「おはよう、陽菜」 着替え始めた海を満足気に見た蒼は、同じくその光景をぼんやり見ている私を抱き寄せ、頬に挨拶のキスをする。 「蒼……」 「何? 物足りない?」 それならと唇に寄ってくる蒼の唇をぺチンと手で軽く叩く。 「痛いな」 「嘘、そんなに強く叩いていないもの」 我ながら随分と甘ったるい朝の風景だと思う。 蒼も同じように思っているのか……いや、「おはよう」と言ってくる声はさっきの何倍も甘い。 「おはよう」 「どうした?」 甘い朝に文句は特にない。 甘ったるく愛情を伝えてくる蒼は、向けられる感情に照れ臭さを感じつつも、蒼自体は嫌いじゃない。 むしろ……。 「イヤイヤ期の対処法その3、肯定的なフィードバック」イヤイヤ期の海を上手く扱う姿はヒーロー。 「……肯定的……なんだって?」 「フィードバック。蒼って小さな子どもの扱いが上手いのね」 なんで突然そんなことを言い出したのかを、散らかったリビングを見渡して蒼は理解する。 朝の戦場に苦笑いだ。 「ここは俺が片付けておくから、着替えてこいよ」 「ありがとう」 スーツの上着を脱ぎワイシャツの袖をまくる蒼。 理想的な育児のパートナー。 寝室に向かおうと部屋を出るとき、「なんでここに食パンが?」と不思議がる蒼の言葉には笑ってしまった。 * いま、私たちと蒼は同じマンションの違う部屋に住んでいる。 ちなみに黒崎さんも同じマンションに住んでいる。 正確には黒崎さんが先住者。 蒼がこのマンションに住もうと言ってきて、ここが蘇さんが用意した物件リストにもあったマンションだったからここに決めた。 私は黒崎さんがここに住んでいるとは知らなかったし、蒼も言わなかった。 引っ越ししてから数日後、インターホンの鳴る音に応えたら黒崎さんが部屋の前にいた。 エントランスをどうやって通過してきたのか聞いたら、ここに住んでるのだと聞いて吃驚。 黒崎さんのほうも、私が蒼からそれを聞いていないことに吃驚していた。 ―― 育児の手は多くあったほうがいいだろう。 蒼の言うことは事実だろうけれど、当たり前のように黒崎さんをカウントしていいのかと戸惑った。 あとから聞けば、黒崎さんには「先に俺の許可を取れ」と言われたらしい。 蒼、黒崎さんに甘えているな。 戸惑いもしたし、蒼の黒崎さん使いの荒
Last Updated : 2026-01-05 Read more