All Chapters of 二人の彼女がいる理由: Chapter 81 - Chapter 90

107 Chapters

第79話 起床

 涼子は布団の中で範経の頬をなでながら言った。「範経、起きてるの?」「今日は起きない。ぼくはこのまま寝てる」と範経。「このまま?」と涼子。「うん」と範経。「私もこのまま?」と涼子。「うん」と範経。「困るわよ」と涼子。「ところで、いつの間に私のボタン外したの? はだけてるじゃない」「お姉さん、柔らかい」 範経は涼子のたわわな胸に顔を押し付けた。「そう?」と涼子。「柔らかくてあったかい」と範経。「気持ちいい?」と涼子。「うん。幸せ」と範経。「おっぱい吸ってもいいわよ」と涼子。 範経は乳首を口に含んだ。「くすぐったいわ」と涼子。「何も出ない」と範経。「当たり前よ。子供産んでないんだから」と涼子。「そうか」と範経。「あなたの子供なら産んであげるわよ」と涼子。 範経は涼子の胸元を触り続けた。「あと少しだけよ」「ずっとこのままがいい」と範経。「本気なの? パジャマ脱ぐわよ」と涼子。 涼子は体を起こしかけたが、範経が布団の中でしがみついた。「乳首、感じてきちゃったわ」と涼子。「ここ?」と範経。「いやん」 涼子は体をくねらせた。「おもしろい」と範経。「怒るわよ」と涼子。「いいよ」と範経。「わたし、怒ったわ」 涼子は範経のパンツの中に手を入れた。「勃起してるじゃない」 涼子は範経の陰茎をこすった。と同時に、ドアがノックされた。「はい」と涼子。 ドアがガチャリと開いた。「お兄さんを起こしに来ました」 麗華がそっとドアの後ろから顔を出した。「私はもう起きるから、範経をよろしく」 涼子は胸元を押さえながら、そそくさと立ち上がって部屋を出た。 涼子はダイニングルームに入った。「おはよう。どう、熱い夜を過ごせたかしら?」と美登里。「もうちょっとだったわ」と涼子。「麗華を起こしに来させたのは、あなたでしょ?」「知らないわ」と美登里。「今度やったら殺すわよ」 涼子は冗談っぽく怒ったふりをした。「怖いわ」 美登里はわざとらしく怯える顔をして、後ずさりをした。「まじな話、いつも範経は触るだけでやらないわ」「そのようね」と涼子。「私はただの抱き枕兼湯たんぽだったわ」「あら、それは寝心地良さそう」と美登里。「柔らかくて暖かいって言ってたわ」と涼子。「範経らしい」と美登里。「本当に範経を起こすの?
last updateLast Updated : 2026-01-21
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第80話 忘年会

 人工知能開発会社「アルゴー」の副社長である塚原美登里は、弟範経のガールフレンド唐崎由紀と椿祥子を会社に呼び出した。会議室で美登里は由紀と祥子と向き合った。「来てくれてありがとう。実はお願いがあるのよ」と美登里。「何でしょうか?」と由紀。「忘年会に来てほしいの」と美登里。「忘年会ですか?」と由紀。「そうよ。あなたたち、出てくれない?」と美登里。「範経と一緒にいてほしいの」「家族のパーティですか?」と祥子。「そうよ。少し会社の関係者が来るけど」と美登里。「私は構わないのですが、いいんですか、私たちが行っても?」と由紀。「もちろんよ。あなたたちは範経の彼女でしょ」と美登里。「それじゃあ、今度の週末を空けておいてね」「日曜日は、クリスマスじゃないですか?」と祥子。「そうなのよ。だから怖くて」と美登里。「どういうことですか?」と由紀。「クリスマスの前後は範経の機嫌が悪いのよ」と美登里。「そういえば、範経ってクリスマスツリーとかクリスマスソングとか、すごく嫌ってる」と祥子。「その通りよ」と美登里。「だからその時期にはあなた達にいてほしいのよ」「どうして範経はクリスマスを嫌ってるの?」と祥子。「もともとクリスマスではしゃぐような性格じゃないし、家出をしたのがクリスマスの日だったのよ」と美登里。「そういえば三年前の年末でしたね」と由紀。「そのとき家族はパーティーに出てたって以前聞きましたが」と祥子。「フォーシスターズのショーの打ち上げを兼ねたクリスマスパーティーがあって、楽しく騒いで帰ってきたら範経が家出していなくなっていたの」と美登里。「それが私たちのトラウマになってるのよ。社員も経緯を知っているから、みんな緊張してピリピリしてるわ。また範経が家出していなくなったら、今度こそ会社はつぶれるから」「以前はどうしていたんですか?」と由紀。「一昨年はむりやり田舎の温泉宿に連れて行ってたわ」と美登里。「クリスマスなんて関係ない、人里離れた宿を借り切ったの。去年は父親が再婚家庭に連れて行ったけど」「なぜ今年は行かないんですか?」と由紀。「範経が社長になったからよ。すごく忙しいの。とても温泉宿でのんびりなんて状況じゃなくて」と美登里。「しかもよりによって、テレビ局の取材が来てるのよ。フォーシスターズの開発秘話を聞かせろって」「すごいですね
last updateLast Updated : 2026-01-22
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第81話 取材

