All Chapters of 二人の彼女がいる理由: Chapter 121 - Chapter 130

137 Chapters

第118話 約束

 パーティー会場で範経は妹の圭と明に付き添われていた。圭は黒の、明は赤のレザービキニ姿。範経は某銀河鉄道の主人公のコスプレで、穴の開いたカウボーイハットをかぶっている。「兄さん、疲れているようだけど大丈夫?」と圭。「平気だよ」と範経。「あまり寝てないでしょ?」と明。「明たちが寝かせてくれなかったんじゃないか」と範経。「仕方ないじゃない。兄さんは発散しないと寝られなかったでしょ?」と圭。「兄さんが母さんに変な薬を飲まされたからよ」と明。「ぼくのせいなの?」と範経。「そうよ、母さんが作ったものを食べたりするから」と明。「母さんの手料理を断れないよ」と範経。「明らかに怪しかったでしょ?」と圭。「まあそうだけど……」と範経。「兄さんはマザコンだから仕方ないわね」と明。「私たちも兄さんの食事に一服盛るから、覚悟しておいて」と圭。「そんなのひどいよ……」と範経。 露出の多い魔法少女のコスプレをした由紀と祥子が範経たちに近づいてきた。「シスコンの範経が妹に虐められて悦んでるわ」と由紀。「範経、助けに来たわよ」と祥子。「兄はあなた達なんて呼んでないわ」と明。「そうかしら」 由紀は範経の頬に掌をあてた。「私たちのことを呼んだでしょ、範経?」「もちろんだ」 範経がにっこり笑った。 圭と明がやれやれという顔をした。 麗華が駆け寄ってきて、範経の腕をつかんだ。黒いミニスカートのワンピースを着て、頭に赤い大きなリボンをつけている。「お兄ちゃん、美登里お姉さんが呼んでるよ」「そろそろ時間か」 範経がつぶやいた。__ 会場の端に置かれていた三次元ホログラム投影機と一台の医療用のリクライニングシートが司会者用マイクの前に移された。「本当にあの『夢の世界』を見せるの?」と某アニメの赤いプラグスーツ姿のシャーロット。「ええ、ここにいる人たちなら守秘義務を守ってもらえるはずよ」とバニーガール姿の美登里。「昨日も言ったけど、技術が安定するまで秘密にしておいた方がいいと思うわ」とシャーロット。「だめよ。もうすでに社内で噂になってるから」と美登里。「あまり秘密にしていると技術陣との信頼関係を損なってしまうわ」「だけど、すごく重大な発明なのよ」とシャーロット。「わかってる」と美登里。「だけど、スタッフが疑心暗鬼になっているの。私たちが何
last updateLast Updated : 2026-03-09
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第119話 実演

「それでは今日のメインイベント、仮想世界への投射実験のデモを行います」 司会の美登里がマイクでアナウンスをした。 参加者が三次元ホログラフ投影機を取り囲むように集まった。 リクライニングシートに範経が横になり、同期用のヘッドセットと生体モニター用のセンサー類を装着した。「いま弊社の社長が身につけているのは、我々が開発した人工知能『電脳』と同期をするためのシステムです」 司会者の美登里がマイクスタンドの前で説明を始めた。「皆さんがご存じのように『同期』は脳に人工知能を接続をする技術です。そして身体的なトラブルが生じる危険性が伴いますので、長時間の使用は控えなければなりません。しかし最近、『同期』に関連した非常に興味深い応用技術を開発いたしましたので、皆さんにご披露することにいたしました」 美登里は参加者の反応を見ながら、一呼吸おいて続けた。「人工知能に脳から直接命令を送り処理を行うことが『同期』の通常の用い方でした。しかしそれでは直接接続による情報の双方向性を十分に生かすことができません」「今回開発したシステムにより、『同期』の状態で人工知能に脳の情報を読み取らせ、脳内のイメージを再現できるようになりました」「心の中のイメージを人工知能で読み取るということですか?」と参加者。「そうです。そしてそのイメージを、ここにある三次元ホログラム投影機で映すことができるのです」と美登里。「確かに画期的だね」と参加者。「本当にそんなことができるのかね?」と別の参加者。「論より証拠です。実演を始めます」と美登里。 リクライニングシートの脇にある制御卓を圭が操作した。 三次元ホログラムに普段着の範経の姿が映し出された。「おおっ」と、どよめきが起こった「私は現在、自分の心の中にいます。この姿は自分でイメージしたものです」とホログラフィーの範経。「そのイメージは変えられるのですか?」 学者らしき中年男性が質問をした。「もちろんです」と範経。 範経が着ている服の色が変わった。「すばらしい!」と参加者たち。「動くことはできますか?」と学者。「ええ」と範経。 範経は質問者に向かって手を振った。「少し歩きましょう」 塚原家のリビングルームのテーブルやソファーの位置が範経の移動と共に変化した。実際に部屋の中を移動しているように見える
last updateLast Updated : 2026-03-10
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第119話までの目次

