隠された愛 ~ 「もう少し」ってあとどれくらい? のすべてのチャプター: チャプター 131 - チャプター 140

146 チャプター

【外伝】3-5

「ごめん、陽菜……」……これは、予想外だった。少し、いやかなり、己惚れていたみたい。―――ゴムを着けないで生でシようと言えば、ソウのやつは直ぐにむしゃぶりついてくるぞ。異母兄よ、蒼はむしゃぶりついてこなかったよ。それどころか、拒否されてしまった。……それは、そうか。二人目とか言っているけれど、それよりも結婚するかどうかが先なのが普通。蒼と離婚するとき、海を籍に入れることが先だと、蒼は条件のようにそれを要求した。嫡出にすることは、蒼にとって、、私が思う以上に大事なことなのかもしれない。いまの時代、嫡出と非嫡出に法律的な扱いの差はほぼない。でも、それは法律的な観点であって、人の感情はそう簡単に割り切れないのだろう。蒼はそれを、異母兄で経験しているのかもしれない。「陽菜、その、する前に、確認しておきたいことがある」蒼と、また結婚するか?子どもができたら、結婚するか?当然の確認かもしれない。でも……怖い。蒼とこうして、海を一緒に育てられている今の環境に私は満足している。安心、できる。蒼はいつもせっせと、私と海のところにくる。以前の結婚のとき、蒼が私を放置していたことが嘘みたいに、毎日、どんなに遅くなっても連絡だけは寄越す。蒼と会う予定がなくて、私たちが家にいないときに蒼がきたときは、蒼は必ず「どこにいる?」と聞いてくる。以前の結婚のときは、私が家にいるかどうかの確認もしたことがなかったのに。「どこにいる?」と聞いたあと、蒼は必ず「ごめん」と謝る。監視しているわけではなく、ただ不安なだったと、そう言って謝る。ここで私が「謝る必要はないよ」と蒼に言って、どこかに行く前に蒼にメッセージの一つでも残してから出かけることは大した手間でもない。でも、私はやらない。蒼に、安心させたくないから。不安でいる限り、蒼は私のことを気に掛け続ける。――― 社長と同じマンションって、監視されている気になりませんか?黒崎さんに、いつだったかそう聞かれたことがある。前の結婚を知る黒崎さんにとって、蒼の用意した部屋に暮らす私は、相変わらず籠の鳥のように見えるのかもしれない。でも、いまの私は蒼の用意した部屋に自ら入ったの。蒼を、常に不安にさせるため。 捕まった鳥は、逃げること諦めてしまう。そんな鳥を見て
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【外伝】3-6

――― 結婚したら、蒼はまた私を見なくなるもの。陽菜の言葉に、予想外で唖然とした自分と、どこか納得できた自分がいた。 陽菜との離婚は、俺のせい。だから、海のパートタイムダディであることは「仕方がない」と思っている。陽菜が、俺のことを海の父親として受け入れ、俺が海と会うことを認めてくれていることも、幸運だと思っている。海にとってこの“父親の形”がどうなのか、良いのか悪いのかは、この先の海を取り巻く環境の変化で変わっていくだろう。俺にできることは、海が昔を振り返ったとき、こういう“父親の形”で楽しかったと、後悔されないようにすること。そんな気持ちだったけれど、振り返れば俺は海からたくさんの幸せと愛情をもらっている。海が俺に与えてくれるのは、無垢な愛情。子どもってこんなにまっさらなんだなって、俺はよく驚いている。海を育てることで、俺の中の何かは変化しているようだ。子ども好きになった、とかではない。ただ、海以外の子どもにも目がいくようになった。階段の上で小さな子どもを見かけたときや、横断歩道のそばに子どもがいるのを見かけたときは、大丈夫かと、安全だと思える状況になるまでなんとなく目で追っている。声をかけるわけでも、ましてや、手を貸すわけではないが……見守り、のようなことをしている。見かける子どもに、海を重ねているんだろう。そんな子どもを見かけると、海は安全だろうかと不安になる。家で、安全にしているだろうかと、会社帰りに陽菜たちの部屋に立ち寄っている。部屋に陽菜たちがいないと、「いまどこにいる?」と連絡を入れてしまっている。――別れた夫からの頻繁な所在確認って、陽菜さん、迷惑なんじゃねえか?黒崎に、そう言われた。海はまだ幼いから、直接連絡できない。陽菜に聞くしかない。そう抗議することもできただろうけれど、俺は抗議しなか
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【外伝】3-7

