جميع فصول : الفصل -الفصل 70

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(兄貴?)扉の開く音にケヴィンは顔をそちらに向けたが、すぐに落胆した。「なんだ、ロイかよ」ロシェットに連行されて第三応接室に一人放り込まれたケヴィンは膨れていた。そして入ってきたのがロイだから、ケヴィンの機嫌はさらに悪くなる。「すみません、私で。相変わらずケヴィン様は主ラブですね」「気持ち悪い表現をやめろ、ロイ」ロイのこういうところがケヴィンは苦手だった。苦手だったが、現時点でこの部屋にはケヴィンの他にはロイしかいない。「どうしちゃったんだ、兄貴は」「どう、とは?」「兄貴の元気な姿は無事は国の安寧につながるから新聞が大々的に報じるのは分かる。でも、甘々デートってなんだよ?」「デートはデートですよ。かなり糖度高めでしたが、立派なデートでしたよ。あれ、ケヴィン様はデートをご存知ありませんか?」「知ってるわ!」ロイのこういうところが、ケヴィンは本当に苦手だった。「そうじゃなくて、いくらあの女に借りがあるからって何やってるんだよ」「え……ケヴィン様、ご存知ないんですか?」思ってもいないロイの反応。ケヴィンとしても『え?』である。「確かに俺も教えなかったけれど……え、誰も教えなかったのか? え……」「……なんだよ」「ケヴィン様、可哀そう」「よく分からないことを言って勝手に同情するのをやめろ! お前のこういうところ、本当にヤダッ!」(知らない? 何が? くそっ、ロイに聞くのは絶対に嫌だ).部屋に入ってきたアレックスは、威嚇する猫のようにフーッフーッ言っているケヴィンと、その傍で飄々としているロイの姿に状況を察した。「ロイ、ケヴィンを揶揄うのはやめろ」「申しわけありません。でも、これは私の趣味でして」「「違う趣味を見つけろ」」「仲良しっ!」兄弟に同時に突っ込まれたロイは笑い、「よかったですねー」とケヴィンを茶化した。これでまたケヴィンのボルテージが上がるところだったが、アレックスについて応接室に入ってきたカシムの姿に気づいた。カシムが味覚障害で庭師になったことを思い出したからだ。怪訝な思いは、カシムに続いて入ってきた人物の姿に驚いて吹っ飛んだ。「トニア! お前なんて恰好してんだ!」「騎士をやめて侍女になったからです」心底不思議そうにトニアが首を傾げる。「何か問題がありますか?」トニアはケヴィン
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「新しい聖女が生まれたなんて聞いてないぞ」「お前の目には彼女が赤子に見えたのか?」「いや、大人の女だった」厨房で見た『ラシャータ』を思い出しながら、ケヴィンが両手で女性の体を象ってみせた。 ヒュンッ風を切る音がしたと思ったら、目の前にアレックスのペンがあった。取ってから、投げたアレックスに抗議する。「危ないだろっ」「下品な目で彼女を見るな」「だからって……弟を殺す気かよ」止めたペンを呆れたように回してみせると、グレイブがふうっとため息を吐いた。「ケヴィン様。いま旦那様は恋愛中のウッキウキなのです。冗談は通じません」「恋愛中、あの……」(聖女ラシャータと同じ年頃……同じ顔……)「聖女レティーシャ? あの、三歳で亡くなった? え、生きていたよな?」怪談が苦手なケヴィンの頭から血の気が引いた。「当り前だ」「え…………ええええ」ケヴィンが大きな声で驚く。「驚かせたと思うが、俺は……」「やったじゃん、兄貴!」「……ん?」思いきりケヴィンに肩を叩かれて、不意を突かれたアレックスは一歩前によろめいた。アレックスは驚いた顔でケヴィンを見る。「彼女が、兄貴の初恋の“ピンクの目の可愛い子”か。父上に言われて名前を呼ぶ許可をとろうとした矢先に彼女が亡くなって、ジジイの命令で代わりにクソ女が産んだあのラシャータと婚約する羽目になったんだろう?」「……お前、あの頃はまだ小さかっただろう。それを、まるで見聞きしたみたいに……どうして……」「そういや、どうしてだろう?」