All Chapters of 二人の彼女がいる理由: Chapter 71 - Chapter 80

107 Chapters

ここまでの目次

§ 第1章 一線を越えた日 1. 第1話 由紀 2. 第2話 祥子 3. 第3話 二人の彼女 4. 第4話 音楽準備室 § 第2章 誕生日会 5. 第5話 校庭のベンチ 6. 第6話 玲子 7. 第7話 招待 8. 第8話 由紀の父親 9. 第9話 転校の書類 10. 第10話 拉致 11. 第11話 誕生日会 12. 第12話 祥子の家 13. 第13話 欠席 14. 第14話 美登里 § 第3章 引っ越し 15. 第15話 商店街 16. 第16話 圭と明 17. 第17話 新しい家族 18. 第18話 実母 19. 第19話 叔母 20. 第20話 一時帰宅 21. 第21話 尋問 22. 第22話 約束 § 第4章 裁判 23. 第23話 復学 24. 第24話 お見舞い 25. 第25話 寝室 26. 第26話 相談 27. 第27話 再会 28. 第28話 被告人範経 29. 第29話 麗華の証言(1) 30. 第30話 麗華の証言(2) 31. 第31話 弁護 32. 第32話 就寝 33. 第33話 朝食 34. 第34話 登校 § 第5章 家業 35. 第35話 親権 36. 第36話 役員会 37. 第37話 涼子 38. 第38話 同居 39. 第39話 立ち聞き 40. 第40話 手伝い 41. 第41話 養子縁組 42. 第42話 テコ入れ 43. 第43話 望み § 第6章 レイ 44. 第44話 乗っ取り 45. 第45話 寛子 46. 第46話 新アルゴー社 47. 第47話 零番機 48. 第48話 自己紹介 49. 第49話 お披露目 § 第7章 ヘルマン家 50. 第50話 訪問 51. 第51話 ジョン 52. 第52話 秘書 53. 第53話 会食 54. 第54話 四姉妹
last updateLast Updated : 2026-01-11
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第70話 本望

 範経はベッドで横になった。「お兄ちゃん、レイに迫られたそうね」と圭。「戦闘試験の後、興奮していたみたいなんだ」と範経。「そうなの。お兄ちゃんのうろたえる姿を見たかったわ」と明。「どう、娘に言い寄られた気分は?」と圭。「意地悪だな、今日は」と範経。「お兄ちゃんを苛めるのが生きがいなの」と明。「ぼくはこんなに圭と明が好きなのに」と範経。「かわいいから苛めたくなるの」と圭。「ぼくは優しくされる方が好きだよ」と範経。「だめよ。優しいだけでは、お兄ちゃんに飽きられてしまうわ」と明。「そんなわけないよ。ずっと好きだよ」と範経。「それで、娘にキスされて興奮したの、お兄ちゃん?」と圭。「しないよ。するわけないだろう」と範経。「そうかしら。じゃあ、妹のキスはどうかしら」と明。「ちょっと、重い……」と範経。 圭と明は交互に範経の上から覆いかぶさって唇を重ねた。「お兄ちゃん、私たち、いいんだよ」と圭。「え?」と範経。「お兄ちゃんを受け入れる準備ができてるっていう意味よ」と明。「それって?」と範経。 圭が範経の股間をさすった。「お兄ちゃん、硬くなってるでしょ」「だめだよ」と範経。「なぜ?」と明。「ダメなことはダメなんだ。圭と明のためにならないから」と範経。「わかったわ」と圭。「お兄ちゃんの心の準備ができたら、いつでも言ってね」と明。「そういう意味ではないんだ」と範経。「私たち、美登里姉さんみたいな面倒くさい女にならないよ」と圭。「わかってる」と範経。「由紀や祥子みたいに妬んだり独占しようとしたりしないよ」と明。「わかってる」と範経。「兄さんを、あるがままに自由にさせてあげる」と圭。「ありがとう」と範経。「待ってるから」と明。「わかったよ」と範経。「それからお兄ちゃん、何があってもここに戻ってきて。お兄ちゃんの居場所はここよ」と圭。「うん」と範経。「何があっても、私たちとどんなに気まずいことになってもよ」と明。「分かってる」と範経。「私たちはお兄ちゃんの味方だから。何があっても」と圭。「戻ってくるよ」と範経。「私たちに嫌われても、戻ってくるのよ」と明。「ああ、圭と明に殺されるとわかっていても、絶対に戻ってくる」と範経。「本当ね?」と圭。「約束する。圭と明に殺されるのなら本望だよ」
last updateLast Updated : 2026-01-12
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第71話 相談

