All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 661 - Chapter 670

692 Chapters

第661話

「絶対、あいつをただじゃおかないから!」一方、杏奈は健吾の手を握って言った。「まずはここから出て。出たら警察に通報するの。柴田に​は絶対、法の裁きを受けてもらわないと」彼女は裕一が法によって裁かれれば、健吾の身も安全になるだろうと思った。それを聞いた健吾は、再び杏奈を胸に引き寄せた。しかし健吾は、杏奈に伝えなかった。この国の法律はそれほど厳しくない。それに、裕一は大人しく法の裁きを待つような男ではないのだ。たとえ刑務所に入れられたとしても、あいつはまた出てくる方法を見つけるだろう。ああいう精神が歪んだ男が二度と悪さができないようにするには……死んでもらうしかないのだ。そう思うと健吾の指先が、微かに震えた。でも、このことを杏奈に話すわけにはいかなかった。彼女に、自分が冷酷非道な人殺しだなんて思われたくなかったから。「行こう」しばらくして、健吾は杏奈を解放した。優しく彼女の髪を整えてから、その手を引いて山を下り始めた。後ろから誰かが追ってくる気配はなかったから、健吾は少しだけ歩くペースを落とした。そして杏奈がチョコレートを食べ終わるのを待ってから、再び歩く速度を上げた。まだ昼間だというのに、裏山一帯は人の手が入っていない原生林だった。そびえ立つ大木の枝が頭上でびっしりと絡み合い、まるで網のように森全体を覆っているのだった。そしてあたりはだんだん薄暗くなり、道も歩きにくくなってきた。そんな中、健吾は懐中電灯を出すと、コンパスで方角を確認しつつ、片手で邪魔な木の葉をかき分けながら、杏奈を率いて先へと進んでいった。「しっかりついてこい。絶対に手を離すなよ」「うん」そう頷いて、杏奈は両手で健吾の手を握りしめ、一歩一歩としっかり、彼の足跡を追うように歩いた。あたりは静まり返っている。それなのに、どこからか微かな息遣いが聞こえる気がした。すると思わず、森を舞台にしたホラー話が脳裏に蘇り、杏奈はごくりとつばを飲み込んだ。それでも彼女は込み上げてくる恐怖を必死にこらえた。健吾に余計な心配をかけたくなかったから。多分二人は運が良かったのだろう、はたまた夜ではないということもあり、森の奥深くに潜む獣たちは眠っているようだった。それで二人が1時間ほど歩く間、これといったトラブルは起こらなかった。毒グモ
Read more

第662話

そう言われ杏奈はバッグを抱えてその場にしゃがみ込み、薄暗がりの中を遠ざかっていく健吾の後ろ姿を見つめていた。不安が胸を過ったが、それでも彼女は歯を食いしばってバッグのストラップをぎゅっと握りしめ、じっと健吾を待った。一方、健吾は少し先まで行って立ち止まると、なにやら作業をちょっとすると、突然そばの茂みの中に飛び込んだ。それを見た杏奈はドキッとした。すると向こうからガサガサと物音がするのが聞こえて来て、すぐに健吾はまた小道に戻ってきた。彼は手に持っていた何かを地面にさっと撒いているようで、それが終わるとまた急いで戻ってきて、杏奈の手を引いて再び先へと進んだ。そして歩きながら健吾は杏奈が持っていたバッグを受け取り、自分の背中に背負った。杏奈は思わず尋ねた。「さっき、何をしていたの?」健吾は笑った。「俺が切り開いた道だ、誰でも通れるわけじゃない。あいつらに、ちょっとしたプレゼントを用意しておいたんだ」杏奈は悪戯っぽく笑う健吾の顔を見ていると、後ろの追っ手たちがなんだか可哀そうに思えた。一方健吾は慎重で、追っ手が来ているからといってペースを上げることはなかった。すぐに、後ろから次々と悲鳴が聞こえてきた。彼らが何を言っているのかは聞き取れなかった。悲鳴もはっきりしないけど、どうやら蛇がいるとか叫んでいるようだった。そう思うと杏奈は健吾の手を、さらに強く握りしめた。健吾は彼女の恐怖を感じ取り、振り返って顔をのぞき込んだ。すると、杏奈は額に冷や汗をびっしょりとかき、唇は乾いてひび割れ、顔色も真っ青だった。健吾はバッグから水のボトルを取り出して彼女に手渡した。「水を飲め。焦るな。あの蛇は、あいつらを怖がらせるために俺がわざとおびき寄せたんだ。俺たちの体には蛇よけの薬をまいてあるから、蛇に会うことはないさ」杏奈は一口水を飲むと、健吾を見て強がって言った。「怖がってなんかないもん」健吾はクスッと笑うと、手を伸ばして彼女の頭を撫でた。「はいはい、怖くないんだな」そして後ろから聞こえていたうめき声は、次第に消えていった。一方、杏奈は、おぼつかない足取りで健吾の後をついて行きながら聞いた。「あの人たち、また追ってくるかな?」「しばらくは大丈夫だろう」あれだけ騒げば、きっと肉食の獣が寄ってく
Read more