ケヴィンが首を傾げると、グレイブが咳払いをした。「恐らく、大奥様の寝物語のせいではないでしょうか」「「寝物語?」」首を傾げる兄弟にグレイブが説明したのは、二人の亡き母親ヒルデガルドがケヴィンを寝かしつけるときに恨み節で当時のことを話していたということ。「復讐の魔物でも育成しているのかと思うほど、怨嗟のこもった声でしたよ。ケヴィン様が素直すぎるくらい天真爛漫に育って、じいは心から安心しました」「そう思うなら止めてよ……まあ、母上も後悔していたんだろうけれど」「レティーシャの母親を妹のように可愛がっていたらしいからな」「それもあるけれど、母上は兄貴があの女との結婚を嫌がって逃げていたことに安心していて、他の女と遊んであっちから婚約破棄をさせようとしていた作戦には感心
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「もう結婚してるのに、何やってんだ?」「この結婚だって……いつ離婚されてもおかしくないものだ」アレックスの自信のなさはケヴィンには意外で、笑ってしまえるものだった。「王命による結婚をそう簡単になかったことになどできやしないだろ」「彼女はあの聖女レティーシャなんだぞ」アレックスの言葉に、ケヴィンの顔から笑みが消えた。「……ああ、そうか」レティーシャはあの『悲劇の夫人』と言われるサフィニアの娘。母に次いで娘にまで王命で結婚を強いることは問題になるし、確実に貴族派が問題にする。貴族派の行動は情によるものではない。もともと彼らは国王派筆頭のアレックスとラシャータの結婚をよしと思っていなかった。普通の貴族ならば聖女の力で男の家のほうを貴族派に引っ張り込めるが、ウィンスロープはアレックス個人の名声だけでも貴族派が全力で引いても微動だにしない。だからレティーシャが望んでいないという事実が表に出れば、蜂の巣をつついたような騒ぎにするに違いないのだ。(どちらにせよ、兄貴は彼女と離婚する羽目になる、と)「兄貴が彼女と夫婦でいるためには、彼女がそれを望まなければいけないってことか。まあ、兄貴なら大丈夫なんじゃない? 新聞のラブラブデートだって本当のことなんだ……ええ、なにその顔?」落ち込むアレックスにケヴィンは本気で驚いた。そんなケヴィンの前にグレイブが進み出る。「それがですね、旦那様ときたら本命相手にはからっきしなのです。ヘタレもヘタレ、ヘタレ中のヘタレでございます」「ええ、まさにヘタレを絵にかいたような正真正銘のヘタレです」グレイブの言葉を、ソフィア補足。ヘタレと何回も言われて、アレックスは項垂れる。「……兄貴の勝算は?」「五分五分でしょうか」「甘いですわ。二割以下です」スフィアはグレイブの半分以下で評価した。グレイブの『もう少しは』と顔は、子どもに甘い親そのもの。一方で、フンスッと断言するソフィア。(ソフィアの値のほうが真実味があるな)「ご安心ください、旦那様」「ソフィア、何か秘策があるのか?」(さすが、俺たち兄弟の乳母、頼もしい)「旦那様の骨は責任をもって私が拾います」自信満々にぱあんっと胸元を叩いたソフィアの姿は漢らしい。(うん。さすが、俺たち兄弟の乳母、逞しい)「何でフラれる前提なんだ? その根拠は?」「
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「あの悪女が、【いい人】ですって……?」オリヴィアの体は怒りでプルプルと震えた。「ケヴィンお兄様……あの兄……アンデッド狩りがアンデッドになりやがりましたわ」アレックスのラブラブ王都デートの新聞記事に驚いたのは、アレックスの弟のケヴィンだけではない。アレックスのオリヴィアも「どうしちゃったの、お兄様!」となった。オリヴィアはアレックスの体から瘴気が取り除かれたという連絡をもらったところで、幼い頃から滞在している婚約者の領地に戻った。婚約者の領地、ピッカート伯爵領はウィンスロープ領の隣。二つとも広い領地であるが、意外と領都同士は近く、馬車で半日の距離。