つい耐え切れなくなった杏奈はそっと布団をめくり、健吾の方を見た。「もうこれ、見るのやめない?」一方健吾は両腕を広げて、彼女が飛び込んでくるのを待ったが、その気配はなかったから、健吾は、少しがっかりした。だが、うるんだ大きな瞳でこちらを見つめ、甘えた声で話す杏奈を見ると、さっきのがっかりした気持ちもどこかへ飛んでいったから、彼は彼女を宥めた。「お化けなんて作り物だろ。怖がることはないよ」「私、ああいうの信じちゃうタイプだから、もう見たくない。違う映画にしない?」だって、そうこうしているうちもイヤホンからは、さらに不気味な効果音が流れてくるのだった。そこで、杏奈は健吾の返事を待たずに、映画を止めてしまった。ベッドサイドのランプをつけると、杏奈はようやく息を吹き返したかのようだった。「なんでそんなに怖がりなんだ?」健吾は笑いながら、杏奈の頬を軽くつねった。からかわれたと思った杏奈は、ふいとそっぽを向くと、もう映画は見ずに寝ることにした。「悪かった、悪かった。どうせ今すぐには眠れないだろ。別の映画にしよう。今度は俺が選ぶから。絶対にホラーじゃないやつにするから、な?」一方、杏奈は、布団の中に丸まっていた。目を閉じると、さっきの血まみれのシーンが目に浮かんで、どうしても消すことができなかったから。それで、健吾の言葉を聞いて、杏奈はしぶしぶ布団から出てきた。健吾が映画を再生しようとすると、スマホの画面が光った。裕一からのメッセージだった。【橋本社長、6002号室でお話したいことがある。もし来ていただけないなら、杏奈さんに連絡するよ】それを見て健吾は、とたんに眉をひそめた。杏奈は健吾の変化に気づかなかった。彼女はまだ、さっきのホラー映画の映像が頭から離れずにいたのだ。「コメディ映画を流しておくから。ちょっと用事で出てくるけど、すぐ戻るよ」「どこへ行くの?」「ちょっと人と会ってくるだけだ」健吾は杏奈の頭をなでると、かがんで彼女の唇にキスをした。「待ってて」そう言われ杏奈は、彼を引き止めなかった。そして部屋を出る時、健吾は怖がる杏奈のために部屋の明かりを全部つけておいた。明かりがついているだけで、彼女の心はずいぶんと落ち着いた。健吾の映画選びのセンスは、なかなかのものだっ
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