All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 591 - Chapter 600

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第591話

そして杏奈の声を聞いて、澪は固まった。まさか杏奈が、まだ京市にいたなんて。澪はそっと起き上がったが、自分の無様な姿を見せてしまったことが悔しくて、彼女は振り返って杏奈をキッと睨み、何か言いかけた。でも、すぐに健吾がいることを思い出すと、気持ちを切り替えて愛想笑いを浮かべて言った。「あら、鈴木さん。N市に帰っていなかったんですね。私は資料を取りに寄ったんです。ついでに健吾さんの様子も見に来てみたんです」そして彼女の言う「健吾さん」という呼び名は、なんとも甘ったるく響いた。でも杏奈が驚いたのは、澪がいつから自分にこんな愛想良くするようになったのかということだった。健吾に海外留学させられて戻ってきたら、性格でも変わったのかしら?一方、澪はミニワンピースを着ていたが、さっき転んだせいで少し服が乱れていた。だが、彼女はその乱れを直そうともせず、部屋を出ていこうとした。杏奈は声をかけた。「服、直してから出た方がいいですよ。そうじゃないと、オフィスで健吾さんに殴られたって勘違いされちゃいますからね」そう言われ澪の顔はみるみる青ざめ、口元もかすかに引きつった。「わかりました。ありがとうございます」彼女は服を整えると、部屋を出て行った。そして杏奈は健吾の方を見た。健吾はビクッとすると、すぐに杏奈のそばへ行き、彼女の手から荷物を受け取った。「何を買ってきたんだい?見せて」健吾は気まずさを隠すように目を伏せた。何が気まずいのか自分でもよく分からなかったが、さっきの光景は誤解を招きかねないものだった。誤解を招く……そう思った瞬間、健吾は荷物を置いた。中身を見る間もなく、杏奈の手を引いて自分の隣に座らせて言った。「さっきのは、彼女が足をくじいて俺に倒れかかってきたんだ。それで俺がよけたから、彼女は床に転んだだけ。変な勘ぐりはしないでくれ」「別に何も勘ぐってないけど」杏奈は不思議そうに健吾を見た。「あなたのこと、信じてるわよ?何をそんなに焦ってるの?」そう言われ健吾は杏奈の手を握ると、彼女をぐっと抱き寄せた。「俺たちの間に誤解が生まれるのは嫌なんだ。それに俺がちゃんとしなかったことで、あなたに嫌な思いをさせたくないし」それを聞いて杏奈は微笑んで、健吾の指先をつまんだ。「あなたの言うこと、ちゃ
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第592話

それは圭太の声だった。しかしそう言われ杏奈は、かすかに眉間にしわを寄せた。祖母が、自分に何かを残したって?祖母が唯一残してくれた形見のネックレスは、とっくに真奈美に壊されてしまったのに。今さら、他に何があるっていうの?こんな手に乗るわけにはいかない。「もう久保家とは縁を切ったし、あなたたちとは関係ない。おばあさんが残した物があるなら、そっちで持っていればいいでしょ」それを聞くと、圭太の声はだんだんイライラし始めた。「杏奈、なんだかんだ言っても、おばあさんはお前のことを一番可愛がってただろ?倉庫を整理してたら、おばあさんのノートが出てきたんだ。お前に残したものがあるって書いてあった。もしおばあさんのことをまだ気にしているなら、明日の午後に家に来い。来ないなら、燃やしちまうからな。こんなもの持ってても気分が悪いし」そう言い放つと、彼は杏奈の返事も聞かずに一方的に電話を切った。すると杏奈はスマホを置いた。そして圭太の声が、頭の中で何度も繰り返された。確かに祖母は、株やネックレスを自分に残してくれた。でも、それは全部、久保家の人たちに取り上げられてしまった。もう久保家とは縁を切ったのだから、もし本当に祖母が何かを残していたとしても、あの人たちが素直に渡してくれるはずがない。それなのに圭太は、あんなに不機嫌な様子で、早く帰ってこいなんて。絶対に、何か裏があるはずだ。久保グループのことは全く気にしてこなかった。今の状況を知るには、事情に詳しい人に聞くしかない。杏奈は立ち上がると、健吾の方へ歩いていった。健吾が仕事に集中しているのを見て、杏奈はためらわず彼の方へ回り込み、その顔を両手でぐいっと自分の方に向けさせた。「ちょっと時間をちょうだい。聞きたいことがあるの」杏奈の手に両頬を挟まれた健吾の唇が、少し尖って可愛らしく見えた。杏奈は、思わずその頬を何回かむにゅっと揉んでから手を離した。健吾は尋ねた。「なんだ?」「久保グループって、今何かあったりしている?」健吾も、さっきの杏奈の電話を聞いていたらしい。彼は尋ねた。「久保家から電話があったのか?」杏奈は頷いた。「祖母が私に何か残したものがあるから、明日の午後に久保家まで取りに来いって」健吾は鼻で笑った。「彼らがそん
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第593話