第663話

一方、杏奈もなんとか意識を保ちながら、懐中電灯で健吾の足元を照らした。そして長い時間が経ち、杏奈がまたうとうとし始めた頃、健吾が、「着いたぞ」と言った。その言葉に杏奈は一気に目が冴えた。そっと降ろされると、ひやりとした風に当たり、彼女は汗で濡れた体をぶるっと震わせた。それを見た健吾は杏奈の手をぎゅっと握り、「ここを出ればもう大丈夫だ」と言った。そこは裏山の、別の場所にあるフェンスだった。外はすでに薄暗く、夕日の最後の光も消えかけているのだった。杏奈は、健吾が工具を取り出してフェンスを壊し始めるのをただ見つめていた。それは金網のフェンスで、彼はペンチを使い、手際よく小さな穴を開けた。「行くぞ」健吾は杏奈に先に穴をくぐらせると、自分もその後に続いた。すると外に出た瞬間、彼は何かがおかしいと感じた。周りから聞こえる物音からは、動物というより人の気配がしたのだ。健吾はとっさに杏奈を背後にかばうと、茂みから見慣れた姿が現れた。そんなコーリンの頭には枯葉がつき、体にはかすり傷がいくつもついて、ひどくみすぼらしい姿だ。コーリンの姿を確認した瞬間、健吾は安堵した。「なぜ、俺がここにいると?」「山全体どこもかしこも柴田​の連中で埋め尽くされているから、そんなんで山を下るわけがないと思ったんだ」コーリンは健吾が無事なのを見て、ほっと息をついた。「柴田​の手下は違う方向へおびき寄せておいた。さあ、ついてきてくれ」杏奈はコーリンを知らないので、健吾のそばから離れないようにした。健吾がまた背負おうとしたが、杏奈は、「少し体力が戻ったから、自分で歩ける」と言った。杏奈が譲らないので、健吾も無理強いはしなかった。健吾は彼女のリュックを受け取ると、その手を引いてコーリンの後について山を下り始めた。コーリンが先導する道は障害物が処理されており、さっき来た道よりもずっと歩きやすかった。「この原生林は、一度入ったら二度と出られないと言われているのに、本当に獣に一匹も出くわさなかったのか?」コーリンは信じられないという顔だ。そう言われて健吾は意に介さず、「運が良かったんだろう」とだけ答えた。だって、虫や蛇はいたが、本当に大型の獣には出くわさなかったから。まあ、後から来る奴らがどうなるかは知らない
Read more