 ベッドで寝ている範経の体を、美登里が揺すった。「範経、起きなさい」「もう朝? 圭と明は?」と範経。「とっくに起きて学校に行ったわよ。あなたも早く支度しなさい」と美登里。「今日は仕事しないよ。昨日片付けたから」と範経。「今日は学校に行くのよ」と美登里。「疲れてるんだ。寝かせてよ」と範経。「何で学校に行かなきゃいけないんだよ」「出席日数が足りなくなるわ」と美登里。「かまわないよ。卒業する気ないし」と範経。「由紀と祥子が悲しむわよ」と美登里。「由紀ちゃんと祥子ちゃんは、ぼくのことを分かってくれるよ」と範経。「だめよ、許さないわ。一緒に卒業してあげなさい」と美登里。「何でだよ」と美登里。「何でもよ。二人の気持ちを考えてあげなさい」と美登里。「考えてるよ」と範経。「考えてないわ。もし学校をやめるなら、どちらかを選んですぐに結婚しなさい。でないと許さないわ」と美登里。「なんでそうなるんだよ」と範経。「なんでもよ。もし結婚しないで逃げたら、私が責任を取ってあんたを殺すわ」と美登里。「わけがわからないよ」と範経。「いいのよ、わからなくても。とにかく学校に行きなさい」と美登里。「わかったよ」と範経。「わかればいいわ」と美登里。「姉さんは横暴だよ」と範経。「いいのよ、あなたにはわからなくて」と美登里。「そうなの?」と範経。「そうよ。範経、あなた私のこと、好き?」と美登里。「大好きだよ」と範経。「なら私の言うことを聞きなさい。そのかわり私のことを好きにしていいわ」と美登里。「なんだよそれ、わけがわかんないよ」と範経。「いいのよ、それで」と美登里。「ふうん」と範経。「由紀と祥子が困ってたわ。話を聞いてあげなさい」と美登里。「どんなこと?」と範経。「今日、学校に行って直接聞きなさい」と美登里。「わかったよ」と範経。
last updateLast Updated : 2026-01-13
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第72話 高井

 美登里が範経を連れて教室に入った。「範経を連れて来たわ。受け取って。逃がさないようにね」と美登里。「はい、美登里先輩。お預かりします」と由紀。「範経、いい子にしてるのよ」と美登里。「ぼくは子供じゃないよ」と範経。「ええ、わかってるわ。あなたは私のかわいい弟よ、範経。それじゃあ」と美登里。「美登里先輩、失礼します」と由紀。「範経、今日は私のものよ」「うん」と範経。「だめだ、独り占めはさせない。私が半分もらうよ」と祥子。「それじゃあ、半分ずつね。どこで切ろうかしら?」と由紀。「切らないでよ!」と範経。「冗談よ」と由紀。「範経が学校来るの、久しぶりね。今日は範経から離れないわよ」と由紀。「うん。ずっと一緒にいるよ」と範経。「今日は由紀と祥子に会いに来たんだ」 「うれしいわ!」と言って、祥子は範経を由紀から奪って抱きしめた。「ああ、このまま範経に抱きついたまま授業を受けたい」「範経君、おはよう。祥子はいつにも増して熱烈ね」と玲子。「うん。学校に来たっていう気がするよ」と範経。「会社はどう? 社長の仕事には慣れたの?」と由紀。「仕事はぼちぼちだよ。だけど変なお客さんが多くて疲れるんだ」と範経。「変なって、どんな人?」と祥子。「一方的な要求を押し付けてくる人とか、忠告を聞かないくせにトラブルを起こしてからこんなはずじゃなかった、なんて文句を言うような人とかだよ」と範経。「大変ね」と玲子。「疲れたよ。ほんとうは今日、休みたかったんだ。でも姉さんに起こされて」と範経。「かわいそうね。膝枕してあげる」と由紀が言いながら、祥子から範経をひきはがして抱きかかえた。「うん」と範経。「この頃、高井君が変なの」と由紀。「あのヒガミ屋の高井が?」と範経。「最近、自信満々なのよ」と由紀。「多少の自信を持つことはいいことだよ」と範経。「先週あった予備校がやってる大学入学試験の模擬試験で、全国で十位以内に入ったって大威張りしてるんだ」と祥子。「それは何かのイカサマだね。彼は優秀だけど、そこまでじゃない」と範経。「彼は覚醒したって言ってる」と祥子。「ふーん。その確率はゼロじゃないけど」と範経。「それにちょっと雰囲気も変わってるの。急にきょろきょろしたりニタニタ笑ったりして。少し気味が悪くて」と由紀。「変だね。薬でもやってるのかな。最
last updateLast Updated : 2026-01-14
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第73話 チェス