一方、竜也は、テーブルの上に食べかけのものが残っているのに気づき、そして部屋に残された甘い香りにも気が付いた。どうやら、杏奈もここにいるに違いない。そう思って、竜也は険しい顔つきでソファに腰を下ろした。そして健吾が近づくのを待ってから、竜也は口を開いた。「浩は、あなたのところにいるのか?」「こっちも何度も押しかけられて、正直迷惑なんだ」健吾は質問には答えず、はぐらかした。だが、竜也は、健吾が怒っているのを感じ取った。しかし、彼はそんな健吾の怒りを意にも介さず言った。「杏奈は、浩の母親なんだぞ。浩が母親に会いたがるのは当たり前のことじゃないか?」そう言って竜也はてっきり健吾がすぐにでも怒り出すだろうと思ったのだ。だが、意外なことにも彼はとても落ち着いていて、その整った顔の表情が変わることはなかった。「ああ、それは当たり前だろうな。ただ、当たり前じゃないのは、自分の母親をないがしろにしておきながら、他の女を母親だなんて言い出すことだ。しかも、謝ればそれで許してもらえるとでも思ってるらしい」そう言って健吾は冷たい視線を竜也に向けた。「あなたが浩くんにしつけをできないなら、俺が代わりにやってやろうか?」ただ、そのやり方は、あまり穏やかなものにはならないだろうが。一方そう言われ竜也もまた唇を引き結び、同じように冷たい視線を健吾に向けた。「俺の子にあなたの指図は受けさせない。どこにいるんだ?連れて帰る」だが、健吾はソファの背に深くもたれかかって言った。「浩くんを連れてきたのは、柴田だ。あいつ本人に迎えに来させろ」「柴田さん?」竜也は、まさか佑が自分の息子を健吾の元へ連れて行ったとは、夢にも思っていなかった。なぜ彼がそんなことを?「これは誘拐と同じだぞ!訴えてやるからな!」「ああ、好きにすればいい」すると竜也もこれ以上、健吾と話しても埒があかないだろうと悟り、立ち上がって、橋本グループのビルを後にするしかなかった。一方、健吾の口元には、満足げな笑みが浮かんでいた。これで仲間割れになるだろうな。どうやら面白いことになってきたようだ。……そして、竜也はビルを出ると、すぐに佑の元へ向かった。佑は竜也に大きな利益をもたらしてきた。しかし、さすがに実の息子のこととなれば、竜也も黙
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第594話