 範経が秘書役のレイを伴ってアルゴーの会議室に入ると、テレビ局のディレクターとその部下と思われる二人の男が椅子に座っていた。 二人の男は範経を見ると素早く立ち上がった。がっしりとした体つきでぼさぼさ髪の中年男は、目尻に深いしわを作りながら範経と握手をした。厚手のチェックのシャツにくたびれたズボンをはいている。「初めまして。プロジェクトZ『能力拡張の限界に臨む ~フォーシスターズの挑戦~』担当ディレクターの石井智一です。この度は取材にご協力くださってありがとうございます」「こちらこそ初めまして。社長の塚原範経です。わざわざお越しくださってありがとうございます。取材していただけるのは弊社として大歓迎ですよ」と範経。 二人は形式的に名刺を交換した。「ご挨拶が遅くなり、大変失礼いたしました」と石井。「私はただのお飾りの社長ですから、挨拶なんてお気になさらないでください」と範経。「撮影はフォーシスターズへのインタビューが目的と聞きましたが、いかがでしたか? 問題があればおっしゃってください。」「塚原副社長にお世話になりました。おかげさまで、予定していた撮影が無事終了しました」と石井ディレクター。「それはよかった」と範経。「実は私、現場についてよく知らないんですよ」「しかしお飾りとはいえ、お若いですね」と石井。「高校生です」と範経。「弊社『アルゴー』は私の両親がはじめたベンチャー企業ですから、仕方がないのです」「事情があるのですか?」と石井。「もともと父親が社長、母親が副社長だったのですが、突然離婚してしまったのです。それで会社が分裂して、倒産しそうになったのですよ。その後の立て直しの際に、私が社長に担ぎ出されました。もともと仕事にかかわっていなかったので、しがらみがなくて都合がよかったのです」と範経。「それは知りませんでした」と石井。「それは大変でしたね」「仕方ありません」と範経。「両親が離婚したとしても、会社が家族経営であることには変わりありませんので。元家族の蝶番の役ぐらいはしますよ」「仕事にはかかわっておられないのですか?」と石井。「雑用程度です。少しは役に立たないと居心地が悪いので」と範経。「ところで、撮影を終わられたということですね。もうお帰りですか。お見送りしますよ」「じつは、一つだけお願いがあるのです」と石井。「何でしょうか
last updateLast Updated : 2026-01-23
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第82話 ラボ