 放課後に由紀と玲子は範経に人工知能に関する質問を続けた。三人は校庭のベンチに並んで座った。「人工知能と同期しているかどうかを見分ける方法はないの?」と由紀。「まず、デバイスと端末を見つけるのが手っ取り早い。それからデータ量が大きいから、データ転送用の通信業者との特別な契約が必要になる。だから契約と通信の記録を調べるのも一つの方法かな」と範経。「実際問題、かなり費用が掛かるから個人が学力テストぐらいの目的で使うのは割に合わないと思うよ。端末とデバイスの購入費用だけで、数百万。人工知能の使用料と通信費用、メンテナンス代などを考えると馬鹿げている」「そうなの?でも高井君の家はお金持ちよ。買えるかも」と玲子。「そうだな。人工知能を自慢したい人はやたらとチェスや将棋なんかのゲームをしたがる傾向がある。彼にそんなそぶりはない?」と範経。「どうかしら。私は仲がいいわけじゃないから、わからないわ」と由紀。「そうよね」と玲子。 祥子が遅れて校庭のベンチに現れた。「範経、また由紀に膝枕してもらってる!」と祥子。「疲れてるんだ」と範経。「私が抱っこしてあげるわ」と祥子は範経に抱きついた。「ちょっと、用事を忘れたの?」と祥子と同行していたクラスメイトの安田愛実が言った。「高井が教室で『塚原範経を呼んで来い』ってうるさいのよ。範経、どうする?」と祥子。「何の用事だろう?」と範経。「チェスのボードもってたわ」と愛実。「それはちょうどよかった。ぼくも彼に用事があったから」と範経。「あら、そうなの。意外だわ」と愛実。 範経たちは教室に移動した。「高井君、何の用だい?」と範経。「君、チェスはできるかい?」と高井。「コマを動かすぐらいはね」と範経。「勝負しようじゃないか。ぼくのほうが勝っているということを、君の取り巻きに見せてあげるよ」と高井。「チェスなんて遊びだろ。勝ったからって、意味はないよ」と範経。「なぜ逃げようとするんだい。知能が高い方が勝つよ。君はぼくに負けるのが怖いのだろう?」と高井。「そういう意味じゃないんだ。遊んであげてもいいよ」と範経。「じゃあ、君の取り巻きがいるここで勝負しよう」と高井。「ああ、かまわないよ」と範経。 範経と高井は向き合ってチェスを指し始めた。二人とも考慮時間が数秒から数十秒の早指しだった。「君はなかなか強
last updateLast Updated : 2026-01-15
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第74話 警察