第664話

「お礼なんていいよ。必要なものは中に揃ってるから。じゃあ、俺たちはこれで」健吾は二人の車を見送ると、杏奈を抱きかかえて邸宅の中に入った。部屋のエアコンはあらかじめつけられていて、ドアを開けると暖かい空気に包まれた。健吾は杏奈を寝室まで運び、疲れきった彼女の寝顔を見下ろすと、心の奥に湧き立つ恐怖がまだ消えずにいた。そして健吾は声を詰まらせながら、そっと杏奈の頬を撫でて言った。「杏奈さん、起きて?」彼は何度も、優しく深い声で呼びかけると、杏奈はその声でようやく目を覚ました。そしてぼうっとした頭で見知らぬ部屋を見渡すと、彼女は一瞬にして目が冴えた。でも、隣に健吾がいるのを感じると、また力が抜けていった。「どうしたの?」彼女の声は少しだけかすれていた。それを見て健吾は眉をひそめた。「着いたよ。起きて熱いお風呂に入ってから寝な。俺は温かい飲み物でも用意してくるから、一緒に飲もう」しかし杏奈は健吾に起こされ、ぐったりと彼の胸に寄りかかった。「動きたくない……」本当に、もう指一本動かせない感じだった。だって彼女はこれまでの人生で、こんなに長い山道を歩いたことはなかったから。「じゃあ、俺が洗ってやろうか?」そう言われると杏奈はなんとか体を起こした。「自分でできる」健吾は、彼女がふらふらとバスルームに向かうのを見て、思わず笑みがこぼれた。「おい、着替え忘れてるぞ」すると杏奈はまたクローゼットへ行って服を取ると、またバスルームに入っていった。健吾も服を持って別のバスルームへ行き、手早くシャワーを浴びた。それからキッチンで温かい飲み物を用意し、ついでに二人分の軽食も作った。それから風邪をひかないように、予防しておかないと思い、健吾は風邪の予防薬も見つけて、一緒に寝室へ運んだ。すると、ちょうど杏奈がお風呂から上がってきたところだった。彼女はさっき、湯船の中でうっかり寝てしまいそうになっていたのだった。「すこし食べてから、温かい飲み物と薬を飲んだら寝ればいいから」食後すぐに寝るのは体に良くないけど、今日は疲れすぎてるから、特別だ。杏奈もこの時はようやくほっとできたから、健吾について隣のローテーブルへ向かった。そして彼女が軽食を食べるより先に、健吾の顔を両手で包み込んで、その唇にキス
Read more

第665話

そう言われ茂は少し迷っているようだったが、それでも彼はスマホを操作し、健吾に連絡先を送ってきた。「自分で行ってくれ。用事があるから、じゃあな」「おい!」ツー、ツー、という音が響き、健吾は呆れてしまった。もう何年も経つのに、二人とも相変わらず頑固だ。まあ、自分で行ってもいいんだけど。そう思って彼はパソコンを閉じると寝室に戻り、ベッドに潜り込んで杏奈を抱きしめながら、深い眠りについた。翌日、二人が目を覚ましたのは昼近くになってからだった。目が覚めた杏奈は、腕も足も自分のものとは思えないほどだるかった。彼女はベッドにぐったりと横たわり、指一本動かしたくなかった。一方、健吾はケロッとしていて、身支度を終えるとベッドの縁に腰掛けて杏奈をからかった。「起きたくないのか?」「腕も足も痛くて、動けないの」健吾は布団をめくり、杏奈のふくらはぎを優しく揉んであげた。「今日、ちょっと目上の知り合いに会いに行くんだけど、一緒に行くか?それともここに残るか?もしここに残るなら、あなたの護衛ができるようにここの周囲に人を配置しておくけど」健吾がそう言い終えた瞬間、杏奈は身を起こした。「私も一緒に行く」彼女は、本当に怖かったのだ。健吾のそばを離れたら何が起こるか、想像するだけで怖かった。だから、たとえ出かけた方が危険に遭うかもしれなくても、彼と一緒にいたかった。杏奈の様子に、健吾はわずかに眉間にしわを寄せた。彼女はきっと裕一のところでひどい目に遭わされてトラウマになっているのだろう。この恨みは、必ず晴らしてもらわないと。そう思って健吾は杏奈を抱きかかえて洗面所まで連れて行った。「ご飯を食べたらすぐに出発しよう」ピンピンしている健吾の様子を見て、杏奈は少しずるいと感じた。同じ道を歩いて、しかも健吾はずっと自分をおぶってくれたのに。自分はクタクタなのに、どうして彼は平気な顔をしているんだろう?「足、痛くないの?」健吾は笑って言った。「俺の体力を知っているだろ?」それはなんだか、すごく意味深に聞こえる答えだった。そう思って杏奈は不満そうに彼を数回叩くと、そっぽを向いて身支度を始めた。そして、健吾は杏奈の身支度が終わるのを待ってから、また彼女を抱きかかえて階下へ降り、キッチンへと向かっ
Read more