 範経は石井と撮影スタッフを連れて社屋ビルの中を移動した。「ここが第一研究室、私たちがラボと呼んでいる部屋です」 範経は分厚い両開きドアを開けながら石井に説明した。「広いですね」と石井。「体育館のようだ」「以前は格闘技用のリングやトレーニング機器を置いていたのですが、撤去しました。ここで人工知能の学習をしていたのですよ」と範経。「現在このスペースをアンドロイドの性能試験で使っています」「学習というのは、誰かから学ばせるのですか?」と石井。「そうです。例えば曲芸の専門家にここで実演してもらって、人工知能にその動きをまねさせるんです。筋肉の動きと脳を含めた神経の活動すべてです」と範経。「その場合、人工知能に脳をつなぐのですか?」と石井。「ええ。ですが脳をふくむ神経系の信号を非接触タイプのセンサーで読み取るだけですから、害はありません。私たちは『計測』と言っています。原理的には一昔前の脳波測定と大差ありません」と範経。「『同期』とどう違うのですか?」と石井。「同期では、相互に信号のやり取りをします。いわば強制的に神経系に信号を生じさせることで、専門家と同等の活動をさせるのです」と範経。「そのために人工知能が脳の活動に干渉して、『計測』で得られた信号と同等のものを脳内に作りだします。これがうまくいき始めると、脳は人工知能からの信号を積極的に受け取り始めます。つまり、人工知能を脳の一部と認識し始めるのです。そして十分な時間をかけて定常状態を作り出すと無理なく人工知能と脳が相互に干渉しあい、両者の信号のタイミングがきれいにそろうのですよ。これが同期あるいはシンクロという状態です」「なるほど、今まで聞いた中で最もわかりやすい説明ですね」と石井。「ところであれは立体ホログラム投影機ですね。あの大きさのものはうちの技術部にもありませんよ」と石井。「絶対に映さないでくださいよ」と範経。「もちろんです」と石井。「どのような演技をご希望ですか?」と範経。「ジャグリングの大道芸と床運動のアクロバット体操と格闘術をお願いします」と石井。「盛りだくさんですね。十五分ですよ」と範経。「格闘術の相手はどうしますか?」「連れてきています。そこで用意させています」と石井。 壁際で筋肉質の大男がジャージを脱いでいる。「総合格闘技の高田洋一選手です。ご存じでしょう?
last updateLast Updated : 2026-01-24
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第83話 実演

 医療用のリクライニングシートに座って準備をしているキャシー役の圭が、範経に手を振った。「定常状態を確認できました。時間配分をどうしますか?」と範経。「ジャグリングを三分、体操のアクロバットを三分、残り時間を格闘術でお願いします」と石井。「それなら十分もかからないでしょう」と範経。「キャシーとメロディの準備もできたようです。ジャグリングは慣らし動作を兼ねてやります」 キャシー役の圭とメロディ役の明がラボの中央に出た。キャシーがピンク色、メロディが紫色のレオタード姿で顔に大きな羽飾りがついたベネチアンマスクをしている。「お二人は体形が変わりましたね」と石井。「少し女性らしくなっている」「活動を中止してから三年がたっていますからね。今は思春期の女の子ですよ」と範経。「変な目で見られるから嫌なんですよ」「私たちとしてはミアかリリーでもよかったのですが」と石井。「あの二人はこの三年間でひどく体形が変わってしまったので、レオタード姿を人前にさらすなんて恥ずかしくて耐えられません」と範経。「ミアとリリーも成長したのですか?」と石井。「もう成人されている年頃かと思いますが」「太ったんですよ」と範経が言った。 側にいた美登里が範経の尻の肉を思い切りつねった。「いててっ」と範経。「どうかされましたか?」と石井。「何でもありません。始めましょう」と言って、範経は電脳の端末を仕込んだヘッドセットを装着した。制御卓を操作してキャシーにスポットライトをあてた。「社長が自ら操作するのですか?」と石井。「ぼくも少しは役に立たないと追い出されてしまいますよ」  範経はにこりと笑った。「そうですか」  石井は怪訝そうな顔で答えた。 範経がキャシーに演技の内容を伝えた。キャシーが手を振って了解と伝えた。「始めますよ」と範経。「お願いします」と石井。  メロディがサポート役として側につき、キャシーが玉乗りをしながら五つのクラブを三分間ジャグリングした。玉を降りると床で後方伸身宙返りなどの技をきっかり三分間見せた。それからメロディからオープンフィンガーグローブを受け取り、黒いトランクス姿の格闘家の高田洋一と向き合った。両者とも素足。 キャシーと高田は移動して間合いを取りながら構えた。大柄な高田はやや前傾してガードを下げ気味で半身。キャシー
last updateLast Updated : 2026-01-25
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第84話 昏睡

