「絶対、あいつをただじゃおかないから!」一方、杏奈は健吾の手を握って言った。「まずはここから出て。出たら警察に通報するの。柴田には絶対、法の裁きを受けてもらわないと」彼女は裕一が法によって裁かれれば、健吾の身も安全になるだろうと思った。それを聞いた健吾は、再び杏奈を胸に引き寄せた。しかし健吾は、杏奈に伝えなかった。この国の法律はそれほど厳しくない。それに、裕一は大人しく法の裁きを待つような男ではないのだ。たとえ刑務所に入れられたとしても、あいつはまた出てくる方法を見つけるだろう。ああいう精神が歪んだ男が二度と悪さができないようにするには……死んでもらうしかないのだ。そう思うと健吾の指先が、微かに震えた。でも、このことを杏奈に話すわけにはいかなかった。彼女に、自分が冷酷非道な人殺しだなんて思われたくなかったから。「行こう」しばらくして、健吾は杏奈を解放した。優しく彼女の髪を整えてから、その手を引いて山を下り始めた。後ろから誰かが追ってくる気配はなかったから、健吾は少しだけ歩くペースを落とした。そして杏奈がチョコレートを食べ終わるのを待ってから、再び歩く速度を上げた。まだ昼間だというのに、裏山一帯は人の手が入っていない原生林だった。そびえ立つ大木の枝が頭上でびっしりと絡み合い、まるで網のように森全体を覆っているのだった。そしてあたりはだんだん薄暗くなり、道も歩きにくくなってきた。そんな中、健吾は懐中電灯を出すと、コンパスで方角を確認しつつ、片手で邪魔な木の葉をかき分けながら、杏奈を率いて先へと進んでいった。「しっかりついてこい。絶対に手を離すなよ」「うん」そう頷いて、杏奈は両手で健吾の手を握りしめ、一歩一歩としっかり、彼の足跡を追うように歩いた。あたりは静まり返っている。それなのに、どこからか微かな息遣いが聞こえる気がした。すると思わず、森を舞台にしたホラー話が脳裏に蘇り、杏奈はごくりとつばを飲み込んだ。それでも彼女は込み上げてくる恐怖を必死にこらえた。健吾に余計な心配をかけたくなかったから。多分二人は運が良かったのだろう、はたまた夜ではないということもあり、森の奥深くに潜む獣たちは眠っているようだった。それで二人が1時間ほど歩く間、これといったトラブルは起こらなかった。毒グモ
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