「陽菜、結婚を急かすつもりはない」蒼の、真剣な顔。「だけど、早急に答えが欲しい」え?どっち?それに……。「なんの返事?」結婚の話でないなら…あ「ゴムなしでセックスする話」あ……。「……忘れてた」「忘れるなよ」「でも、ほら、いろいろ考えちゃって」「それは、俺もだが……」 えっ!「ひあんっ!」蒼にグッと抱きしめられると、お腹のあたりにゴリッとした硬い感触。これって……。「なんで? さっきまで無かったよね?」「ゴムなしでする話を思い出したから」一瞬で?「変化が早くない?」「あのなあ……」蒼が、深く溜息。「惚れた女に生で抱いてほしいと言われたんだぞ。直ぐに勃つに決まってるだろう」凱と、似たようなこと言ってるわ。蒼と凱って、本当によく似ているわ。 「待って」「だから、待つ。でも、早く決めてくれ」早くって……。「避妊しなかったら、子どもができるかもしれないのよ?」……なんで、首を傾げるの?「変なこと、言った?」「いや、避妊しなければ子ができるかもしれないが、陽菜は二人目が欲しいからそう言ったのではないのか?」……そういえば。「……忘れてた」「忘れるなよ」「でも、ほら、いろいろ考えちゃって」「それは、俺もだが……それで、子どもができることを想定しての、あの台詞ではないのか? そうでなければ、ゴムなしでもいいなんて陽菜は言わないだろう?」いや……そんな、心底不思議そうな顔をしなくても……。「結婚はしないって言っているのよ?」「うん?」蒼が首を傾げる。「分かってる?」「……うん? 陽菜の言葉でいうなら、夫婦であることと、子どもの父と母であることは別じゃないのか?」「えっと、そう言ったけれど……」「婚外子とか、シングルマザーとか、いろいろ問題は出るだろうけれど、それに拘って不仲な夫婦の間で子どもが育つのもおかしいと思う」「うん……」上手く言えないけれど、と蒼が言葉を選ぶ素振りを見せた。「有名税みたいなもので、俺たちはきっとどんな形で子どもを育ってもバッシングは受けると思う。海のときもそうだっただろう」「……うん」当時のSNSに寄せられたコメントを思い出して、思わず俯いた。「子どものことを考えたら結婚すべきって、好き勝手なことを言ってくれるよな」「……うん」蒼の手が私の量頬を包
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【外伝】3-8

蒼が腰を押しつけてくる。「どうする?」……早急な答えを、蒼は欲している。だって……硬い。それを明け透けに示すことで、蒼は私の逃げ道を塞いでいる。これで、“どうする?”って、卑怯じゃない?「蒼の子が欲しい」「……陽菜っ」「蒼、私……って、きゃあああっ!」蒼に抱き上げられ、私は悲鳴をあげた。バランスを取ろうと、咄嗟に蒼の胸の上に手を置いた。……なに、これ……。「心臓の音、すごい……」「……恥ずかしいから、あまりそういうこと、言うな……」恥ずかしい、の?……恥ずかしいわりに、足取りは確かなんだけど。「頭、ぶつけないように気をつけて」「……ん」気遣いみたいのも、できているし。……え?「きゃあっ!」ふわっと、体が浮いた。一瞬。すぐに、落ちた。下は、柔らかい布団。……蒼の、匂い。ベッドの上に放り投げられたんだ。布団に、体が弾む。吸い込んだ空気は、蒼の匂い強くて、頭が、クラクラする。蒼の、寝室。蒼だけの、匂いがする部屋。「陽菜、どうした?」「蒼の匂いだなって」私の言葉に、蒼が首を傾げる。「今さら? 俺の家にくるの、初めてじゃないだろう?」「リビングと寝室は、匂いが全然違うよ」蒼が私たちの家にくる回数のほうが圧倒的に多いけど、蒼の
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【外伝】3-9