一方澪は橋本グループを後にして、橋本家の邸宅へと戻った。道中、澪はずっとオフィスでの出来事を思い出していた。転びそうになったのに、健吾は支えてくれもしなかった。どうして?しかも杏奈はまだ京市にいる。まさか、健吾は杏奈に誤解されるのが怖くて、自分をあんなに突き放したの?そう思うと澪は、怒りで胸が張り裂けそうだった。杏奈、あの女、恥知らずにも健吾にずっと付きまとって。あの女が邪魔しなければ、今ごろ健吾の隣にいるのは、自分だったはずなのに。そんな想いを巡らせて橋本家の邸宅に着くと、澪はまっすぐ書斎へ向かった。表向きは茂の資料を探すためだったけど、彼女はついでに​佑が欲しがっている書類もないか探すつもりだった。でも書斎のドアを開けた途端、重厚な雰囲気の部屋に、似つかわしくない一角が目に入った。窓際には柔らかいカーペットが敷かれ、画用紙や絵筆なんかが一通りそろえてあった。低い椅子の隣には、いかにも女の子が好きそうなビーズクッションまで置かれているのだった。それを見た澪は、ぎゅっと拳を握りしめた。彼女は何年も橋本家で暮らしているから、書斎に元々こんなものはなかったことくらい、よく知っていた。だから、一目見て、ここが杏奈のために用意された場所だと分かったんだ。健吾ったら、杏奈のことをずいぶん大事にしているみたいね。そう思いながら、嫉妬の炎が、澪の胸の中でますます燃え上がった。澪は画材をめちゃくちゃに引き裂きたい衝動を必死にこらえ、なんとか気力を振り絞って資料を探し始めた。茂の言っていた資料はすぐに見つかった。でも、佑が欲しがっていた極秘書類はなかなか見つからない。書斎の中を長いこと探して、ようやく本棚の一番下の段に、金庫があるのを見つけた。すると澪の胸が躍った。金庫には普通、大事なものを入れるはずだ。極秘書類もきっとこの中にあるに違いない。でもすぐに彼女は、暗証番号が分からなければ金庫は開けられない、という現実に気づいた。この件は、やはり​佑に助けてもらうしかなさそうだ。そう思って彼女は本棚の扉を閉め、窓際へと歩み寄った。すると画用紙にはほとんど完成しているデザイン画が描かれていて、その横には小さな文字で、【来月の国際ファッションデザインコンテスト】と書き添えられているのが目に入った。
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第595話

そしてソファのそばに座っていた杏奈は、健吾のそんな様子を見て、ろくなことを考えていないなと直感した。最近の健吾は、なんだかコソコソしていて、何か大きなことをたくらんでいるみたい。彼女はため息をつき、それ以上考えるのはやめた。普段の健吾なら何でも話してくれるのに、ここ最近は隠し事がすごく多いような気がするのだ。だけど健吾が話したくないのなら、無理に聞くのはやめておこう。いつか話してくれる時がくるだろう。彼女がそう考えていると、健吾はご機嫌で、ふと何かを思いついたようにスマホを置いてから、杏奈の前まで歩いてきた。そして、彼女の手からタブレットをひょいと取り上げると、健吾は杏奈を見つめて言った。「午後、特に予定がないなら、久保家に行ってみようか?」「え?」杏奈はきょとんとして健吾を見た。「行かないって言ってなかった?」機嫌が良くなったからって、考えが変わるなんて。健吾は、自分の考えを説明しはじめた。「よく考えたんだ。久保家の奴らにもう目をつけられているんだから、今日行かなくても、どうせ後からしつこく絡んでくるに決まってる。だったら、今日こっちから乗り込んで、さっさと片付けた方がいいだろ!」銀髪の健吾が、そんな力強いセリフを口にする、その姿は、なんだかアニメの主人公みたいだった。杏奈は、この時まだまだ彼の知らない一面があるんだな、と思った。それから彼女はぽかんとしたまま健吾に連れ出され、昼食を済ませると久保家へと向かった。午後2時。健吾の車は、久保家の屋敷の門の前に停まった。門構えは杏奈の記憶にある通りだった。でも、なんだか前よりずっと廃れているような感じで、門番の姿も見当たらなかったのだ。そう思って杏奈が健吾と視線を交わすと、彼は目で合図を送った。それを受けて頷くと、杏奈は門の前に進み出てインターホンを押した。しばらくすると、中から椿の声が聞こえてきた。「どなた?」「私。杏奈」すると相手はすこし沈黙した後、通話を切った。それと同時に、門が開いた。こうして杏奈は健吾の手を取り、久保家の敷地へと足を踏み入れた。がらんとしていると感じたのも無理はない。杏奈の記憶では、昔の久保家には何人もの使用人が忙しそうに働いていたはずだ。今日来てみると、門番どころか、庭を手入れする
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第596話

