ここまで来ると澪は、もう隠しきれないと観念した。これ以上、ごまかすのはやめた。そして、開き直ることにした。「橋本健吾?あの人はもう死んだわ。D国にいた時にね。病室にいるのは藤本健吾、私が海外で付き合ってる彼氏よ。あなたは、産後でおかしくなったんじゃない?男なら誰でもあの人に見えるの?」澪は、とっさに嘘をついた。でも、杏奈は全く信じなかった。「健吾さんはこの救急治療室の中にいるわ!たとえどんなことがあろうと私にはわかるの。あなたが彼を連れ去って、死んだように見せかけたんでしょ!」それが、最も理にかなった説明だ。そう思うと杏奈は内心、激しい喜びに包まれた。健吾は、生きていた。この1年近くで、これほど嬉しい知らせはないだろう。さっきは遠くからちらっと見えただけだったけど、それでも確信があった。病室に運ばれていったのは、間違いなく健吾だと。「言ったでしょ。あれは私の彼氏だわ!」だが、澪が言った瞬間、空が口を開いた。「じゃあ、あの日の病室にいた人って、橋本さんだったんだ。どうりで見覚えがあると思ったよ」杏奈が何のことかと尋ねる。空は、ちょっと前に病室で健吾の点滴の針を抜いてあげた時のことを杏奈に話した。そして豪も、さっきエレベーターで車椅子の男を見かけたことを思い出していた。それで、やっと合点がついた。どうりで、あの男に見覚えがあると思ったわけだ。まさか、義理の弟が生きてたとはな。杏奈は空の話を聞き、さっき澪が車椅子を押していた光景を思い出した。そして、澪をきつく睨みつけた。「どうして健吾さんはあんな大怪我を?あなたは、さっき彼をどこへ連れて行くつもりだったの?」それでも澪は強く言い張った。「言ったでしょ。彼はあなたが思っているあの人じゃない!私の彼氏なんだから、どこに連れて行こうが私の勝手よ!」「あなたの彼氏だって?健吾さんは、私の夫よ!」杏奈は、はっきりと言い放った。そして腕の中の赤ちゃんも、まるで杏奈の言葉に合わせるように、くぅ、くぅと声を漏らした。すると澪の視線が、杏奈の腕の中に注がれた。これが健吾と、この女の娘?その瞬間彼女の瞳には、燃え盛るような嫉妬の炎が宿った。澪は杏奈を睨みつけながら言った。「言っておくけど、昔は健吾さんもあなたのこと
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