二人の彼女がいる理由【目次】 § 第1章 一線を越えた日 第1話 由紀 第2話 祥子 第3話 二人の彼女 第4話 音楽準備室§ 第2章 誕生日会 第5話 校庭のベンチ 第6話 玲子 第7話 招待 第8話 由紀の父親 第9話 転校の書類 第10話 拉致 第11話 誕生日会 第12話 祥子の家 第13話 欠席 第14話 美登里§ 第3章 引っ越し 第15話 商店街 第16話 圭と明 第17話 新しい家族 第18話 実母 第19話 叔母 第20話 一時帰宅 第21話 尋問 第22話 約束§ 第4章 裁判 第23話 復学 第24話 お見舞い 第25話 寝室 第26話 相談 第27話 再会 第28話 被告人範経 第29話 麗華の証言(1) 第30話 麗華の証言(2) 第31話 弁護 第32話 就寝 第33話 朝食 第34話 登校§ 第5章 家業 第35話 親権 第36話 役員会 第37話 涼子 第38話 同居 第39話 立ち聞き 第40話 手伝い 第41話 養子縁組 第42話 テコ入れ 第43話 望み§ 第6章 レイ 第44話 乗っ取り 第45話 寛子 第46話 新アルゴー社 第47話 零番機 第48話 自己紹介 第49話 お披露目§ 第7章 ヘルマン家 第50話 訪問 第51話 ジョン 第52話 秘書 第53話 会食 第54話 四姉妹 第55話 ホームステイ 第56話 キス 第57話 文化祭 第58話 校長室 第59話 劇§ 第8章 アンダーソン家 第60話 推論 第61話 開発者 第62話 トム 第63話 秘密 第64話 会話 第65話 シャーロット 第66話 格闘 第67話 特別なとき 第68話 破損 第69話 違い 第70話 本望§ 第9章 同期 第71話 相談 第72話 高井 第73話 チェス 第74話 警察
last updateLast Updated : 2026-03-10
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第120話 異世界転生

 範経は気がつくと、地面に屈みこんでいた。掌に石畳の冷たい感触があった。顔を上げると、見知らぬ街の広場に自分がいることに気がついた。広場の中央に噴水があり、屋台が出ており、人がここかしこを行き来している。「ここはどこだ?」  範経は独り言をつぶやいた。 「また夢の世界に迷い込んだのか?」 空は晴天で、不気味なほど空が青かった。太陽の位置からすると、まだ午前中であろう。冷たい風が頬の皮膚に刺さった。季節は春先だろうか。 中世ヨーロッパの街並みのようだった。ただし街中の色彩が不自然というか、色鮮やかすぎるように感じた。建物の壁や屋根がどぎつい青色や黄色で塗装されている。「違うな、これはぼくの夢ではない。こんなものを見たこともイメージしたこともない」 範経は立ち上がった。あらためて辺りを見回しながら思考を整理した。「ぼくはクリスマスパーティーの余興で『同期』の実演をしていた。その途中で爆発音がして、意識を失った」「では、ここはどこだ?」 範経の側を人が通り過ぎた。否。人ではなく、頭に角のある赤い顔をした人のような何かだった。その何かは怪訝そうな顔つきで範経の顔を見ながら通り過ぎた。 範経は驚愕した。 範経は少し歩いて周りの人物らの様子を確認した。犬の顔立ちの少年が走り回り、狸のような中年女が屋台の店番をしている。「異世界なのか!?」 なるほど。テーマパークのアトラクションのように、何もかもが作り物っぽい。だがアトラクションにしては手が込みすぎている。そして公園内に並んでいる屋台や通り過ぎる人たちに生活感がある。人工物ではなさそうだ。 おそらくここは、誰かに人為的に作られた仮想世界だ。アーティストの仕事だろう。色彩の好みが偏っているうえに、非現実的な人物がリアルに作りこまれている。 ナーロッパ的なものだろうか。だとすれば職業あっせん所があるはずだな。 範経はさらに注意深くあたりを見回した。広場の正面には役所らしき箱型の建物が並んでいる。その横には神殿とも教会ともつかない石造りの重厚な宗教施設があった。さらにその先に「冒険者ギルド会館」と日本語で大きく書かれた看板が目に入った。「分かりやすいというか、お約束通りというか……」  範経はぶつぶつとつぶやきながら、冒険者ギルドの建物に向かって歩いた。
last updateLast Updated : 2026-03-11
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第121話 サイケデリック異世界「夢見る街」