「……暑い」陽菜の不満のこもった声に、俺は口元を緩めて掛布団をはぐ。エアコンは入れていないけれど、熱のこもっていた布団の中にいたから、寝室の空気が涼しく感じる。「蒼……」戸惑った、陽菜の声。視線を下ろすと、真っ赤な顔で、細い手足を使って体を隠そうとしている。俺が、いつも一人で寝るベッドの上。そこに裸の陽菜がいて、黒いシーツの上で紅色に染まる白い体を捩らせる。これ以上の光景などない、そう俺は確信する。「どうして……布団……」「……暑いって、言っただろう?」「だからって、はがなくても……」……そう言えば、恥ずかしがり屋の陽菜は布団の中での行為を好んだ。最終的には、激しい動きで掛布団が落ちたりはしてしまうのだが、まだ理性のあるうちに、掛け布団をはいで、ただシーツの上に寝転ぶ陽菜を見たことはない。「どうして……」陽菜の目に、悲しみがよぎる。“もしかして”と、陽菜がそう思っていることに気づく。もしかして、俺が陽菜の抱き方を忘れたと思ってる?もしかして、俺のベッドに、こうやって大胆に抱かれる女がいたと思っている?とんだ、誤解だ。「海だよ」「……う、み?」陽菜が、キョトンとする。「海は暑がりだから、暑いと言って布団をはぐだろう?」「……ああ」「その顔がすごく嫌そうだから、暑いと言われて布団をはぐクセがついたようだ」誰も、陽菜以外いなかったと、安心させるようにキスをする。口づけただけで力の抜ける愛しい体。「陽菜…&helli
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【外伝】3-10

陽菜の腰を掴んで、中に入れたものの角度を調整する。それだけで、腰が戦慄く。脳髄を痺れさせるような、ダイレクトに伝わる刺激は、今までの経験を全て児戯のように感じさせる。むき出しにさせられる本能。荒々しく、制御できずに、全身が快感を求めて暴れだしそうになる。格好悪くてもいいではないか。三擦り半で出ても、また硬くして、何度も突き入れればいい。溢れ出すほど、注ぎ続ければいい。これは、生殖行為。ただ、抱き合っているのではない。避妊をせずに、陽菜を抱いている。今夜、陽菜は俺の子を孕むかもしれない。かもしれない、ではない。陽菜を、孕ませたい。陽菜に、俺の子どもを産ませたい。陽菜にしか感じない、剝き出しの本能。体が火照り、脳が茹で上がりそうだ。「陽菜……」陽菜の腹を撫でる。薄い腹の肉越しに俺のものに触れ、陽菜の中に入っていることを実感する。ここに、ここの奥に子種を放つ。陽菜がここに俺の子どもを宿すと思うと、興奮でゾクゾクしてくる。まだ空の腹を、手のひらで押す。陽菜が呻くように喘いで、陽菜のナカがきゅううううっと強く俺を締めつけた。身を捩らせてガクガクと震える陽菜の姿は魅力的で、ぐっと俺は腰を強く押しつけた。「まだ……ビリビリ、する」「……うん」「細胞が……敏感になっているみたい……体中が……」「……陽菜?」「蒼を、求めてる……」一際高く陽菜が啼いたと思った瞬間、絶頂に達した陽菜が全身をピンッと伸ばして、俺を締めつけてきた。刃を食いしばって、それに耐える。
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【外伝】4-1

「この度は、煌のしたことでお嬢様にケガをさせてしまい……誠に申しわけありませんでした」「西山の奥様。小さな子どものしたことです。気にしないでくださいませ」玄関ホールの上。僕は隠れながら、こっそりと下を見る。そこには、おばあちゃんと、おばあちゃんのお友だちだという女の人。あと、僕がケガをさせてしまった、その人の娘だという若い女の人。「西山様」その女性が、一歩前に出て、頬に手を当てる。そのとき白い包帯が見えて、僕は怖くなる。「大したケガではないのに、気遣っていただいて……」「あら、だめよ。些細な怪我だと思って油断したら、大変なことになってしまったりするのよ」「でも、お母様。私、一人で病院に行くなんて怖くて……」「そうよね。誰かに付き添いを……何かあったら困るから、男性のほうがいいわね。蓮さんのご予定は……」“蓮さん”。……僕がやったことが、お父さんに迷惑をかけてしまうなんて……。「……失礼。入口でインターホンを鳴らしたのですが、誰も出なかったので」この声……蒼叔父さんだ。少し前に出ると、蒼叔父さんが見えた。蒼叔父さんは、おばあちゃんのお客さんたちを冷たい目で見たあと、おばあちゃんを見る。おばあちゃんを見る目は、いつもみたいに優しい。「西山夫人、忙しいところ申し訳ありません」「いいえ。ごめんなさいね、蒼さん」「お取込み中ですか? 兄さんから呼ばれたのですが……何かありましたか?」冷たい声。叔父さんは僕にこんな声を出さないけれど……ちょっと怖い。「うちに来ていたお客様を、煌が突き飛ばして怪我をさせてしまったの」おばあちゃんの言っていることは、本当。僕が、悪い。「そうでしたか。それは、ひどいケガなのですか?」「血が出てしてしまったからガーゼと包帯で応急処置をしたのだけれど、万が一があっては困るか
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【外伝】4-2

