All Chapters of 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる : Chapter 91 - Chapter 100

111 Chapters

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「俺たちに何かあるかも、とでも思っているのか?」「……どうしてそれを?」レティーシャは驚いたが、自分を見る目の優しさに強がりの鎧が外れた。「みんの声が聞こえなくなるのは嫌です」「俺は、絶対に君を一人にしない」レティーシャを捕らえた赤い瞳がやんちゃな光を帯び、アレックスの表情が小さな男の子が宝物を披露するような自慢げなものになる。「安心しろ、俺たちは全員ウィンスロープだ」ウィンスロープの名に、周りが静かになる。「ソフィアだって戦うぞ、彼女の平手打ちはすごいのだからな。何度この尻を叩かれたか。誰もそう簡単にやられないし……もともと、先手必勝がお家芸だ」アレックスが顔をあげ、会場の者たちをじっくり見わたす。その美しい赤い目は悪魔のような冷酷な光を宿す。「ネズミがどれだけ湧こうが、レティーシャが心配するようなことはない。レティーシャの目に留まる前に、俺たちが仕留めてみせる。ネズミ捕りは……それはそれはもう、とーっても得意だからな。いままでは使用人に任せていたが、そろそろ俺も出ようか。我が愛槍もたまには活躍したいだろうからな」ただ一人、身長差でアレックスの目が見えないレティーシャだけはその目の本気に気づいていなかった。悪魔のように笑うアレックスに気づかず、その腕の中で安心していた。「アレックス様」すり寄るようなレティーシャにアレックスは驚き、紅蓮の悪魔がひゅっと引っ込んだ。威圧感は霧散し、貴族たちは(特に男)はほうっと息を吐く。「レ、レティーシャ?」キョドるアレックスの目に映る自分をレティーシャはジッと見る。(もし囚われるなら、この赤色世界がいいわ……)「アレックス様……」「レティーシャ……」完全に二人の世界。まるで歌劇のワンシーン。そして、歌劇ならここで幕が降りるのだが――。「ウィンスロープ公爵! 義理のご姉弟の仲が良いのはいいことですが適切な距離を保たれてはいかがですか?」その言葉にレティーシャはパッとアレックスから離れた。レティーシャはこの瞬間までアレックスがラシャータの夫であることを失念していた。例えそれが書類上の関係とはいえ、自分たちの姿は不適切に違いなかった。(私、アレックス様の醜聞に……)どう振舞っていいか分からず戸惑うレティーシャの肩に、アレックスの手が触れる。その温かさと大きさにレティーシャの目
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(それにしても……)事情は分かったが、レティーシャは居た堪れない空気を感じていた。まるで巨大魔獣が暴れたあとのような、何をしていいか分からない空気。(誰か……あ、私がいまここでクシャミでもすれば……)「レティーシャ!」どうにかしてクシャミをして空気を変えようとレティーシャが思ったとき、国王ファウストが登場した。そのあとを王妃マリアローゼットと四人の子どもたちがやってくる。王族登場。とりあえずやることはできたとばかりに、皆一斉に安堵した表情で頭を下げた。レティーシャも同じようにレダの隣で頭を下げようとしたが、そんなレティーシャにファイストがガバッと抱きついた。「レティーシャ、我が娘よ!」(え?)「レティーシャ、私のレティーシャ。この不甲斐ない父を許しておくれ」(父?)「お前が生きていると知っていれば……もっと早く、私は告白をすればよかった。ずっと……助け出すことができなくて、本当にすまなかった……ごめんな…ィ」(いま……陛下は囁くような小さな御声でサフィって……それは、お母様? 二人は、いったい……)唖然とするレティーシャにファイストはパッと体を離し、レティーシャの顔を見て力強くうなづいた。「そなたは私の娘だ!」レティーシャの頭は混乱して、何も考えられなかった。