アレックスのラブラブ王都デートの記事に驚いて急いで実家に戻り、ケヴィンの胸倉につかみかかった。そして兄妹はその日深夜まで話し合った。そして、騎馬で王都まで行ける機動力の高いケヴィンがアレックスのところに行くことで話がついた。「あの兄、“兄貴は義理を感じてあの女を追い出せないに違いない。俺があの女を追い出してくる”と言って出かけていきましたのよ」そんな次兄の姿に、オリヴィアは頼もしさを感じた。そして、「王都に行くならとついでに」と、いま王都で人気の化粧品をお土産に頼んでケヴィンを送り出した。そしてようやく、首を長くして待っていたケヴィンからの報告の手紙を手にしたわけだが――。 「【いい人だった。安心しろ】ですって!?」オリヴィアはケヴィンからの手紙をぐしゃりと丸めた。「オリー、落ち着いて」オリヴィアを宥めるのはピッカート伯爵家の長男ソーン。オリヴィアの婚約者である。「仕方がないよ、ケヴィン兄さんにとって美味しいものをくれる人は漏れなく全員“いい人”だから」ウィンスロープ領、その両隣にあるグロッタ領とピッカート領。この三つの領主家は昔から仲がよく、子どもたちの交流も昔から盛んで、ケヴィンはグロッタ領主のご令嬢と婚約しているためウィンスロープ三兄弟を軸に次代も安泰だと言われている。ソーンはオリヴィアと同じ年で、アレックスとケヴィンを自分の兄のように慕っている。慕っているが、ケヴィンに対する評価は公平。それはそれ、ソーンは公私の区別ができる人である。「ソーン、あの兄って、そんな感じ?」「ざっくり言うと、そんなだよね」オリヴィアは肩を落とす。兄に対して少々甘いのはオリヴィア
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この国には『三花』と呼ばれる女の社交界の三巨頭がいる。家格で選ばれるわけでもなく、その時代の女性たちの憧れや尊敬といったものから生まれるため、それに選ばれるということは凄いことである。オリヴィアはその三花の一人。兄たちが家と領地のために頑張っている姿にオリヴィアも自分のできることを考え、そして女主人の不在を埋めるために自分が女の社交界でトップに立つことに決めた。オリヴィアは三花となるため、ソーンの母親であり以前は三花でもあったピッカート伯爵夫人に師事して社交術を学んだ。(お義母様のときは、お義母様、王妃様、サフィニア様が『三花』だったのよね)サフィニアはオリヴィアの母ヒルデガルドの友人だったが、彼女が亡くなったときはまだ生まれておらず、オリヴィアは母親がサフィニアを惜しむ言葉を聞いて育った。ケヴィンも聞いて育った、例の寝物語である。その結果、オリヴィアはサフィニアを敬愛している。男子と女子は感じ方が違うのである。サフィニアの娘のレティーシャ様が生きていれば、アレックスが美人に弱くて下半身のだらしない男になり下がらなかったと思っている。「ソーン、お兄様たちのところにちょっと行ってきますわ」「頑張ってね」ソーンに見送られてオリヴィアは領地を発った。抜き打ち検査だから領地から連絡はしなかった。王都につく前の晩、宿から【これから行きます】と手紙をタウンハウスに送った。作戦成功とオリヴィアは思ったが、実は同じことをケヴィンがしていた。さすが兄妹である。.「え、お兄様?」翌日、オリヴィアはウィンスロープ家のタウンハウスの前につけた馬車から降りようとしたところで、待ち構えていた兄二人によって馬車に押し戻された。「どうして、いつもなら騎士団に……」「馬車を出せ」「お兄さ……っ、きゃあっ」驚くオリヴィアを無視して、アレックスの命令を受けた御者は勢いよく馬車を出発させた。瞬く間に、レティーシャが客がきたと知る前に、馬車はタウンハウスから出ていった。「適当に走らせろ」アレックスのその命令は、普段はウィンスロープ領都にいる御者には酷な命令。ウィンスリープ領都は決して田舎ではなく、王都に劣らず人がいるが、王都の地理がない御者の男にとってどこに行っても人が多いという印象になる。結果、馬車は来た道を戻り、王都を出ていった。護衛についた騎