「煌、ときどき誰かを怖いって思うことはないか?」「……ある」幼稚園の先生とか、最近は保健室の先生とか。それまで普通に話ができていたのに、急に怖いと思うときがある。「今日の女の人も、そうだったのか?」「うん」僕が頷くと、お父さんは僕の頭をぎゅっと抱きしめて、ポンポンって叩いてくれた。お父さんのこれが好き。勇気をもらえる。「どういうときに、怖いって感じるんだ?」「怖いとき……えっと、お父さんのことを聞かれたとき。あと、お母さんが……」……あ。そう……“お母さん”って言われたときだ。「僕ね、ときどき、お父さんや、蒼叔父さんのことを聞かれるの。今日の人みたいに。どういう人なのかとか、優しいのかって……」……なにか、いけないことを言ったのかな。お父さんも、蒼叔父さんも、怖い顔をしている。「……兄さん」「ああ。学校には俺が……」「蓮。蒼さん」……おばあ、ちゃん?僕はおばあちゃんを見る。見なきゃいけないって声だったから。多分、お父さんも蒼叔父さんも、お祖母ちゃんを見ている。「先に、煌の話を聞きなさい。それは、そのあとよ」「「はい」」「煌。お父さんたちのことを聞かれたあと、お母さんの話になるの?」お祖母ちゃんの言葉は、僕の言いたかったこと。だから、僕は頷く。「いつも、そこで怖くなるの」「……うん」僕はどうして、“お母さんの話”が怖いんだろう。「お母さんのことを、なんと言われるの?」えっと……あれ?おかしいな、さっきの人も言っていたのに……。「煌、覚えていないかい?」「お父さん! あの、でも、あの人何か言ってた。お母さん……いない、から、新しいお母さんはいらないって……」「チッ」蒼叔父さんが舌打ちをした。……怖い。「蒼!」「……ごめんな、煌。お前に怒ったんじゃないよ」「そうだな。蒼叔父さんはさっきの人に怒ったんだ。お前は、気にしなくてもいい。ただ、これからのことを考えると、煌はお母さんのことを知っておいたほうがいいと、お父さんは思う」僕の、お母さん。……覚えていない、僕のお母さん。「いろいろ、あったんだよ……母さん?」「私が話すわ」おばあちゃんが、僕の前にしゃがんだ。僕の目の前に、おばあちゃんの目がある。「煌のお母さんはね、白河茉莉さんっていうのだけれど、茉莉さんはみんなの大事な煌を捕ま
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【外伝】4-3