「この場を借りて、皆に告白する。告解だと思って聞いてほしい」レティーシャをファイストは優しく抱き寄せる。「ここにいるレティーシャは私の娘なのだ!」会場がざわつく。「私とレティーシャの母であるサフィニアとは恋仲であったことを知っている者はおろう」(……え?)レティーシャは驚いたが、ざわめきは小さい。ファウストが言ったように知っている者も多いことがレティーシャには分かった。(お母様が、この方と……)ジッとファウストを見ていたレティーシャは、脳内が落ち着いてくると彼があの日あの小さな庭で会った庭師だと気づいた。確かに庭師と紹介されたわけではないが、国王に対して庭師のように接してしまったとレティーシャは少し慌てた。それに気づいたファウストは優しくレティーシャに笑う。その笑顔に、レティーシャの心は不思議と落ち着いた。(お母様は、この方に恋をしたのね……)ファウストの笑顔に、レティーシャは自然とそう思うことができた。レティーシャの中で、母サフィニアは王命で
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さいは投げられた。マリアローゼットに呼ばれた日、アレックスはファウストからこの『聖女を消す計画』のことを聞かされた。協力を求められたが、アレックスは協力するにあたって条件を一つだけ付けた。それは、レティーシャ自身がファウストの娘になることを決めたらというものだった。(レティーシャは、自分の選択の結果を理解できない女性ではないからな)アレックスとしても、聖女がいることでの国の歪みは痛いほど理解している。だから計画には基本的には賛成。しかし、レティーシャの意思をよそにおいてそれを実行はさせたくなかった。(レティーシャに幸せになってほしいが、レティーシャの幸せをレティーシャ以外が決めるのは間違っている)。―― 『助けにきたよ、姫』ってやつは、姫が望んでなければただの迷惑行為よね。妹オリヴィア主催の会議により、女心についての教育がアレックスに効いていた。それを思い出しながら、アレックスはオリヴィアに目を向けた。オリヴィアは兄アレックスの視線に気づき、口元を隠していた扇子を閉じると、閉じた扇子で首を切る真似をした。令嬢のやる仕草ではない。(あんなことをどこで覚えたんだ?)アレックスは呆れたが、嫁にいく先のソーンが隣で満足気なので放っておくことにした。それに、いまはレティーシャに集中したい。嫁にいく愛する妹よりも、自分のところにくる最愛の嫁(候補)のほうが大事。しかも……。(これで怖いものはない。レティーシャは幸せになる覚悟をしてくれた。レティーシャが覚悟を決めたなら、もう遠慮はしない)レティーシャの判断の結果は、どんなことになっても共に背負うとアレックスは決めていた。誰かの犠牲の上に成り立つと分かっていて選んだなら、その責任も一緒に背負う。受け身になるかわいい性格などしていないから、犠牲になる誰かも救ってみせるとアレックスは思っていた。アレックスはその覚悟を持って『大丈夫』と頷いた。レティーシャも覚悟して『聖女を消す計画』の共犯者になった。こうなったらアレックスがいますることはただ一つ。どんな手を使ってでも、レティーシャを『サフィニアが産んだ国王の娘』にする。(そうは言っても、現時点でほぼ九割は終わっているんだがな)仕込みはできている。ラシャータの腕にはまっているアレだ。(しかし……)「ラシャータ様、無理です。職人
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『マスター、何カ御用デスカ?』「きゃああああっ」「また喋った!」腕甲(名前:カホー君)に話しかけることにアレックスは滑稽さを感じていたが、ラシャータとサリーが盛大に驚いたので胸がすく思いがした。「カホー君、伯爵とレティーシャの声は覚えているな?」『モッチロンデース』「会話を再生してくれ」『喜ンデー』(サフィール商会の人に音声を入力してもらったが、どこの商人だ).『ラシャータ、やっと会えたな』『……はい』『久しぶりなんだ、二人で話したい……分かるな?』