圭太は仕方なく、健吾と杏奈を丁寧な態度で招き入れた。椿と翔平も、健吾とは面識があるのだ。だけど、まさか健吾も一緒に来るとは思わなかったのだろう。二人は驚いた様子で、すぐに心配そうな表情になった。今日のために準備したことが、全部台無しになってしまうのでは?そう思っていると圭太は杏奈と健吾に背を向け、こっそりと両親に目配せをした。すると、椿は立ち上がり、健吾と杏奈に座るよう促すと、お茶を淹れに席を立った。健吾はソファにドサッと腰を下ろすと、そっと手を挙げて椿に合図した。「俺は水は好きじゃなくて、お茶が好きなんだ。久保家は京市の名家の一つなんだから、家にまともなお茶一つも出せないなんてことないでしょ?」そう言われ椿の顔色が、さっと曇った。ないと言えば、馬鹿にされてしまう。でも、今の久保家には、確かにとっておきのお茶なんてなかった。彼女は仕方なくキッチンへ向かい、最後に残っていた上等なお茶を淹れることにした。それは翔平でさえ、もったいなくて飲まないで取っておいていたものだった。片や杏奈は健吾の隣で、黙って座っていた。彼女はさっき来る途中、健吾から、「着いたら何も言わず、全部俺に任せろ」と言われていたのだ。だから、圭太がこちらを見ても、彼女はすぐに視線を逸らした。なにせ、目を合わせなければ、話しかけられることもないからだ。そして圭太が口を開く前に、健吾が言った。「杏奈さんが彼女の祖母の遺品を受け取りに来たんだが、一体なんだ?もう見せてくれてもいいかな?」すると圭太と翔平の目に、一瞬やましそうな色が浮かんだ。一方杏奈もその様子を見逃さなかったが、何も言わなかった。すると、圭太が先に口を開いた。「……株だ!日記が出てきてな。そこに書いてあったんだ。うちの会社の株を3パーセント、杏奈に無条件で譲るって」杏奈は呆れて言葉も出なかった。以前も祖母は株を遺してくれたのに、その時は真奈美に横取りされたのだ。それなのに今になって、日記に出てきたなんて、誰が信じるだろうか。彼女は馬鹿馬鹿しくて、今すぐにでも罵ってやりたい気分だった。幸い、その役目は健吾が引き受けてくれた。「今の会社の状況で、よく言うよ。明日にも倒産するような会社の株を杏奈さんに押し付けるなんて、久保家の人間のやることは、
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第597話

だけど健吾はふんと鼻を鳴らし、終始気だるそうな態度で圭太の怒りにもまったく怯む様子がないのだ。「俺はせいぜい口先だけだが、お前は違うらしいな。ついに行動に出るつもりか」行動に出るつもり?杏奈は、不思議そうに健吾を見たが、健吾は、大丈夫だと目で合図した。すると、圭太は嘲るように笑った。「もう感づいてるようだな。だったら、もう隠さない。俺はもう追い詰められてるんだ。恨むなら、杏奈を恨んでくれ」圭太が言い終わると同時に、ドアから大勢のボディーガードがなだれ込んできた。十数人のボディーガードは、いかにも腕が立ちそうだった。杏奈は眉をひそめた。これが、圭太が自分をここに呼び出した目的なの?そしてボディーガードが入ってくると、椿と翔平は安堵したかのようにほっと息をついた。圭太が目配せすると、二人は部屋に戻っていった。だが、健吾はまったく恐れる様子もなく、ただ冷めた目で圭太を見ていた。そして、答えを確かめるように問いかけた。「どうして俺が杏奈さんを恨む必要がある?」「当たり前だろ。お前をここに連れてきたのは、この女だからだ」圭太は杏奈を冷たく睨みつけた。「もともとの計画では、こいつを誘拐して鈴木家かお前から身代金をふんだくるつもりだった。だが、お前も一緒に来たなら好都合だ。二人まとめて身代金を要求すれば、橋本家と鈴木家、両方から金をせしめることができるからな。これで、今度こそうちの会社も救われる!」それを聞いて杏奈は、圭太が狂ってしまったと思った。「正気なの!?誘拐なんて犯罪よ。たとえお金を手に入れても、警察に捕まったら全部おしまいじゃない!」「じゃあ、どうしろって言うんだ!」圭太は狂ったように、杏奈に怒鳴りつけた。「このアマ!鈴木家に取り入ってから、お前を育ててやった俺たちのことを忘れたな。お前は鈴木家の娘で、鈴木家の血が流れてるかもしれん。だが、お前は久保家の飯を食って育ったんだぞ!恩返しする気もまったくないなんて、とんだ恩知らずを育てちまったもんだ!」その言葉は、杏奈が耳にタコができるほど聞かされた言葉だった。彼女が久保家と縁を切ってから、何かあるたびに彼らはやってきて、「恩知らず」と罵るのだ。今となっては、もう言い返すのさえ面倒になった。いつも話の通じない相手と関わるのも、疲れ
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第598話