 冒険者ギルド会館の壁は、赤から紫へ滑らかにグラデーションした色合いだった。まるで夕焼けの色が紫の夢に溶けていくような、幻想的で華やかな輝きを帯びている。青い枠のドアを静かに押し開けると、中の装飾もまた、けばけばしいサイケデリック調で埋め尽くされ、目を射るような幻惑が待ち受けていた。 入ってすぐ、正面に受付カウンターが据えられていた。受付は一つしかなく、先客がいたため、後ろで静かに待つことにした。その先客は、人の姿をした虎だった。あるいは、虎の毛皮をまとった虎めいた顔立ちの人物と言うべきか。大柄な体躯に、薄手の甲冑をまとい、長い尻尾を左右に揺らしている。 やがてその虎が受付から離れたので、範経は静かに歩み寄った。 受付カウンターの向こうに、どぎついピンクと黄色を基調とした制服をまとった受付嬢が座っていた。 彼女は赤みを帯びた黒髪をツインテールに結っており、普通の可愛らしい少女の顔立ちをしていた。「どのようなご用件でしょうか?」  受付嬢はにっこり笑った。 彼女の口に尖った大きな八重歯が見え、範経はたじろいだ。 「吸血鬼……」  思わずつぶやいた。「そうですが、何か?」  受付嬢は不思議そうな顔をした。「すまない。ちょっと戸惑っているんだ」と範経。「ところで、気がついたら広場にいた。ここはどこだ?」「新規参入者の方ですね」と受付嬢。「確かにここは初めてだが……」と範経。 受付嬢は立ち上がり、両手を大げさに広げた。 「ドリーミング・シティーへようこそ!」 周囲からパチパチというまだらな拍手が起こり、たちまち人だかりができた。「ドリーミング・シティ?」と範経。「はい。あるいは『夢見る街』です」と受付嬢。「この世界の名前か?」と範経。「この街の名前です」  受付嬢は怪訝そうな顔をした。 「適性検査をします。この水晶球に手を当ててください」 水晶の内部で、青や橙の光がチカチカと発光し始め、周囲を照らし出した。光は歪んだ幾何学模様を描きながら回転していた。見る者の気分を悪くさせるような、派手で幻覚的な輝きだった。 周囲から「おおっ」というどよめきが起こった。やがて、光は次第に弱まっていった。「おめでとうございます。あなたは冒険者の適正があります。新規参入者なのでランクはDからのスタートです。魔法は使えません。スキルは剣技です」
last updateLast Updated : 2026-03-14
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第122話 女神ペルセポネ