「カホー君、ストップ」『はい、マスター』アレックスは伯爵を見た。「伯爵、なぜレティーシャを『ラシャータ』と呼んだ?」「間違えたのです!」(まあ、そうくるよな)堂々と嘘を吐く伯爵にアレックスはため息を堪える。「カホー君、続きを再生してくれ」『カッシコマリマシター』「……なんかルトヴィスと話しているみたいで嫌になるな」アレックスの言葉にルトヴィスは『ショック』という表情をしてみせたが、その目は本気で怒っていた。カリーナの息子であるルトヴィスにとってレティーシャは従姉だからだ。.『この二人は関係ありません! 今すぐ、外に……』『もういい、私はそう言ったぞ? レティーシャ』『あ……」(レティーシャ……)『お前はいつもそう言うが、関係ない? そんなわけがない、全部お前のせいだ。全てはお前が悪い。私の言いつけを守らないお前が悪い。なあ、分かっているよな』『おやめください!』(伯爵め……)『可哀そうに。こいつらもお前のせいで死ぬことになる。お前のせいで、なあ……?』『やめてええええ!』(絶対に簡単には死なせん!)再生されたレティーシャの恐怖に満ちた悲鳴にアレックスの額に青筋が立つ。観衆は女性を中心に、伯爵に対して嫌悪の視線を向けはじめた。「これが、家族の会話、ねえ……王妃、どうしようか」ファウストから話を振られた王妃マリアローゼットは悩むそぶりを見せた。「王家としては……」マリアローゼットはレティーシャをチラッと見た。その目には、懐疑的な色が浮かんでいる。「彼女が本当に王女だというなら、王女を隠匿した罪を問うべきですわ」「私の娘だと言っているだろう」「そう仰っているのは陛下だけでございます。この件は、皆にも分かる証明が必要です」「証明、
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「おお……フレマンの証が……」「それでは、やはりあの方はサフィニア夫人がお生みになったレティーシャ様か」フレマン侯爵の前に置かれた杯と、レティーシャの前に置かれた杯が光る。それぞれの杯には各人の血が入っており、神殿長が鑑定魔法を使うとその証を持つ血が光る。レティーシャの前の杯の輝きに会場がざわめいた。(……この方が、お祖父様)レティーシャは、隣にいるフレマン侯爵をジッと見る。(……お身体が……こんなに細くてどこかお悪いのかしら)確かにフレマン侯爵は細いが、病気を心配されるほど虚弱ではない。(逃亡していらしたのですもの、食事とか困ったに違いありませんわ……)ウィンスロープを見慣れていたレティーシャの中の標準体型の『標準』が変わってしまっていた。.「続きまして、スフィアの証の鑑定をします」神殿長の言葉に、レティーシャは震えた。(血を鑑定するとなったときから、こうなると分かっていました)レティーシャの心の中で「ありがとう」と「ごめんなさい」がぐるぐる回る。「あの……」「……どうなさいましたか、レティーシャ様」猫なで声にも聞こえる神殿長の声にレティーシャはゾッとした。思わず視線を父伯爵に向けると、彼はとても満足気だった。(そうだわ……神殿こそ聖女信仰の総本山。そしてこの声にも、覚えがある)―― 聖女様に感謝をささげなさい。月のない夜、父伯爵に連れていかれた先でいつもこの声を聞いていた。 (神殿長と伯爵様は、仲間だったのだわ……私は、これから神殿に……そうなったら、もう……)レティーシャがソフィア邸に戻されることは、虐待を訴えてレティーシャが拒否すればないだろう。しかし、レティーシャは聖女だから安全な場所に置かれることになる。一番可能性があるのが、神殿。(神殿にいけば、神殿から出てこられなくなるだろう)それは嫌だが、血の鑑定を誤魔化すことはできない。レティーシャには逃れる術はなかった。(その前に……)「少しだけ……ウィンスロープ公爵閣下と話をさせてくださいませ」「……少しだけですよ」勝ち誇った声音を懐の広さを示すことで誤魔化す神殿長。神殿長から目を逸らしたレティーシャは、ロシェットのもとにいく。「奥様? どうなさいましたか?」「ロシェット……今までどうもありがとう」「奥様……」「最後にもう一つだけ、あ