第666話

それから、車はショッピングモールのそばに停まった。健吾は杏奈とショッピングモールに入って手土産を買うと、改めて訪ねる相手のお宅へ向かった。車はすぐに、D国の首都郊外にある邸宅の前に停まった。健吾と杏奈が、その家の前に立つと、そこの執事がすでに、玄関先で待ち構えていた。そして健吾と杏奈の姿を見ると、彼は慌てて二人を迎えにきた。「橋本社長でいらっしゃいますね?」執事は、穏やかな口調で尋ねた。健吾はうなずいた。「はい。隆さんにお会いしにきました」「旦那様が長らくお待ちですので、お二人とも、どうぞ中へ」執事は健吾から手土産を受け取ると、そばにいた使用人に渡した。そして二人を母屋の方へと案内した。こうして一行が、母屋の中に入ると、中から咳払いが聞こえ、続いて男性の声が低く響いた。「健吾か?」「はい、橋本社長です。彼女さんと一緒に、お顔を見にこられました。こちら、手土産でございます」と執事が答えた。するとリビングのソファに、背を向けた男性が一人座っていて、彼は動かずに言った。「来てくれるだけでいいのに、手土産なんていらんよ。さあ、こっちへ来て顔を見せて」その言葉は、どこか親しみやすい響きがあった。杏奈は少し驚いた。てっきりD国の人に会うのだと思っていたからだ。健吾は杏奈の手を引いて、男性の方へ歩いていった。「隆さん、お久しぶりです。相変わらずお元気そうで、何よりです」そう話していると、二人は桐島隆(きりしま たかし)の目の前まで来ていた。杏奈も、ようやく隆の顔をはっきりと見ることができた。それは典型的なA国人の顔立ちだった。年は40代くらいだろうか。彼の鋭い眼差しには、どことなく威厳が感じられた。この時彼はソファに座り、両足にはブランケットがかけられていた。姿勢は良いのに、どこかぎこちない座り方に見えた。杏奈は、失礼にならないように視線をそらした。しかし隆の視線は、品定めするように彼女に注がれていた。しばらくして、隆が口を開いた。「この子が、君の彼女か?」そう聞かれ、健吾は杏奈の肩を抱き、笑顔で隆に紹介した。「はい、俺の彼女の鈴木杏奈です」それから杏奈に向き直り、隆を紹介した。「杏奈さん、こちらは隆さん。俺の父の親友なんだ」杏奈は、丁寧にお辞儀をした。「はじめ
Read more

第667話

すると女性はふかふかのソファに、どさっと倒れ込んだ。途端にリビングは、一瞬だけ静まり返った。ピンクの服の女性は数秒ソファにうつぶせになっていたけど、やがて起き上がると、健吾の方を向いて口をとがらせた。「もー、相変わらずなんだから!ハグもさせてくれないなんて!」隆は、困ったように彼女を見つめた。「もう子どもじゃないんだから、健吾に飛びついたりするんじゃない。健吾が彼女さんを連れてきてるのが見えないのか?」隆がそう言うと、ピンクの服の女性は視線を杏奈に向けた。すると彼女は腕を組んで杏奈の前に立ち、じろじろと品定めをするかのように杏奈を見つめた。「彼女さん?」一方杏奈は健吾に視線を送った。その視線を感じて、健吾は改めて互いに紹介した。そこで杏奈は、目の前の女が桐島佳乃(きりしま よしの)という名前で、隆の末娘だと知った。杏奈は佳乃に挨拶した。だが、佳乃は彼女を相手にする気がないようだった。それから隆が佳乃に言った。「佳乃、君は彼女を上に連れててくれ。俺は健吾と話があるから」「いいよ」佳乃は快活に答えた。片や、杏奈は健吾を見た。健吾は笑って彼女の頭をなでた。「彼女はやんちゃな子だけど、悪い子じゃない。行っておいで」「誰がやんちゃなのよ?」佳乃は健吾をきつくにらみつけると、杏奈の手を引いて二階へ上がっていった。それから、健吾と隆は仕事の話を始めた。一方、佳乃は杏奈を自分の寝室へ連れて行った。佳乃の可愛らしい見た目とは裏腹に、彼女の部屋は白と黒を基調としていて、どこかクールな印象だった。部屋に着くと、佳乃は杏奈に好きなところに座るよう促した。杏奈は遠慮しなかった。彼女は体中がだるかったから、できることなら、座るより横になりたいくらいだった。そう思って、彼女は部屋にあったふかふかのソファに腰を下ろした。一方、佳乃は向かいのベッドのへりに腰掛けると、また杏奈をじっと見つめ始めた。色々なことを経験してきた杏奈は、向けられる視線が悪意のあるものかどうか、ある程度は判断できた。今、佳乃が向ける視線は、純粋な好奇心からくるものだと確信した。でも、何に好奇心を抱いているんだろう?自分が健吾の恋人であることに興味があるのかな?「あなたのことを、見たことあるの」突然
Read more