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「どうしてアレク兄様だけあんな性悪で、貞操観念の欠片も無く好みの男なら誰彼構わずとっかえひっかえ……それはお兄様も一緒ですけれどね!」「違うん……」「何が違いますの? お兄様が春の園遊会でアゼルダ男爵夫人と懇ろになったことを私が知らないとでも?」「……は?」オリヴィアの言葉にアレックスがぎょっとする。「ど、どうしてそれを?」「お兄様……社交界に『ここだけの秘密♡』なんてありませんからね。秋の狩猟大会の後のことも、王家主催の新年の夜会の後のことも、あれやこれや、私はよーく知っているんですからね」オリヴィアだって彼女たちのマウント発言の全てを信じているわけではない。あること三割、ないこと七割くらいで聞いている。でも「私、ウィンスロープ公爵と……///」と言ってくる女が多過ぎた。十人いれば三人は真実、十分多い。「理解あるタイプだと……」「言葉飾らない、一夜で満足するあと腐れがない女ってことでしょう?」オリヴィアの一刀両断にアレックスは口を噤む。「お兄様、容器しか興味がないからその辺りが適当過ぎなのです」「容器……」「どの方も社交場では二枚貝のようにぱっくり口を開けてますわ。おかげで声に出すなんてとてもできない情熱的なお話しをたーくさん聞かされて、私の耳が腐りそうですわ」「声に出すなんてとてもできない……」「そうですわ! ……って、アレク兄様?」オリヴィアはギョッとする。「どうしてそんなにシュンッと……もしかして、反省していらっしゃるの? え、お兄様が? 嘘!」今までオリヴィアが諫めても、アレックスの「身を改める」はほぼポーズだった。しかし、いまのアレックスは心底過去の自分の所業を恥じているように思えた。(何が、どうなっていますの? まさか……アレク兄様、本気でラシャータに惚れてしまったとでもいうの?)「オリヴィア……」「な、なんですの?」アレックスの真剣な声に、思わずオリヴィアの腰が思わず引けた。「今から話す『ここだけの秘密』は絶対にここだけにしてくれ。絶対にだ」「え……」「何があろうと誰かに話すことは俺が許さない。それが守れないというのなら、このまま領地に帰れ」アレックスの真剣な声と威圧の混じる空気に、オリヴィアは息を飲んで姿勢を正した。こんな雰囲気のアレックスは、オリヴィアにとっては兄ではない
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「奥様、鼠が数匹邸内に入り込みました」「まあ、また?」(首を傾げる奥様、とても可愛らしい)「鼠を駆除するため、邸内が騒がしくなります。しばらくオリヴィア様と温室でお過ごしくださいませ」「分かりました。それでしたら、お茶の用意も……お、お願いするわ」(使用人に命令することを慣れようとする奥様、たどたどしさが尊いわ)最近、ウィンスロープ公爵邸には不届き者の侵入が増えている。アレックスはわざと隙を作って鼠たちを迎え撃つ形に作戦を変更することになったからだ。これには、屋敷の周りにいる奴らに対して「目障り」「奥様の目に留めるわけにはいかない」「先手必勝」などと使用人の意見が殺到したという背景がある。鼠たちは大した手練れでもないため、その駆除は手の空いている者が担当することになった。多くの使用人がその「手の空いている者」になるため、毎日せっせと働き自分のノルマを一生懸命こなしている。レティーシャの聖女の力で肩こり、腰痛、失恋の痛みなど、いろいろなものを治してもらった者たちの恩返しだった。使用人たちの良い働きに、グレイブやソフィアたち幹部職は非常に満足している。結果オーライなのである。 (今回も大勢参加しているわね)温室から見える屋敷は貴族宅とは思えないほど賑やかである。剣が金属製の何かにぶつかる甲高い音、小規模ながら魔法を使っている音もした。(次回からは拳のみ使うように進言いたしましょう。切り傷や焼け焦げた跡のある場所を奥様に歩かせるわけにはいかないもの)そんなお祭り騒ぎの邸はレティーシャにも見えているはずだが、レティーシャは「大変ね」の一言ですませている。