ、そうしよう」それから、注文を終えると、南は杏奈の正面にきちんと座り直し、微笑みながら彼女を見つ
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第498話

真奈美は、南の稽古場に顔を出しに来た。ついでに外にいたファンも数人連れてきて、南との関係が深いことをアピールするつもりだった。ところが、南が杏奈と一緒にやってくるのが目に入った。しかも杏奈は南と腕を組んで、楽しそうに笑い合っている。見た感じ、とても仲が良さそうだ。そう感じると真奈美は拳を固く握りしめた。杏奈は自分のアトリエ経営に専念していればいいのに。どうしてまた南に媚びを売りに来たわけ?今の彼女の体で、まさか舞台に復帰したいとでもいうのか?そう思って心の中では不機嫌になったが、真奈美はそれを顔には出さなかった。むしろ、とても手慣れた様子で南のほうへ歩み寄っていった。「先生、お稽古を見に来ましたよ」真奈美も南の生徒の一人だ。しかし真奈美がプリマになってから、南への尊敬の念も以前ほどではなくなった。だから南も、当然彼女にそれほど親しみを感じなくなっていた。「わざわざありがとうね」一方、真奈美は南の態度をよそに、笑いながら歩み寄り、親しげに彼女の手を取って甘えた。「先生、何をおっしゃるんですか。私も先生のかつての教え子ですから、会いに来るのは当たり前のことじゃありませんか。先生と後輩たちに果物を買ってきました。本当は若い子が好きそうな甘い物でもと思ったんですけど、みんなが太ったらダンスに影響が出ると思って、カロリーの低めの果物にしたんです」それを聞いて南は微笑んだ。「気を遣わせてしまってごめんね」それから真奈美はその隙に杏奈をぐいっと押しやり、自分が南と腕を組んで前に進んだ。「私も先生と一緒に、後輩たちのダンスを見させていただこうかな」すると南は頷き、振り返って杏奈に言った。「杏奈ちゃん、あなたも見て。後輩たちに何かアドバイスできることがあれば言ってね」そう言われ杏奈は南の反対側に回り、真奈美のことなど存在しないかのように振る舞った。「先生、私はもう何年も踊っていませんから。後輩たちには及びませんよ」「馬鹿なことを言わないで」南はため息をついた。「あなたは私が見てきた中で一番才能のある生徒よ。もし早くに結婚していなければ、今頃はダンサーとして大成していたはず。後輩たちはまだまだ学ぶことがあるわ。だからあなたからもアドバイスをしてあげてちょうだい」杏奈は笑って言った。「わかりました、先生」
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第499話

そう感じたファンたちはスマホから顔を上げ、南たちがいる方を見つめたが、その表情はまだ怒りに満ちていた。「あの女、すごい人と付き合ってるからって、自分に才能があると勘違いしてるんじゃない?男を頼りにのし上がったくせに、いいご身分ね」「真奈美ちゃんこそ、長年プリマの座を守ってきた実力派よ。どこの馬の骨とも分からない女が、『才能がある』だなんて、おこがましいにも程があるわ」「ちぇっ!真奈美ちゃんほどの才能なんて微塵もないくせに。今日は真奈美ちゃんのために、ぎゃふんと言わせてやらないと!」こうして彼女たちは数人で集まり、なにやらよからぬ計画を立て始めた。一方、ステージの上では、ダンサーたちがしなやかに踊り始めているのだった。杏奈は、こんなに間近で誰かが踊るのを見るのは久しぶりで、なんだか心がうずいた。一曲踊り終わると、南の前には、評価を待つ生徒たちが集まっていた。南はすぐに口を開かず、隣にいる二人の教え子の方を振り返った。「あなたたちは、何か気づいたことはある?」真奈美が真っ先に口を開いた。「後輩たちはみんな、全体的にとても上手でした。舞台としての完成度も高いです。ただ、何人かの子は、もう少し手の力加減を意識した方がいいかもしれません」そう言って、真奈美はステージにいた後輩のうち、何人かの名前を挙げた。名前を呼ばれた後輩たちは、真奈美を知っていた。前のプリマに直接指導してもらえるなんて、と大興奮で、すぐに直しますと頷いた。だが、南はそれでも意見を言わず、今度は杏奈に視線を移した。「杏奈ちゃん、あなたはどうかしら?」杏奈はセンターで踊っていたダンサーを指差した。「センターの子、怪我をしていますか?」センターのダンサー・上杉彩乃(うえすぎ あやの)は、途端に顔が真っ青になり、慌てて首を横に振った。「怪我はしてません」だが、その瞳の奥に浮かんだ動揺を、杏奈は見逃さなかった。「ダンスの動きが二箇所、違っていました。振りを忘れたのではなく、足の怪我で動きが遅れているのでしょう。一つの動きはタイミングが遅いですし、もう一つは角度がずれていました」それを聞いて南は杏奈を見て、その目に感心したような色を浮かべた。すると、真奈美は、彩乃をかばうように口を開いた。「お姉さん、このダンスを見るのは初めてでしょ
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第500話

一方舞台上にいる彩乃はさらに慌てて、言った。「明後日の公演に影響が出ないようにしますから、どうか私に出させてください!」だが、真奈美は、相変わらず厳しい表情を崩さなかった。「あなたの保証なんて当てにならないわ。舞台は舞台、少しのミスも許されないのよ。もし本当にあなたを出させて、失敗でもしたら、全責任を取れるの?」彩乃は、真奈美の立場が強いことを知っていた。彼女がこう言ったからには、本当に南が代役を立てるかもしれない。そう思って彩乃は急いで南の顔を見た。「先生、私はこのチャンスを失いたくありません。どうか、私を舞台に立たせてください。痛み止めを打って、明後日の公演には絶対に影響させませんから」南も、この状況で黙っているわけにはいかなかった。彼女は優しい眼差しで彩乃を見つめて言った。「落ち着いて。まずは、その怪我のことを教えてくれるかしら」彩乃はぐっと歯を食いしばり、ようやくバレエシューズを脱いで、右足の裏を見せた。彼女の足の裏には血が何層にも滲んでいた。さっき無理して踊ったせいで、元の傷口が開いて、血が滴り落ちているのだ。南は眉をひそめた。「一体、どうしたの?」彩乃は説明した。「荷物を整理していたら、うっかり釘がシューズの中に入ってしまって、それで足に穴が……」だが、南と、その場にいた二人は、もうことの真相に気づいていた。釘がシューズの中に落ちたなんて、ただの言い訳だ。バレエシューズはスリッパとは違う。ダンサーなら誰でも、履く前に必ず手で中を確認して、底を柔らかくしてから足を入れるものだ。もし本当に釘が入っていたのなら、履く時に気づかないはずがない。唯一考えられる可能性は、誰かが意図的に釘を靴底に固定したということ。そうすれば履くときには気づかず、うっかり履き続けていると足の裏に穴が開くことになる。彩乃を陥れようとする人間なんて、見つけるのはそう難しくない。ただ、今の問題は、足の裏の怪我が公演にとって未知の変数であり、舞台にとってはリスクが大きすぎるということだった。しかしその一方で、彩乃は南が選びに選んだ人材だ。しかも、本人にとってはこれが初舞台で、キャリアを考える上で非常に重要になる。もし舞台に立てなければ、彼女のその後の活躍に響いてしまうだろう。よほどのことがない限り、メンバーを
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