第668話

驚いた杏奈は、「きゃっ」と声をあげ、とっさに立ち上がって手にした人形を投げ捨てた。そして手にはべったりと血糊がついていることに、顔が青ざめて、すっかり怯えきってしまったようだった。それなのに佳乃は、お構いなしに大声で笑い出した。まるで、自分の見事ないたずらが成功して興奮している、悪ガキのようだった。「あなたって本当に怖がりね。千葉より、いくじなしじゃない!」そう言って、佳乃はますます楽しそうに笑った。一方、杏奈は内心、カチンときていた。彼女は黙ってティッシュを取り出すと、手の血糊を拭きながら冷めた目つきで佳乃を見つめた。「もう、気が済んだ?」「いいや、まだ!」と佳乃は言った。この時の佳乃の眼差しには、あからさまな悪意が満ちていた。「健吾さんをどうやってたぶらかして、ここまで連れてこさせたのか知らないけど、言っておくわ。健吾さんには心に決めた人がいるの!私がいる限り、あなたみたいなバツイチ女を、健吾さんと一緒になんてさせないから!」杏奈は手に持っていたティッシュを捨てた。「じゃあ聞くけど、あなたの言う健吾さんの想い人って誰?千葉?」澪の名前を聞いた途端、佳乃は嫌気が差したように、顔をそむけて舌打ちをした。「千葉なわけないでしょ!あんな気持ち悪い女、あなたにも劣るのに健吾さんの想い人であるはずがないじゃない?」てっきり、この女は澪の味方なのかと思っていた。まさか、あれほど彼女を嫌っているとは。そう思うと杏奈は眉間にしわを寄せ、「じゃあ、彼の想い人って誰なの?」と言った。すると、佳乃は嫌悪感をむき出しにした目で、杏奈を頭のてっぺんからつま先まで値踏みするように見た。「とにかく、あなたみたいな女じゃないわ!」佳乃は後ろで手を組んで向き直ると、もったいぶった態度で語り始めた。「健吾さんの想い人はね、彼を死の淵から救い出した人なのよ。昔、健吾さんは海外で命を狙われ、殺されそうになったの。そのとき助けてくれたのが、彼の想い人よ。二人は甘いひとときを過ごしたけど、行き違いで離れてしまった。でも健吾さんは、必ず彼女を見つけて結婚するって決めてるんだから」そう言って、佳乃はくるりと杏奈の方を振り返った。「だから、どんな手で健吾さんを誘惑したか知らないけど、さっさと諦めた方がいいわ。じゃな
Read more