「親は子どもを守らなきゃいけない。だから、お前が白河茉莉に捕まったことが誰のせいかって言ったら、お前のお父さんのせいだ」ムッとした。「お父さんは悪くない。お父さんはお母さんのせいで寝てたんだから」「分かっているじゃないか。悪いのはお前のお母さんだ」お母さん……。悪い人……「蒼叔父さんのことも気にするな。この前一緒にみたアニメであっただろう」「え?」「蒼叔父さんだと思うからいけないんだ。あのアニメの、名前は……あの噛ませ犬の……とにかく、『いま行くぞ』って言って主人公を助けにいって逆に捕まったやつを見て、煌は主人公が悪いと思ったか?」僕は首を横に振る。あれは、主人公は悪くないと思う。「周りは止めたのに、できると言って、結局つかまった。できると思ったのが悪い、そいつが悪い」でも……。「蒼叔父さんはすごい人だ」「それよりもっと、白河茉莉のほうがすごかったんだろう」「すごかった……僕のお母さんが?」凱おじさんは頷いた。「すごい女だったぞ」凱おじさんが「すごい」って言うなんて!悪い人だけど、すごい人だったんだ。「煌の婆ちゃんたちがもっともっとすごくなかったら、煌を助けることができなかった。よかったな、すっげえ婆ちゃんたちで」凱おじさんが、笑って僕の頭を撫でてくれた。「世界には、煌や海のことを嫌いな奴はたくさんいる。かっこいい父ちゃんがいることや、すっげえ婆ちゃんがいて羨ましいんだ」凱おじちゃんの顔が真剣になる。「そういう奴は、煌のことを悪い奴にしたい。煌が父ちゃんや婆ちゃんに嫌われれば、煌の場所を獲れるからだ。でも、煌はすげえ奴だ。頑張り屋さんで、勇気がある。煌なら、そんな奴からどつやってその場所を奪う?」相手がすごいなら……「もっと頑張る?」「さすが煌だ。いい奴の答えだな。悪い奴はな、欠点や汚点を騒ぐんだ。煌のできないことを大きな声で笑ったり、煌の母ちゃんは悪いやつなんだぞーって騒いで、煌の悪口を言うんだ」「でも、本当のことだよ」「親が悪い奴なのに煌がすごい奴なら、それを自慢に思え」凱おじさんは、パンッと自分を叩く。「煌、俺はすごい奴だ。でも俺の親は、俺をいらないって捨てた悪い奴だ」凱おじさんも?「でも、俺を見ろ。かっこいいし、金あるし、勉強も運動も、できないことが見つからないくらい何だってできる。女の子に
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【外伝】4-4

その夜、僕は眠れなかった。夜の間、なんかいろいろなことが頭に浮かんできて、気づいたら寝ていたみたいだ。でも、まだ眠い。起きなきゃいけないのに、頭がボーッとしてくる。「煌、熱があるんじゃない?」ダイニングに行って、僕の顔を見たお祖母ちゃんがおでこに手を当てた。「やっぱり」お祖母ちゃんの言葉に、お父さんは慌てたけれど、お祖父ちゃんは笑っていた。知恵熱。いっぱい考えて、悩んだ証拠。大人になったね、と褒めてくれた。「今日は学校はお休みしましょう」お祖母ちゃんがそう言って、僕をギュッとしてくれた。ギュッとされると温かくて、嬉しくもあるんだけど、最近は少し恥ずかしい。お父さんにそれを言ったら、成長したからだって言われた。あれも成長。これも成長。ふう、子どもって大変だ。 .「煌、大丈夫か?」お仕事で、お父さんの離れにきていた蒼叔父さんと凱おじさんがお見舞いに来てくれた。知恵熱だって言ったら、二人とも笑った。「蒼叔父さん」蒼叔父さんを呼んだら、叔父さんは「ん?」と答えてくれた。僕を見る目は優しい。叔父さんは、優しい。きっと、赤ちゃんの僕にも優しくしてくれたんだと、そう信じられる。蒼叔父さんと、陽菜おばさんのこと。僕は考えた。叔父さんは一人しかいない。だから僕が、今日みたいに熱を出したら、陽菜おばさんに「待ってて」って言ったんだと思う。お父さんたちも、忙しいときは僕に「待ってて」って言う。お仕事だったり、お料理だったり、理由はいろいろ。僕のことが嫌いとか、そういうのじゃないって分かっている。ただ、やることがあるから「待ってて」って言っているのは分かる。待っているのは、ほんの少しの時間。でも、その時間でも、僕は寂しい。僕の傍にいるとき、きっと陽菜おばさんに蒼叔父さんは「待ってて」って言った。陽菜おばさんは、寂しい思いをした。凱おじさんは、叔父さんと陽菜おばさんのことは、蒼叔父さんのせいだって言っていた。「ありがとう」でも、僕のために叔父さんはいろいろ頑張ってくれたんだ。だからきっと、『ありがとう』が正しいと思う。「煌、成長したな」蒼叔父さんはそう言って、くしゃりと顔を歪めて頭を撫でてくれた。また成長。子どもって、忙しいな。「お父さん、あのね、陽菜おばさんっていつうちに来る?」「陽菜さん?」
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