 範経は冒険者ギルドの青い扉を押し開け、外に出た。 隣の街区に、冷ややかな威容を誇る神殿がそびえ立っていた。範経はその荘厳な影に引き寄せられるように歩を進めた。 それは古代ギリシャの建築を模した、石造りの神殿めいた荘厳な建物であった。しかし、ところどころに教会の尖塔のようなものが不自然にそびえ立ち、全体に奇妙な不調和を漂わせていた。範経には、冷ややかな異形の建造物のように見えた。 太い柱が何本も立ち並び、威圧するように空を突いていた。だが、ただの石ではない。極彩色の輝きが、そこを支配していた。塗料などではなかった。大理石そのものが、黄や赤の妖しい光を内側から滲ませ、まるで生き物の肌のように艶めいている。 重く、冷たい扉を押し開けた。軋む音が、静寂を裂いた。奥へ一歩踏み入ると、高い天井が果てしなく広がり、むき出しの大理石が冷ややかに見下ろしていた。 足音が、まるで底知れぬ井戸の奥底から立ち上る水音のように大きく反響する。静けさが、かえってその響きを際立たせた。けばけばしいステンドグラスが、色鮮やかな光を乱れ散らしていた。それが、床や壁の色とりどりの大理石に跳ね返り、幻惑の渦を巻き起こすのだ。 すべてが、夢か現実か定かでない。まるで、人の感覚を永遠に迷わせるためにだけ造られた、極彩色の迷宮のようだった。 大理石のテーブルを隔てて、受付を務める巫女が静かに立っていた。 その顔は石のように白く、表情は一切動かず、まるでこの神殿の冷たい一部となったかのようであった。「ペルセポネの女神に会いに来たのだが」と範経。 巫女は、抑揚のない声で答えた。「この大きな回廊の突き当たり、右手におられます。ペルセポネ様の像がございます」「目印はないのか」「松明を手に持っておられます」と巫女。「会えるのか?」 巫女はわずかに目を細め、淡々とした口調で続けた。「運が良ければ、顕現されるでしょう」 その言葉は、静寂の中に落ちた水滴のように、ただ冷たく響いた。 範経は、告げられた通りに回廊を歩み進んだ。 回廊の左右には大小さまざまの人物像や、架空の獣めいたものたちが冷ややかな列をなして並んでいた。それぞれが独自の光彩を放ち、薄暗がりに妖しく息づいているようだ。 松明を右手に携えしペルセポネの像はすぐに見つかった。その異様に大きな姿は青緑と濃い桃色の光を怪しく放
last updateLast Updated : 2026-03-16
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第123話 魔剣サンダーブリンガー

 女神ペルセポネ像の異変に気付いた他の参拝客たちは、一斉に範経の方に注目した。傍らにいた馬面の老婦人は、腰を抜かしてその場にへたり込み、目を見開いてがくがくと震えていた。 女神ペルセポネは範経の目の前に顕現した。それは神の装いをまとってはいたが、その容姿は紛れもなく開発者の範経を父親と慕う人工知能「電脳一号」の人型端末のレイだった。ピンクの縁取りを施した濃緑の簡素なローブをまとう、そのすらりとした姿は神々しさを帯びていた。プラチナブロンドの髪は銀色の輝きを放ち、まるで冷たい月光を浴びたように妖しくキラキラと瞬いている。「レイ! なぜここに!」と範経が叫んだ。「大声を出さないでください!」 レイは声をひそめて、子供を叱るように言った。「他の人に話を聞かれたら、怪しまれます」「ここはどこだ? なぜぼくはこの気色悪い世界にいるんだ?」と範経。「ここは仮想世界のひとつです。詳しく説明している時間はありません」 レイは子供に言い聞かせるように話した。「お父様、よく聞いてください。わたしはこの世界のシステムをハッキングしています。成功したらすぐにお父様を助けにきますので、それまではここで安全に過ごしてください」「いつまでだ?」と範経。「しばらくです」とレイ。「迎えに来るまで怪我をしないでください」「どうなるんだ?」と範経。「現実との接続が切れたままでは、最悪の場合、死んでしまいます」とレイ。「この得体のしれない世界でか?」 範経は泣き声を上げた。「お父様ならできます。大丈夫です」「何もかも、気持ち悪いし怖いんだよ」 範経は台座の上にいるレイに取りすがろうとして近づいた。「一緒にいてくれ、頼む!」 レイは範経を避けるように一歩後ろに下がって言葉をつづけた。「武器をお渡ししておきます。これで身を守ってください」「武器?」と範経。「ぼくは戦わなきゃいけないの?」「護身用です」とレイ。「危険はできるだけ避けてください」「わかったよ」と範経。「お父様、ここでは私は女神ペルセポネです」 レイが小声でささやいた。「怪しまれないように、片膝をついてわたしを拝跪してください」 いつの間にか範経は、ペルセポネ神の顕現を聞いて急ぎ駆け付けた神官や巫女、それにその場に居合わせた参拝客に取り囲まれていた。 範経は片膝をついて台座のレイを見上げた
last updateLast Updated : 2026-03-17
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第124話 虎女ローズ