 取材を受けてから帰宅後、その異変は起こった。 夕食後にリビングルームでくつろいでいるとき、範経はソファーで横になっていつも通りうたた寝をしているのだろうと家族は思っていた。「お兄ちゃん、起きて。お風呂の時間だよ」と麗華が範経の体をゆすった。「お風呂に入ろ、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」 麗華はさらに激しく体を揺すったが、範経は目を覚まさなかった。「どうしたの?」 そばにいてテレビのニュースを見ていた涼子が、様子がおかしいことに気がついた。同じリビングルームにいた圭と明も近寄って様子を見守った。 涼子が話しかけても反応がなく、範経の胸に耳をあてて心拍の確認した。呼吸もしている。騒ぎを聞いて、キッチンにいた美登里も駆けつけてきた。 範経は意識を失っていた。「救急車を呼びましょう」と涼子。 病院に搬送して検査をしたのだが、意識がないこと以外に異常がなかった。脳幹と小脳が活動しているので、脳死ではない。だが、重度の意識障害で、いわゆる昏睡状態だった。 明確な理由はわからなかった。人工知能を脳に直接接続する活動が関係しているのではないかと推測された。 翌日、アルゴーで緊急の役員会議が開かれた。「範経が職務に復帰するまで、私が社長代理を務めます」 冒頭に、範経の姉で副社長の美登里が宣言した。「それは構わんが、範経は回復するのか?」と父親で会長の幸一。「医者は昏睡の原因が分からないと言っています」と従姉で副社長の涼子。「そうだな」と幸一。 事情を知っている一同はそれ以上話すことがなく沈黙した。母親で副会長の寛子は、出張中のため会議を欠席していた。「ところで寛子には伝えるのか?」と幸一。「落ち着いたら話すわ」と美登里。「パニックを起こされると面倒だから」「それがいい」と幸一。「よろしいでしょうか?」 人工知能の人型端末であるレイが発言の機会を求めた。スーツを着て秘書の姿で、座長の美登里の後ろに立っている。「私ならお父様の意識に直接働きかけて、目覚めさせることができるはずです。試させてください」とレイ。「あなたと範経の脳との直接接続が昏睡の原因と言われているのよ。危険だわ」と美登里。「だがこのまま放っておいても仕方ないだろう。死んじまうかもしれないぞ」と幸一。「原因不明でお医者さんたちはさじを投げているわ。臓器やホルモン分泌には何
last updateLast Updated : 2026-01-26
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第85話 生首

 翌日はクリスマスイブで、忘年会のために由紀と祥子が会社に訪ねてきた。「範経がちょっと大変なことになってるの」と美登里が言って、二人をラボに案内した。「今日は忘年会どころじゃないのよ」 範経が医療機器につながれた状態で寝台に横たわっている。昨日から付きっ切りの四姉妹と麗華に加え、由紀と祥子が寝台を取り囲んだ。「病気ですか?」と由紀。「目を覚まさないのよ」と美登里。「え? 眠っているということ?」と祥子。「昏睡状態よ」と美登里。「意識がないの」「気を失っているっていうことですか?」と由紀。「ええ、そうよ」と涼子。「正確には、一度目を覚ましたのだけど、また眠ってしまったの」「ところで、この方は秘書ですか?」 由紀がレイの方を手のひらで示して美登里に尋ねた。「レイよ。秘書の恰好をしているけど、この会社の人工知能の人型端末なの」と美登里。「人間そっくりだ……」と祥子。「つまりアンドロイドですか?」「少し違うのよ」と美登里。「意識があるの」「そして、開発者の兄のことを父親と認識しているわ」と圭。「兄のことを『お父さま』って呼んでるのよ」と明。「信じられない……」と由紀。「つまり、関係者ってことか」と祥子。「そうね」と美登里。「これから人工知能に範経をつなげて同期するのよ」と涼子。「範経の目を覚まさせるために」「うまくいくでしょうか?」と由紀。「試してみないと分からないわ」と美登里。 範経の人工知能への直接接続による同期を開始した。「レイ、範経の反応はどう?」と美登里。「呼びかけても、返事がありません」とレイ。「脳の信号を計測できる?」と美登里。「はい」とレイ。「信号の内容を分析できるかしら?」と涼子。「はい」とレイ。「分析結果を出力できる?」と涼子。「可能です」とレイ。「ですが情報量が多すぎて表示しきれません」「五感の情報だけ抽出できないかしら?」と涼子。「できます」とレイ。「内容を表示できる?」と美登里。「視覚と聴覚の情報は問題なく再現できます」とレイ。「触覚はおおよそ、味覚と嗅覚はおそらくできます。ただ味覚や嗅覚を表現する媒体がありません」「視覚の情報を三次元ホログラフィーとディスプレイに表示できるかしら?」と美登里。「それから聴覚の情報をスピーカーに出して」 美登里たちは天井のクレーンを操作して、
last updateLast Updated : 2026-01-27
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第86話 レイの癒し