第669話

一方、執事は気を利かせて、お茶菓子と果物を用意してくれた。健吾と隆が話し終え、書斎から出てくると、健吾はすぐにリビングにいる杏奈の姿に気づいた。隆は車椅子に乗っており、健吾がその車椅子を押して二階のエレベーターに乗った。まもなくして、二人は杏奈の前にやってきたが、そこで杏奈は初めて、隆の足が不自由なことに気づいた。彼女は立ち上がると、健吾は隆に向かって言った。「この件、よろしくお願いします。じゃあ、俺たちは先に失礼します」「健吾、飯も食わずに帰るのか?」「今夜オード州へ行かないといけないんです。こっちの用事が片付いたら、改めて一緒に飲みましょう」隆はその言葉を聞いて、気を良くした。「君は茂よりは口が達者だな」それから隆はすこし笑ったあと、杏奈に視線を向けた。「君も今度、健吾と一緒にうちに飯を食いに来い」「はい、是非伺わせていただきます」こうして隆に挨拶を済ませると、健吾は杏奈を連れて邸宅を出た。母屋を出て邸宅の門に向かって歩いていると、杏奈は背後から何かに見られているような気がしてならなかった。振り返ってみたが、そこには何もなかった。健吾が尋ねた。「どうした?」杏奈は首を横に振って、話題を変えた。「さっき手伝いを頼んだのは、柴田のこと?」健吾はうなずくと、杏奈の頭を撫でた。「細かいことは気にしなくていい。俺は今夜オード州に行くから、あなたは家でゆっくりしてろ」杏奈は眉間にしわを寄せた。「私も一緒に行っちゃだめ?」彼女は知らない国で、健吾と離れ離れになるのはどうしても嫌だった。でも、今の健吾の表情はとても真剣だった。「オード州は柴田の縄張りなんだ。あなたが行くと危ない。隆さんが住んでる家の周りに人を配置してくれることになったから、そこにいれば安全だ」「あなたは?」杏奈は心配そうに、健吾の手をぎゅっと握りしめた。「あなたは大丈夫なの?」健吾は笑って彼女の頬をつまんだ。「もちろん大丈夫だよ。俺を見くびらないでくれる?」彼の屈託のない様子に、杏奈は少しだけ安心した。でも、心の中ではやっぱり心配だった。しかし、ふと佳乃の言葉が頭をよぎった。「そういえば、あなたには好きな人がいるって聞いたけど?」「俺の好きな人って、あなたのことじゃないか?」健
Read more

第670話

それから健吾は夜を徹してオード州に駆けつけた。そこには、コーリンと兄のエースが、先に到着して待っていた。健吾が着くやいなや、コーリンは彼に言った。「​柴田とフィーリアは潰し合って、共倒れになったみたいだ。​それで柴田は戻って鈴木さんがいないことに気づいて、激怒したらしい。手下のホルでさえ、​柴田に目をえぐられたそうだ」​裕一の性格を考えれば、ありえない話ではない。健吾も特に驚きはしなかった。「​柴田はどこにいる?」「自分の邸宅に籠っていて、一歩も外に出ていないようだ」「フィーリアは?」「柴田は全ての怒りをフィーリアにぶつけたんだ。なにせ柴田の地下施設は潰されたからな。それで、フィーリアの縄張りも柴田の手下に攻撃された。だからフィーリアは今、自分のことで手いっぱいで、他のことに構っている暇はないはずだ」それを聞いて、健吾はうなずいた。「隆さんに特別許可をもらってきた。今度こそ、柴田という災いの種を断ち切らないと」コーリンは驚いた。「お前はあの人と知り合いだったのか!」隆はA国の人間だが、D国の政界でもかなりの有力者だ。​裕一のD国での影響力とは比べ物にならないほど力があるのだ。健吾が、そんな大物と知り合いだったなんて。コーリンは少し恨めしそうに健吾を見つめた。仲間なのに、そんな大物との繋がりを隠していたなんて。健吾は、そんなコーリンをちらりと一瞥した。「俺も彼に助けを求めるのは初めてだ。彼は父と少し因縁があってな」「どんな因縁だ?」コーリンはおもむろに興味津々な様子だった。だが、健吾は彼を無視した。「明日、​柴田に伝えろ。『俺に復讐したいんだろ?その機会を与えてやる』とな」それを聞いて、エースは眉をひそめて健吾を見た。「頭がおかしくなったんですか?せっかく逃げ出したのに、自分からまた出向くなんて」「自分から出向くからこそ、彼をおびき出せるんです。それでこそ、この一件を完全に解決できます!」そう言って、健吾の視線は、​裕一の邸宅がある方角へと向けられた。暗闇の中で、彼はその瞳に獰猛な光を宿していた。……それからあっという間に時間が過ぎ、杏奈はこの邸宅で2日間も過ごした。この2日間、彼女はA国にいる鈴木家の兄たちに無事を知らせた。それから、アトリエのスタッフ
Read more
PREV
1
...
656667686970
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status