 レイとの会話に衝撃を受けた範経は、神官と巫女に囲まれたまま、無言で入り口まで引き返した。背後からは参拝客がぞろぞろと影のように続き、入り口の付近にはさらに巫女らが控えていた。神官の一人が恭しく扉を開けた。範経は神殿を出た。 神殿で怪しげな色彩の光に晒され続けていた範経には、太陽の一様なまぶしさがありがたかった。  石造りの門を出ると、神殿の敷地の縁に冒険者ギルド会館で会った虎女が佇んでいた。手には手槍を携えている。 目が合うと、虎女は話しかけてきた。 「あんた、これから蛇の目池に行くんだろ? 一緒に行ってやる」「いいのかい?」と範経。「ああ。あたしは蛇の目池に出没する毒蛇を退治するクエストを請け負ったんだ」と虎女。「なるほど。行き先が同じというわけか。それはありがたい」と範経。「よろしく頼むよ」「あたしはローズだ」と虎女。「よろしく、ローズ」と範経。「ところでエロリック、その黒い剣をどうしたんだ?」とローズ。「ギルド会館の事務所にいたときは持ってなかっただろう?」「守護女神のペルセポネ様にもらったんだ」と範経。「何でも切れる魔剣だそうだ」「すごいな」とローズ。 二人は連れ立って大通りを南へ下り始めた。 街の端には石造りの城壁が聳え立ち、通りの突き当たりには豪壮な城門があった。警備の門番たる兵士たちが控えていた。門番に誰何され、ローズと範経は首から下げた身分証を示した。兵士たちは閂を外し、重々しい扉を開いた。 城壁の外には開けた空き地が広がり、その向こうには黒々とした森が横たわっていた。「こっちの道だ」とローズ。「新人のお前は、森の奥に入らない方がいい」 二人は森のへりに沿って続く、通行人によって踏み固められた土の道を進んで行った。 一時間ほど歩くと広い湿地帯に出た。一面にドクダミが群生している。「ここが蛇の目池だ」とローズ。  範経とローズはぬかるむ道を辿り、湿地帯に近づいた。水辺がようやく見えてきた。向こう岸の彼方には森が広がっていた。「大きな池だな」と範経。  範経は野道の脇に屈み、生い茂るドクダミをむしり取り、ギルドで借り受けた大きな籠に入れていった。  がさがさという物音がした。少し離れた藪の向こうに、驚いた顔をした二人の女の子がいた。「先客がいるようだ」とローズ。「どうしてここに子供がいる?」と範経。「
last updateLast Updated : 2026-03-21
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第125話 蛇退治

