「橋本社長、高橋さん、鈴木社長、別のテーブルをご用意しますよ」この席は会場の隅の方だ。N市でも名のある彼らをこんな場所に座らせるわけにはいかない。「福田社長、今夜は福田会長のお祝いの席ですから。私たちはお祝いにきただけです。どうぞお気遣いなく。ここで結構ですよ」雫は手を振りながら言った。「でも、福田会長はまだお見えにならないのですね?」「もうすぐ来られますよ」そう言って潤平も彼らに無理して席を移動させようとはせず、腕時計に目を落とすと、宏香に言った。「おじいちゃんがもうすぐ着かれる。さあ、準備に行こう」宏香はうなずき、しゃがんで乃々香に話しかけた。「乃々香、おじいちゃんのところに行くわよ。また後で遊びに戻ってこようね、いい?」すると仕方なく乃々香は口を尖らせ、杏奈の手を離した。彼女は少し不満そうだったが、今日は祖父の誕生日だから、一緒にろうそくの火を消す約束をしたのを思い出したのだ。すると、彼女は杏奈を見上げて言った。「お姉ちゃん、絶対に待っててね。後でまた来るから。それに、渡したいプレゼントもあるの」「私にプレゼント?」乃々香は力強くうなずいた。「うん。お姉ちゃん、ここで待っててね」「ええ、わかったわ」それから乃々香は、ようやく名残惜しそうに両親と一緒に行った。彼らが行ってしまうと、杏奈は豪の方を向いた。「お兄さん、どうやら彼らは別に私たちを邪険に扱うつもりはなさそうね」豪はうなずいた。「さっきの福田社長からも敵意は感じられなかったな。本当に、ただお祝いの席に招かれただけみたいだ」雫が口を挟んだ。「あなたたちの家と福田家は何年も対立してきたでしょ。今回、福田社長から招待状が来たのは、きっと福田会長のご意向よ。ご健在なうちに、二つの家の間の溝を埋めたいのよ、きっと」それを聞いて、健吾も杏奈のグラスに水を注ぎながら言った。「どのみち、あなたたちの家と福田家のいざこざは前の代の話だ。この代まで引きずる必要もないだろう」杏奈は健吾が差し出したグラスを押し返した。「いらない」健吾は眉間にしわを寄せた。「唇、乾いてるじゃないか。喉は渇いてないのか?」そう言われ杏奈は唇をきゅっと結んだ。たしかに、少しひりつく感じがした。それで彼女はグラスを受け取り、一口飲んだ。するとグラスの
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