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アレックスの驚いた顔、その赤い目に映る自分が笑顔であることにレティーシャは満足した。「大好きですわ、アレックス様。どうか……お幸せに……」アレックスの瞳に映る自分は笑顔でありたいから、レティーシャは泣く前に踵を返した。そしてそのまま去ろうとしたが……。「レティーシャ」手を引っ張られて、無理やりアレックスに向き直される。「え……」驚く間もなく、額にアレックスの唇の温もりを感じた。「俺から、いや、俺たちウィンスロープから逃げられると思うなよ」「……アレックス様?」驚くレティーシャをよそに、アレックスは子どものように笑う。「俺のピンクの目をした可愛い子。君はずっと前から俺のものだ」突然のキスシーン(額)と無表情が標準のアレックスの満面の笑み。ロマンス要素満載の雰囲気に会場中が飲まれたが、どこにでも空気の読めない者はいる。「アレックス様!」ラシャータだ。「この私の前でそんな……私に恥をかかせるおつもりですか?」いや、これも劇の一幕とすれば胸アツの展開である。しかし胸アツの展開には、ヒーロー(アレックス)の熱意が足りない。「今さらだろう。お前、ずっと恥かいてるぞ」アレックスは呆れきっていた。「そんなの腕につけて、馬鹿なのか?」「そんなのって、これはウィンスロープの家宝ですのよ?」「確かにウィンスロープの家宝だが、おまえには不要なものだろう」「私がアレックス様の妻だからですわ」「胸糞悪いことをまだ……もう、いいや」話が通じない相手なので、アレックスはそこを無視した。「それだけど、腕甲だぞ?」(……え?)レティーシャはラシャータのそれを見る。(腕甲……やっぱり)「騎士でもないお前がなんで腕甲なんてつけているんだ?」アレックスが心底不思議そうに首を傾げる。レティーシャはその白々しさに唖然とし、ロシェットを思わず見る。レティーシャの視線を感じたロシェットは、舌を出して笑って見せた。(なんてこと……)がっくりと項垂れそうになったレティーシャの肩を、アレックスが抱き寄せる。恋人らしい甘やかな仕草であるが、レティーシャ本人は項垂れないように支えられている感があった。「目をしっかり開いて周りを見ろ」アレックスが近衛騎士の集まっている場所を指さす。「近衛騎士たちも、同じものをつけているだろう」ラシャータが近衛騎士
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「……は?」スフィア伯爵の声だけが会場に響いた。なぜならスフィアの証の鑑定をして、伯爵の前にある杯だけが光っていた。レティーシャとラシャータの前にある杯はどちらも光っていない。「二人とも……聖女、ではない?」誰かの一言で、会場は蜂の巣を突いたような騒ぎになった。レティーシャとラシャータにはスフィアの証がないなら、聖女が二人どころか、聖女などいないということになる。「どういうことだ!」責める貴族たちに、伯爵は焦りって神殿長を睨む。「なにをしている! もう一度だ!」「は、はい!」(どこにも帰属しないはずの神殿の長があの態度、か)アレックスの眉間に皺が寄る。(やはり、神殿長も伯爵と甘い汁を吸っていたのか)スフィア家の金の使い方から、どこからか高額な収入を得ていることは分かっていた。高額な稼ぎが見込めるものなど、スフィア家にはレティーシャしかいない。聖女レティーシャの力で荒稼ぎをするにせよ、けが人や病人の情報が必要となる。(しかも金を持っている瀕死の患者を探すなら、“神頼み”の神殿が一番うってつけだ)「スフィアの証を照らせ!」(腐れ神官だが、腐っても神の使徒。鑑定魔法は本物だ)神殿長の鑑定魔法によって、スフィアの証が光る。しかし、やはり光っているのは伯爵の前の杯だけだった。その光景に、アレックスはそっと体の力を抜いた。(うまくいった……)「もう一度」とせがむ伯爵を表情を変えずに観察しながら、できるならこの場でしゃがみ込みたいくらい、アレックスは安心していた。