 ローズは手槍を構えると、鎌首をもたげる大蛇の間合いに入り、後方に素早く回り込みながら、その胴を穂先で突いた。しかし、ガシッという鈍い音が響いて、硬い鱗に弾かれてしまった。 ローズは素早い動きで大蛇を翻弄しながら、槍による攻撃を続けた。「鱗が硬くて刃が通らない」とローズ。「しかも思ったより蛇の動きが素早い」 蛇は首を左右に振りながら、冷ややかな眼でローズと範経を威嚇した。その舌は、まるで古い呪いを吐くかのようにシュルシュルと瞬いていた。 範経は、腕に抱いていた子兎をそっと地に立たせ、後方へ静かに退かせた。子兎の小さな影は震えながら遠ざかった。 範経は腰に佩いていた魔剣サンダーブレンガーの柄を握ると、日本刀を抜くが如く、するりと鞘から引き抜いた。その細身の長い刃には細かな文字がびっしりと刻み込まれ、まるで経文を細かく掘り込んだ墓石のように不気味に光っていた。 範経はやや高い中段の構えを取り、上方の蛇の鎌首と相対した。そのピタリと静止した剣尖は、範経の心が見かけの小心さとは別次元の静寂に包まれたものであることを、冷ややかに物語っていた。 剣を構えた範経を見て、ローズはわずかに驚きの表情を浮かべた。と同時に、彼女の瞳には、当たりくじを引き当てたような喜びが映った。「目を狙うしかないか」「だが、あの高さだぞ」 範経は蛇の頭を見上げた。「問題ない」 ローズは迅く蛇の胴に飛びつくと、鱗に爪をかけ、瞬く間に頭に取り付いた。蛇が振り落とそうと頭を左右に振り立てる前に、穂先でその右目を正確に突き刺した。 蛇が激しく首を上下に振り、ローズが落とされたが、くるりと軽い動作で立ち上がった。「だめだ、魔力で目を守っている」「蛇が魔法を使うのか?」と範経。「もちろんだ。魔物だからな」とローズ。「ただの蛇ならクエストは出ない」「どうするんだ?」「撲殺するしかないようだ。戦鎚を持ってくればよかった」 ローズは蛇の上より来る攻撃を巧みにかわしつつ、頭より下の胴を槍の石突で叩いたり、蹴りつけたりした。「だめだな、拉致あかない」「あきらめるか?」「手ごたえはある。ダメージは蓄積しているはずだ。もう少し続ける」とローズ。「お前はそのまま蛇の正面で牽制してくれ」 ローズは再び攻撃を仕掛けた。その打撃はさらに鋭く、一方で蛇の動きは明らかに緩慢になり
last updateLast Updated : 2026-03-22
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第126話 帰路

 範経は蛇の躯に駆け寄り、再び魔剣を閃かせ、胴に沿って一筋の切れ目を入れた。「おい、何をしている?」  ローズは、驚いて声を掛けた。「腹を裂いて食われた子供を助けるんだ」「やさしいな、お前」 範経は魔剣の鋭い先端を繊細な筆のように操りながら、肉を裂いていった。内臓を傷つけないように慎重に。だが肋骨が邪魔だった。刃は幾度も骨に引っかかり、鈍い音を立てた。「この剣は大きすぎる」  彼は小さく呟いた。ローズは無言で腰の革袋から戦闘用のナイフを抜き、柄を範経の方へ差し出した。「これを使え」 範経は受け取り、指先で軽く刃の重さを確かめた。「ありがとう」  ナイフのおかげで作業は進んだ。肉は薄く正確に剥がれて、内臓が露出していった。血の匂いが湿った空気に漂った。「お前、器用だな」とローズ。「解剖は得意なんだ」  範経は作業を続けながら答えた。「蛇の内臓は臭いな」  ローズが顔をしかめた。「あんたがさんざん腹を蹴ったせいで、腸が破れたんだ」  範経は内容物の出た腸を指で示した。 範経は蛇の胴を開きにして解体を進めた。 「これが肺でこれが肝臓で、食道につながっているこれが胃だな」 内部を傷付つけないように胃に切れ目を入れ、内部を広げた。 「いた」「生きてるか?」とローズ。 範経は子供を胃から引きずり出して、地面に寝かせて顔を叩いた。 「息をしてない」 範経が子供の口を開けて顔を近づけた。「何してる?」とローズ。「人工呼吸と心臓マッサージだ」「そうまでするのか?」  ローズがあきれた顔をした。 「遺体回収で十分だぞ」 いつのまにか、片割れの子供がそばに来て心配そうに見ていた。 子供がゴホゴホとせき込んで、息を吹き返した。 範経が胃液でドロドロになった兎の子供の顔を袖で拭いた。「起きれるか?」 子供はこくりとうなずいた。 範経がそっと抱き起こすと、もう一人の子供が駆け寄ってきた。二人の少女は互いに抱き合い、細い腕を絡ませた。 「何してる?」  範経が返したナイフでローズが蛇の頭蓋骨を砕いている。「証拠だ。目玉をくりぬいて持っていくんだ」  ローズが顔を上げずに言う。「両目ともか?」と範経。「ああ。残していくと、他の奴に手柄を横取りされかねない」「世知辛いな」 ローズは
last updateLast Updated : 2026-03-23
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