範経は、虎女ローズに肩を貸しつつ、ゆっくりと帰路を辿っていた。一仕事を終えた安堵からか、二人の胸には、どこか澄み渡るような爽やかさが残っている。だが範経にはこの異世界に沈みかかる黄昏の気配が、言いようのない不穏さを帯びて感じられた。 ふと振り返れば、あの二人の兎の少女たちが相も変わらず無言のまま、一定の距離を保ってついて来ていた。 一行が街を取り巻く城壁の外縁を迂回し、ようやく正面の城門へ辿り着いた頃には、日はすでに西に傾いていた。門をくぐり、街の中央にある噴水のほとりを過ぎ、やがて冒険者ギルドの会館へと至る頃には、あたりはほとんど暮色に沈みかけていた。 その会館の前に来たとき、二人の兎の少女はふいに歩みを止めた。「今日は、ありがとうございました」 そう言って頭を下げたのは、二人のうち背の高い方の、蛇の難を免れた少女であった。もう一人、一度は蛇に呑まれたほうの少女は、もとより気質が内向的であるのか終始うつむいたまま言葉を発しようとはしなかった。「お預かりしていた籠を、お返しいたします」 そう言って兎の少女は、背負っていた籠を静かに下ろし、両手に捧げるようにして範経の前へ差し出した。「薬草は君たちにあげるよ」と範経。「いいのですか?」と兎少女。「ぼくはローズに蛇退治の報酬を分けてもらうから」と範経。「君たちは薬草の報酬が必要なんだろう?」「ありがとうございます」 二人の兎の少女は、申し合わせたように、同時に深く頭を垂れた。「籠は、あとでギルド会館へ返しておいてくれ」 と、傍らで一部始終を聞いていたローズが、いかにも事務的な調子で言い添える。「はい、承知しました」 兎の少女の一人は、そう応じると、一歩進み出て、改めて範経の前に姿勢を正した。「冒険者エロリック様、本日は誠にありがとうございました」 一瞬、言葉を切り、胸の内を整えるかのようにしてから彼女はさらに続けた。「わたくしはペペと申します。助けていただいたのは妹のネネにございます。このご恩、決して忘れることはございません」「いや、気にすることはない」 範経は、いかにも気軽な調子で答えた。だが胸の奥では、裏長屋に育った子供にしてはその言葉の選び方も身のこなしも妙に行き届いている。範経はひそかに感心せずにはいられなかった。「まったく、お前は本当に甘いな」 ローズは、半ば呆
Last Updated : 2026-03-27 Read more