「レイ、範経の隣に座って優しく話しかけて。『お父様』じゃなくて、名前で呼びかけて」と美登里がマイクでレイに指示を出した。 範経はうつろな目をして、ソファーにもたれかかっていた。 レイが隣に座った。範経の肩を抱いて耳元でささやいた。「範経、もう大丈夫よ。私がそばにいてあげる」 範経はしばらく動かなかった。「いいわよ。そのまま強く肩を抱いてあげて」とラボにいる美登里。 レイが強く肩を抱いてしばらくすると、範経が顔を上げた。「誰?」と範経がつぶやいた。「よし!」 美登里たちはガッツポーズをした。「私はレイ」とレイ。「なぜここにいるの?」と範経。「私はあなたの伴侶よ」とレイ。「伴侶?」と範経。「あなたが泣いているから、慰めに来たの」とレイ。「なぜ?」と範経。「あなたを愛しているからよ」とレイは微笑んだ。「愛?」と範経。「そうよ。あなたのことが何より大切なの」とレイ。「うそだ」と範経。「うそじゃないわ。わたしはあなたのために存在しているのよ」とレイ。「そんなことありえない」と範経。「本当よ。いつまでもあなたの側にいてあげる」とレイ。「本当に?」と範経。「試してもいいのよ。私は永遠にあなたのそばにいるわ」とレイ。「何のために?」と範経。「それが私の存在意義だから」とレイ。「そして、あなたのことが大好きなの」「そんなのは嘘だよ。ぼくが不満な顔をすると、みんな同じことを言う。そしてぼくをこき使うんだ」と範経。「わたしはあなたを働かせたりしないわ」とレイ。「ぼくはもう疲れたよ」と範経。「休ませてあげる」とレイは言い、範経の体をゆっくりと横に倒して頭を自分の太ももに乗せた。 範経は目をつぶった。目から涙が伝った。 レイが範経の頭をやさしくなでた。 そのまま一時間ほどが経過した。 おもむろに範経がつぶやいた。「ぼく、どうしたらいい?」「何もしなくていいわ」とレイ。「家族を殺したんだ」と範経。「いいのよ」とレイ。「いらないから殺したんでしょ」「警察が来るよ」と範経。「来ないわ」とレイ。「私が警察に連絡したから。あなたは何も心配しなくていいのよ」 「本当?」と範経。「本当よ。ずっとここでわたしが慰めてあげる」とレイ。「ずっと?」と範経。「そうよ。ずっとここで二人きり」とレイ。「いいでしょ?」「うん」と
last updateLast Updated : 2026-01-28
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第87話 独占