(何しろ、ぶっつけ本番だからな)「お疲れさん」肩にロドリゴの手が置かれ、アレックスは振り返る。「どうも」愕然としているラシャータに視線を移し、そのまま腕にはまったままのカホー君を見る。「流石だな」「本当に」ロドリゴの声に小さく応えながら、アレックスはフレマン侯爵に目を向ける。アレックスの視線に気づいたのか、フレマン侯爵はにこりと笑った。(本当に……怖い御仁だ)首から下は不要と言われるフレマン侯爵は、首の上にある頭を使って「鑑定魔法を誤魔化す方法」を考えた。古代魔法は言語も術式も失われてしまった魔法だから、まだ現代魔法の鑑定魔法のほうが攻略できるとフレマン侯爵は考えた。そして思いついた方法は、血を変えてしまおうということ。フレマン侯爵がいた隣国は、
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アレックスのもとにこの原理と付与装置が届いたとき、原理のほうは別にいいが装置のほうに困った。付与装置はできるだけレティーシャの身に接触さかなければいけない仕様なのだが、その装置が大きい。どうすると頭を悩ませているとき、さらにもう一つ問題が発生。キツネ狩りで森に入る前に健康観察が必要とレティーシャに嘘をついて付与装置を使ってみたところ、健康の確認で採決した血からは『スフィア』と『フレマン』が鑑定された。異常があったということで再検査を称して再度装置をレティーシャに使い、またレティーシャから血をとった。やはり、同じように『スフィア』と『フレマン』が鑑定された。ちなみに、注射嫌いのレティーシャは、「注射はもう嫌ですわ」とレティーシャはぺしょっとしていた。アレックスは「可愛いなあ」と思ったし、可哀そうにもなったが、心を鬼にして何度も実験(採血)を行った。その甲斐もあり、フレマン侯爵はレティーシャの治癒力がカリーナの血に書き換えられた血を異常と判断して元の自分の血に治してしまっているのではないかと仮定した。残念ながら、これについては確認しようもない。時間もないということで、レティーシャの治癒力を一時的でも使えなくする方法を侯爵は考えた。治癒力といっても、魔法である。そして、魔法を使わせなくする方法は三つある。一、魔力を放出させない魔導具を使う。これが一般的な方法だが、体内で無意識に魔法を使っているレティーシャには意味がない。二、魔素を吸収させない魔導具を使う。しかし体内の魔力は残ったままなので、治癒力は使えてしまう。三、魔力を枯渇させる。アレックスとファウストはいろいろ考えた。魔導具作りはもともとはファウストの趣味で、彼の膝に乗ってアレックスはいろいろ覚えたのだ。つまり二人は、師匠と弟子の関係。ふたりは考えに考え、結界で魔素の供給を絶つと同時に、魔石にレティーシャの体内の魔力を吸収させて枯渇させることにした。血液情報の書き換え機能に、魔素供給を遮断する結界機能と、魔石に魔力を吸収させる機能が追加。もともと大きかった装置がさらに大きくなった。しかも、レティーシャの魔力すべてを内包するほど巨大な魔石もくっつけないといけない。さて、どうする。ここで、腕甲の登場。それでも、アレックスは母親が遺した宝飾品をまず確認したのだ。しかし
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「仮に私の子ではないとしても、陛下の御子だとはなりません」聖女でないだけでも問題なのだが、ここで王女となるとさらに罪が追加される。それはまずいと伯爵は考えた。「陛下の御子だという証拠を……」「それでは私の血と鑑定してみるか?」「……王太子殿下?」伯爵の言葉を遮って、カリストロ王太子が前に進み出た。カリストロがレティーシャを見た。その目はマリアローゼットと同じ懐疑的なものと、それに加えて世間が婚外子に向けるのと同じ、忌避感があった。「もし彼女が父上の娘なら私の異母姉、父上の長子となる」カリストロの言葉に、レティーシャはハッとした。そして首を横に振る。「ご本人の意思はどうであれ、権利はあるということ。