一方圭太も、健吾がこれほど腕っぷしが強いとは思ってもいなかった。費用を抑えたかったので、杏奈を捕まえるのにボディーガードは一人か二人で十分だと思っていた。まさか健吾まで来るとは。健吾も一緒に捕まえようと考えた時、痛い出費だったが、さらに十数人のボディーガードを呼ぶしかなかった。これだけの人数がいれば、健吾が多少腕が立ったとしても、さすがに観念するだろうと思っていた。それなのに、彼がまさかこれほど強いとは。そして、一連のやり合いの後にリビングの真ん中に立つ健吾は、ただ髪が少し乱れているだけだった。それを見た圭太は呆然とその場に立ち尽くし、顔と口の痛みさえ忘れていた。そして健吾は圭太に歩み寄り、その胸ぐらを掴んだ。「二度と杏奈さんに手を出すな。彼女はもうお前たち久保家とは一切関係ないんだ。分かったな?」「わ……わかった」それから健吾は圭太を床に投げ捨てると、振り返って杏奈のもとへ歩み寄り、優しくその手を取った。「さあ行こう。おうちに帰ろう」まさに驚くほどの態度の変わりようなのだ。さっきまであれほど猛々しかったのに、杏奈の前で彼はまるで手懐けられた飼い犬かのようだった。杏奈も、これくらいの修羅場には慣れていた。久保家のリビングがめちゃくちゃに荒らされていても、もう何とも思わないのだ。そして杏奈は健吾の手を握り返し、「帰ろう!」と言った。こうして二人は仲良く久保家を後にした。一方残された圭太だけが、絶望に打ちひしがれて床に倒れ込んでいるのだった。……それから帰り道、杏奈は何度も健吾の方を見ていた。それに気づいた健吾は、運転していない方の手を伸ばして、杏奈のほっぺを優しくつねった。「なんだよ、そんなに俺を見て。かっこよすぎて見惚れちゃった?」健吾はうぬぼれたように言った。杏奈はクスっと笑って言った。「うぬぼれ屋さんなんだから」それを見て健吾はむくれた。「かっこよくないって言うのか?」「かっこいいわよ!」杏奈は素直に認めた。それを聞いて、健吾は機嫌を直した。「これから久保家のやつらでも、他の誰かでも、あなたにちょっかい出す奴がいたら俺に言えよ。俺がなんとかしてやるから!」杏奈は、「その時は、遠慮なく頼らせてもらうわね」と答えた。杏奈が笑うと、健吾は片手
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第599話

