それを聞いて裕一はもう電話を切ろうとしなかった。彼の口元は上がっていたが、よく見るとその目は笑っていなかった。「俺たちの取引はもう終わったはずですよ。あなたが俺のビジネスに協力する代わりに、俺はあなたのために橋本からあの女を引き離してやりました。彼女を生かしておくか殺すかは、俺が決めることです」すると電話の向こうで、澪は怒りのあまり深く息を吸い込んでいた。その音は電話越しに裕一にも聞こえるくらいだった。「でも、健吾さんは今、D国まで追いかけていったでしょ!だからこの取引は無効よ!」そう言って澪は、ごね始めたのだった。だが、それにも増して裕一はもっと図々しかった。彼は、怒鳴りつけるように言った。「俺が有効だと言えば有効なんだ。なんで俺があなたの言うことを聞かなきゃならない?文句を言う前に、まず医者さんに診てもらったらどうだ?頭の中身が空っぽなんじゃないのか」その言葉は厚かましいだけでなく、非常に侮辱的だった。そう言われ澪は怒りで泣き出したようだ。彼女は少ししゃくりあげながら、自ら電話を切った。だが、それに対し裕一は鼻で笑うと、スマホをテーブルに投げた。「一体、何様のつもりだ?」そもそもあんなくだらない取引のことなど、裕一は最初から気にも留めていなかったのだ。それに比べて彼が唯一気にしているのは、健吾を宏の墓前に引きずって行き、なんとしても頭を下げさせることだった。それから裕一は少し考えを改めると、立ち上がって杏奈の部屋へと向かった。その時、杏奈は布団の中に潜り込んでいた。彼女は頭まで布団をすっぽりかぶり、全身を小さく丸めているのだった。一方、裕一は寝室のドアの前で少し立ち止まったあと、部屋の中へと入っていった。「出ていって!ハンバーガーとコーラなんていらないわ!」布団の中から、杏奈のくぐもった声が聞こえてきた。それは本来ならとても失礼な態度だが、今の彼女は追い詰められかなり苛立っていたので、なりふり構っていられなくなっているのだった。だけど裕一は、そんな杏奈をとても可愛いと思った。彼は笑いながら言った。「もうコーラとハンバーガーはやめましたよ。俺と一緒に下で食事でもどうですか?」裕一の声だと気づいたのか、杏奈は黙り込んでしまった。だが、裕一は誰かを待っていられるほど気が長くなか
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