ヒルデガルド王女のときと違い、いまは女性も王位や爵位を継承できる。つまり、もちろんご本人の希望次第ではあるが、彼女が長子なら女王にもなれる可能性があるということだ」不安げな表情のカリストロを見た伯爵はニヤリと笑った。血族かどうかの鑑定は血があればできる。しかし王族に対して鑑定を要求するということは、血を要求することと同義。それは処刑されてもおかしくない不敬。(しかし、王太子自らが血を提供すると言っているのならば問題はない……と言ったところの顔だな)「王太子殿下がそこまで仰るから」伯爵の言葉にカリストロは鷹揚に頷くと、救護天幕前にいた典医に指示を出した。アレックスの目の治療のためにウィンスロープ邸にきたあの典医だ。「それでは殿下、レティーシャ嬢、あちらの救護天幕で採血を……」「ならん」「……王太子殿下?」典医の言葉を遮って、カリストロはこの場での採血を要求した。「万が一にも不正があったら困るからな」カリストロは厳しい表情を少し緩める。「もちろん典医を信じている。しかし……私も冷静ではいられないのだ」「王太子殿下……お気持ちはわかりますが、王族の体に針を刺すところを見せるのは……」「それなら布をかけて見えなくすればいい」(注射と聞いて、レティーシャは嫌そうだ。わけの分からない状態が続いて混乱しているのだろうし……それにしても……)「坊や、大丈夫か?」「おっさん……あのレティーシャの縋るような目」「……あん?」「堪らない、可愛すぎる」アレックスが本音を漏らすと、ロドリゴは呆れた。「大丈夫そうでなによりだが、
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100

レティーシャが目を覚ますと、とても豪華な部屋だった。(一体なにが、どうなっているのかしら……)ぼんやりとした頭で、自分の状態を確認しようとレティーシャの本能が働いた。しかし……。「うひっ」レティーシャが掛布団から出していた腕には、また針が刺さっていた。しかし、注射ではない。「これは……点滴?」隣国から輸入した医学書がウィンスロープ邸にあり、そこで挿絵で見たことがあるが、体内で治癒力が自動的に発動して健康が維持されるレティーシャは実物を見るのは初めてだった。興味深くそれを観察していたのが幸いし、レティーシャは自分の腕に針が刺さったままであることを忘れられた。「レティーシャ」レティーシャの声に気づいたアレックスが、ノックもなく部屋に入ってきた。恋する男は耳がいい。そしてアレックスのあとを追うように、多くの人が入ってきた。「アレックス様……私、どうして……ここは……」「落ち着いて、レティーシャ」アレックスはベッド脇の膝をつき、レティーシャの手を取る。「ここは城の中の客室だ。君はここにいるカリストロとの血縁だと認められたところで、気を失ったんだ。多分精神的な限界がきたのだろう」アレックスの説明は分かりやすく、なにがあって、いま自分がどこにいるかがレティーシャには分かった。「本当はウィンスロープに連れていきたかったのだが陛下が駄々をこねてね」「あ……あぅ……」ただ、それ以前に分からないことが多過ぎる。(どうしてこうなったかを……いいえ、必要ありませんね)ここに至るまでの過程。なぜ、自分の血の中のスフィアの証が光らなかったのか。なぜ、自分の血の中に王家の証があったのか。それを聞こうとしたが、レティーシャはやめた。どんな形であれ、レティーシャは聖女ではなくファウストの娘だと証拠つきで認められた。レティーシャが願った通りの結果であり――。(陛下の策にのると決めたのだから……)レティーシャは改めて決意するようにグッと力を込めて手を握る。「あらあら、さすがフレマンだわ」楽し気な夫人の声に人垣が割れた。「とても賢いこと」レティーシャは微笑む夫人が誰かは分からなかったが、祖父だと名乗ったフレマン侯爵が仲良く寄り添う姿を見て、その夫人が誰か分かった。「お祖母、様……ですか?」「ええ、そうよ。レティーシャ……本当に大きくな
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