「後で何か食べたいものある?準備させるけど」こんな甘い雰囲気だったから……杏奈は、健吾が何か冗談を言ってくるかと思ったけど、彼の口調はいたって真面目だった。その心がけに、杏奈はなんだかほっとした。彼女は少し考えてから、「海鮮がいいな」と答えた。健吾はうなずき、スマホでメッセージを送った。指示を出し終えると、彼は岩に寄りかかって目を閉じた。一方、杏奈は、健吾のことをこっそり窺った。彼に下心がないのがわかると、杏奈はすっかり安心した。そして彼女は岩に寄りかかり、ゆっくりと目を閉じた。それから二人はしばらくお湯を楽しんでから、レストランへ向かった。健吾は人混みが嫌いなので、杏奈を静かな席に案内した。そこは最上階のテラス席で、人もまばらだった。フラワーバスケットで区切られた空間に、籐のテーブルセットが置かれていて、すごくロマンチックだった。「どうしてこんな場所を知ってるの?」杏奈は大喜びで、思わず尋ねた。静かで綺麗だし、彼女はすごく気に入ったのだ。杏奈が満足そうなのを見て、健吾の口元の笑みはさらに広がった。「偶然見つけたんだ。気に入ってくれたならよかった」「すごく気に入った!」ディナーは、ロブスターやウニといった豪華な海鮮料理だった。二人が食事を楽しんでいると、突然、聞き覚えのある声がした。「健吾さん!」そこへ澪が嬉しそうにこちらへ歩いてくると、彼女の後ろには佑もいた。佑は杏奈と健吾に気づくと、杏奈にだけ声をかけた。「杏奈さん、久しぶりです」そう言われ杏奈は健吾の顔色をうかがってから、「久しぶりですね」と佑に返した。それから彼女は、澪が佑と一緒に来たことに気づいて、尋ねた。「二人で来たのですか?」澪は杏奈の隣に座ると、馴れ馴れしく腕を組んできた。「そうですよ。柴田さんとは偶然知り合って、今ちょうどジュエリーのコラボの話をしています。ここで会えるなんてびっくりですね!」澪の急な馴れ馴れしさに、杏奈は全身に鳥肌が立った。自分は彼女とそこまで仲良くなかったはずだが?そう思って彼女はそっと澪の手から自分の腕を引き抜いた。「それは奇遇ですね」​一方、佑は健吾の方へ歩み寄り、笑いながら彼に視線を向けた。「橋本社長、ここに座っても?」「だめだ」
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第600話

だが、杏奈は健吾の動きを手で制した。健吾は視線を落とし、彼女を見た。杏奈はにっこり笑った。「私たちはもうお腹いっぱいだから。この二人にいくつかお料理を頼んであげれば十分よ。彼らはまだお話があるみたいだし、私たちがいたら邪魔になっちゃうでしょ」杏奈の言葉を聞いて、健吾の表情はみるみるうちに曇っていった。「わかった」​一方、佑は二人を見つめた。「俺たちの話はほとんど済ませてますので、杏奈さん、そんなにお気遣いなく」「いえいえ、そういうわけにはいきません」杏奈は笑って言った。「澪ちゃんはやっと仕事の話がまとまりそうなんですもの。私たちが邪魔しちゃダメですよ。お二人で、どうぞごゆっくり話してください」杏奈はそう言うと、健吾の手を引いてその場を離れた。そして澪が引き留める間もなく、二人は店の小さなドアから出ていってしまった。「澪ちゃんですって?なんであの女にそんな風に親しげに呼ばれないといけないんですか」そう呟きながら、澪は腹立たしげに椅子に座り直した。​すると佑が冷たい目で澪を一瞥した。その凍えるような視線は、まるで殺意を帯びているかのようだった。それに気づき、澪は途端に黙り込んだ。杏奈のことを一言悪く言っただけで、​佑はあんなにかばうっていうの?まさか、本当に杏奈のことを好きになったの?そう思った途端、澪の表情はさらに険しくなった。あの女、どうして誰もがみんな彼女を好きなわけ?​佑みたいな人まで彼女を好きになるなんて。そう澪は心の中で嫉妬しながらも、杏奈が​佑にD国へ連れて行かれるのも悪くない、と思った。そうすれば、自分は健吾と一緒になれる。兄が健吾へ施した恩を盾にして、ちょっとした手を使えば、健吾もきっと自分になびいてくれるはずだから、必ず成功してみせる。そう考えると、彼女の心はだいぶ穏やかになった。「​​柴田さん、せっかくここにいらっしゃるんですもの、もう一度、協力しましょうよ」さきほど、澪は橋本家の書斎の金庫にあった資料を​佑に渡し、約束はもう果たしたのだ。そして自分はもう京市に長くいられないと思うと、健吾の件は、早めに片を付けておかないと。​そして佑は、澪がバッグから取り出した一包みの粉薬に目をやった。夜の世界でよく使われる、強力な薬だ。すると彼は口の端を吊
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