「私、よく効く殺鼠剤の作り方を知っているから、あちこちに置いてみたらどうかしら」(奥様……大変お可愛いらしい)レティーシャの可愛さにロシェットの内心はくねくねと悶えているのだが、表面上はスンとした無表情で凛とした立ち姿である。 .「お義姉様、大丈夫でしたか?」数人の騎士に囲まれたオリヴィアが温室に入ってきた。「レダ卿とロシェットが守ってくれたので何もありませんわ。でも、心配してくれてありがとうございます、オリヴィア様」(……奥様)レティーシャの信頼に感激しながら、ロシェットは温室の入口に向かう。そこにあるパネルを操作して、温室に付与された防御魔法を展開させた。
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屋敷への突撃を兄二人に止められたオリヴィア。『ラシャータ』は実はレティーシャであると聞いたとき、オリヴィアは「それなら……」と受け入れる姿勢を見せた。憧れのサフィニアの娘というフィルターが効いた。しかし、ケヴィンとアレックスが異様なほどレティーシャを擁護したため、オリヴィアは逆に疑いを持った。本当にそんないい人はいるのか?兄たちは騙されているのでは?だって、料理上手な美人なのだし。(自分がしっかり見極めなければと奮起したオリヴィア様……秒で陥落でしたわね)秒は大袈裟だが、レティーシャと対面したオリヴィアは見事にレティーシャに懐いた。ブラコンゆえに、数多の女性たちを妹の立場をフル活用して追い払ってきたオリヴィアの見事な豹変。使用人は驚いたが、オリヴィアはそんなことは気にしない。「ブラコン? なにそれ、おいしいの?」とばかりに、レティーシャを独り占めするのに邪魔なアレックスを邪険にしている。使用人もそんなオリヴィアに慣れてしまった。(奥様が聖女で天使で女神であることを差し引いても、旦那様のほうが分が悪いわ)美人で優しい義姉と、不愛想で邪魔くさい図体をしたイケメンだけど女の敵である実兄。オリヴィアの中の天秤が高速でレティーシャに傾いたのは当然だとロシェットは思っている。使用人からしてみたら、ブラコンがシスコンに代わっただけというのもある。それに……。(旦那様のときよりも、オリヴィア様にくっつかれるほうが奥様は嬉しそうだし)懐くオリヴィアを、レティーシャは可愛いと思っている。ある意味、ここで相思相愛が成立した。その結果、オリヴィアがレティーシャをほぼ独占。アレックスはピッカート領にいるソーン宛てに【早くオリヴィアを迎えにこい】と毎日のように手紙を出しているのだった。 .「お義姉様が作られたこのクッキーは絶品ですわ」「ありがとうございます」「本当に、いくらでも食べられますわ」「オリヴィアが食べてくれると思うと、作るのもとても楽しいのです。いつでも作りますからね」オリヴィアは『義妹の特権』とかいう、訳の分からないものを振りかざしてレティーシャに甘えまくっている。レティーシャも甘えられることが新鮮で、嬉しそうにオリヴィアを甘やかしている。甘やかされてメロメロになるオリヴィア。メロメロのオリヴィアが可愛いと、さらに甘やか
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レティーシャが離婚を考えるなら、原因は二つしかない。一つは、住み心地が悪い。もう一つは、アレックスとの結婚は嫌。最初の可能性は、オリヴィアが否定した。レティーシャは毎日楽しそうで、使用人に対して不満は見られないという分かりやすい理由が添えられた。そうなれば、理由はもう一つになる。―― アレク兄様との結婚は嫌だとお義姉様に思われないようにしなくては。初めのうちは、レティーシャが好みそうなロマンスを演出するなど意味のある話し合いが行われた。しかし時間と酒が進み、話し合いは明後日の方向に進んだ。明後日の方向に舵を切ったのはオリヴィアの「アレク兄様の顔面偏差値の高さは認めるけど、私はあんな男性と恋愛はできないわ」という発言だった。   