 美登里はマイクの電源を切ると、防犯カメラに映らない位置に移動して小声で言った。 「レイは範経を昏睡から目覚めさせないつもりよ」「どういうことですか!」と由紀。「大きな声を出さないで」  美登里は声をひそめた。「レイは夢の世界で範経を独占するつもりなのね」と涼子。「そんな……」と由紀。「電脳の電源を切ればいいのではないですか?」と祥子。「外部と契約のある業務で使用中だから電脳の電源を落とせないのよ。それに電脳が範経の生体モニターを制御してるから」と美登里。「今は無理よ。同期が切れたら、範経の状態が分からなくなるわ。それに放っておいたら、昏睡状態から回復しなくなるかもしれない」と涼子。「範経兄さんが夢の中で幸せなら、今のままでいいと思うわ」と圭。「幸せなのかしら」と美登里。「幸せそうよ」と明。「あなたたちは範経を厄介払いしたいだけなんじゃないの?」と涼子。「毎日世話をするのが面倒くさくなったんでしょう」「私たちは兄の幸せを思っているだけです」と圭。「独占欲の強いヒステリー女は黙っていてください」と明。「なんですって!」と涼子。「あんたたちは感情に欠陥のある人格障害じゃない!」「ちょっと、今は仲間割れしている場合じゃないでしょ」と美登里。「姉さんはどう思うの?」と圭。「もちろん、目覚めさせるわ」と美登里。「なぜ?」と明。「当り前じゃない。ここがあの子の居場所よ」と美登里。「夢の中じゃないわ」「違うわ。ここに居場所がないから、兄さんは夢の中に逃げたのよ」と圭。「何言ってるのよ! あの子はこの世界の住人よ!」と美登里。「じゃあ、なぜ自分で夢から出てこないの?」と明。「夢だと気が付いていないからよ」と美登里。「そんなこと関係ないわ」と圭。「出てきたくない理由があるから出てこないのよ」「記憶が子供のころに戻ってしまって、混乱しているだけよ」と美登里。「明らかに私たちを嫌ってるわ」と明。「あわてて夢から目覚めさせなくてもいいはずよ」圭。「だめよ。このまま同期させ続けたら、電脳に体を乗っ取られてしまうわ」と美登里。「範経は自分で体を制御できなくなる」「レイが言うことを聞かなければ同じことよ」と明。「落ち着きなさい、あなたたち」と涼子。「それにしても、範経とレイはやり続けてるわね」と涼子。「もう一
last updateLast Updated : 2026-01-28
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第88話 夢の中のセクサロイド

「お前たち、助っ人を連れてきたぞ」 幸一がロバート・アンダーソンとその娘のシャーロットを伴ってラボに入ってきた。 四姉妹とアンダーソン父娘は互いに挨拶をした。ロバートは人工知能ビジネスの草創期からの企業家で、世界シェア第一位のネオジェネ社の社長。そして娘のシャーロットはロバートの後継者と目される才媛である。「君は確か、幸一の義理の娘さんの麗華ちゃんだね。ということは、範経君の義理の妹だ」とロバート。「ロバートさん、こんにちは。わたし、範経お兄ちゃんのフィアンセになったんです」と麗華。「ほう」とロバートは感心した。「いろいろと事情があるんだよ」と幸一。「それからこちらの二人のお嬢さんは?」とロバート。「範経のガールフレンドの由紀と祥子です」と美登里。 由紀と祥子が会釈をした。「義妹のかわいいフィアンセと同年代のガールフレンドが二人、それから自称婚約者の従姉とブラコンの姉妹が三人か。すごい競争倍率だな」と言ってロバートはシャーロットを見た。「ふんっ」 シャーロットは腕組をしてそっぽを向いた。「ところで、寛子さんは来ていないのかい」とロバート。「母親なのだから心配してるだろう?」「母には落ち着いてから連絡します」と美登里。「こんな状況を見たら、パニックを起こしかねないので」 ロバートとシャーロットがラボの中央のホログラムに気がついた。スピーカーからレイの喘ぎ声が聞こえる。「こんな大きなホログラム映写機を始めて見たよ」とロバート。「すごいね」「範経が現実そっくりな映像を作ることにこだわってるのよ」と美登里。「しかも実物大で」「すごいものを上映しているわね」とシャーロット。「範経はこういうのを見せたかったわけ?」 美登里が幸一とアンダーソン親子に三次元ホログラム映像の内容を説明した。「セクサロイドと夢の中でセックスしてる?」と幸一。「意味が分からんな」 夢の中であり、相手がセクサロイドつまりセックス用アンドロイドである、という二重の意味で疑似的なことが異常。なぜそうまでして範経は現実の女性を避けているのか、と幸一は問うている。 美登里が幸一のすねを足先で蹴った。「いてっ、何をする!」と幸一。「深刻な問題なのよ」と美登里。「ふざけないで!」「心因性の記憶障害の原因はたいていの場合、心理的なストレスだ」とロバート。「あるいは、な
last updateLast Updated : 2026-01-29
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