ロシェットは、主であるアレックスの下半身事情などどうでもよかった。でも、それは今までの話。いまは全くよくない。社交界に数多いるアレックスの過去の女たちの嫉妬がレティーシャに向き、レティーシャを傷つけるなどあってはならないからだ。オリヴィアの「アレックスは過去の華やかな艶聞を恥じるべき」という意見に、ロシェットは深く同意した。“とりあえず”の心境で、ロシェットは「身綺麗にするため一年くらい神殿で潔斎させたらいい」という意見を出しておいた。こんな感じで、話し合いはどんどんアレックスをディスる方向に進んでいった。ヒートアップするあまり「レティーシャにはもっと相応しい男がいるのでは」と本末転倒な展開になりかけた。そこで、グレイブが慌てて軌道修正を図った。ロシェットとしては謎すぎるが、何を思ったのかグレイブは会議の場にアレックスを召喚した。深夜に寝床から引っ張り出されたアレックスは不機嫌を隠さなかった。会議の内容を聞いてさらに不機嫌になった。書き出されているのは全て自分へのダメ出し。当たり前である。しかし、ここでソフィアが爆弾を落とした。―― 旦那様の過去を洗いざらい奥様に話して、お心の準備をなさってもらったらどうでしょう。ウィンスロープらしい、力技の発言だった。アレックスはそれに顔を青くして慌てはじめた。一体どんな後ろ暗い過去があるのかと、ロシェットのアレックスに対するそっち方面の信用度は下がった。こんな感じで、話し合いは進んでいる雰囲気はなく、時間だけ過ぎていった。これ以上は明日に差し支
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「奥様、そろそろ旦那様がお帰りになります」そう報告したロシェットに軽く化粧を直してもらい、レティーシャは玄関ホールに急いだ。午前中はウィンスロープで鼠が出る騒ぎになり、その報告でアレックスは登城していた。(公爵邸はお城の目の前だから、お城にも鼠の注意をしにいったのかしら。厨房だけじゃなくて備蓄倉庫も鼠に荒らされたって伯爵邸の使用人たちがよく言っていたもの)玄関ホールにつくと、使用人の誰かがレティーシャに気づき、自然と道が開けられる。レティーシャは並ぶ使用人の間を抜けてグレイブの前に立つ。(こうしてアレックス様を出迎えることにも慣れてきたわ).「おかえりなさいませ、アレックス様」「ただいま、奥さん。ケヴィンとオリヴィアは?」「お二人ともお部屋にいらっしゃいます。呼んでまいりますか?」「いや、いいよ。いなくても全く構わないから」首を横に振るアレックスの頭の向こうに空が見えた。アレックスと共に行動しているロイがまだ来ないからか、玄関扉はまだ開いたままだったからだ。空はまだ明るい。(今日はいつもよりお帰りが早いですね)「どうかしたのか?」「空が明るいから、お早いお帰りだと思いまして……あと、夕焼けがとてもきれいだと……」レティーシャは反射的に自分の目に手を当てた。―― 君……目の色……夕日……。(男性の声……誰? いいえ、最近聞いたような……伯爵様? ……ではない……とても優しい声、あれは……)「どうかしたか?」我に返れば、レティーシャの目の前にはアレックスの赤い目。驚いて、レティーシャの体が固まる。「目が痛いのか?」(えっと……)赤色のアレックスの目に映っているからか、いまは琥珀色に変化させているはずなのに、瞳が赤味を帯びて自分のピンク色の目に見えた。「大丈夫です」(それどころか……)アレックスの目が優しい笑みになり、レティーシャは少し戸惑う。「どこも痛くないなら、俺とデートしないか?」「これから、ですか?」「そこの庭の散歩。奥さん、二人ならそれでも立派なデートと言うのですよ」(庭……いいのかしら)最近、ウィンスロープ邸は常に物々しい雰囲気が漂っている。レティーシャは何も言われていないが、肌で感じている。レダはもちろん、侍女たちでさえもピリピリしているようだとレティーシャは感じていた。「いろいろ察し
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