 高井とチェスをしてから数日後の朝、美登里と麗華が寝ている範経を起こしにきた。「範経、起きなさい」と言って美登里は範経の体をゆすった。「おはよう、お兄ちゃん」と麗華が範経の顔を覗き込んだ。「おはよう、美登里姉さん、麗華ちゃん。ぼくは今日も学校に行くの?」と範経。「行かないわ。別の用事があるの」と美登里。「仕事?」と範経。「仕事と言えば、仕事ね」と美登里。「ふうん」と範経。「早く起きなさい」と美登里。  美登里が運転する車で範経と美登里は出かけた。「ここよ」と言って美登里は警察署の駐車場に車を停めた。「警察?」と範経。「そうよ。協力を頼まれたの」と美登里。「へえ。どんなこと?」と範経。「ついてくれば分かるわ」と美登里。 美登里は範経を連れて警察署正面の自動ドアから入り、大きな階段を上がった。二階の殺風景な廊下を進み、奥まったところにあるサイバー犯罪対策課の表示板のある事務室の前まで来た。小さなガラス窓から受け付けの警官に「塚原です。岩田さんに会いに来ました」と美登里が言った。 美登里の声を聞いて、部屋の中の一人の男が立ち上がって外に出てきた。四十代の少し小太りの男で、くたびれた茶色のジャケットを着ている。「お電話で話した塚原です」と美登里が自己紹介した。「岩田です。わざわざ来てくださって、ありがとうございます」と岩田という刑事が言った。「どういたしまして。こちらが弟の範経です」と美登里。 いつの間にか背の高い若い刑事が岩田のすぐ後ろに立って、美登里と範経を無表情に見ていた。岩田の同僚らしい。「こちらの部屋で話しましょう」と岩田が言って、美登里と範経を小さな部屋に案内した。「取調室だね」と範経。「ここは相談室です。今日は取り調べではなくて、相談ですから」と岩田は明るく言った。「こちらに座ってください」と岩田。 事務机の前のパイプ椅子に美登里と範経が座った後、磐田が向かい合わせに座った。「電話で相談させていただいた高井洋一の件ですが、協力してただけないでしょうか」と岩田。「それは社長の範経次第です」と美登里。「どういうこと?ぼくは何も知らないのだけど」と範経。「そうですか。実は、高井洋一氏の殺人事件を捜査しているのです。彼はあなたのクラスメートでしょう?」と岩田。「彼のことはもちろん知っていますが、彼は死んだので
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第75話 聴取

「犯罪かどうかは我々が捜査をして判断をします」と岩田。「ぼくがお役にたてるとは思えないのですが」と範経。「捜査であなたの名前が出てきたのです」と岩田。「容疑者でしょうか?」と範経。「むろん違います。関係者としてお話を聞きたいのです」と岩田。「どのような?」と範経。「あなたは先週、クラスメイトの高井氏とチェスをしたましたね」と岩田。「ええ」と範経。「彼とは親しいですか?」と岩田。「いいえ。彼とはほとんど話をしません」と範経。「そうですか。それなのに、なぜチェスをしたのですか?」と岩田。「彼がどうしてもというので、三局だけ」と範経。「勝負はどうでしたか」と岩田。「三局ともぼくが勝ちました」と範経。「そうですか。あなたはチェスは得意ですか?」と岩田。「まあまあです。ここ何年かは負けたことはありません」と範経。「彼はそのとき人工知能と同期した状態にあった。気が付きましたか?」と岩田。「ええ。彼にしては強すぎだったので」と範経。「あなたは同期していなかったはずですね」と岩田。「ええ」と範経。「不可能です。人工知能と勝負して勝つなんて」と岩田。「事実勝ってます。何か不都合でしょうか?」と範経。「あなたも同期していたのではないかと疑ってます」と岩田。「たかがチェスの遊びで、同期なんてしませんよ。サイバー犯罪が専門の刑事さんならそれくらいわかるでしょ。むしろ高井のほうが異常ですよ。高校で同期するなんて。いろいろな意味で馬鹿げている」と範経。「あなたが同期していなかったという証拠はありますか?」と岩田。「同期にはそれなりの装備と準備がいります。それに通信用の高速な専用回線がいります。そんなもの高校で使えませんよ。刑事さんなら調べてるはずでしょ。むしろぼくは高井がどのように通信していたのか知りたい」と範経。「なるほど。ではなぜチェスに連続して三回も勝てたのでしょうか」と岩田。「ぼくが強いからです」と範経。「それこそ納得できない答えですよ」と岩田。「範経、あなたは疑われているのよ。説明しなさい」と美登里。「一般にはあまり知られていないことですが、同期して人工知能と思考を共有すると、その活動が人間の脳に記憶されます。ぼくは仕事で頻繁に同期をしていて、知能テストの代わりにチェスをさせられることが多い。だから少しだけ普通の人よりもチ
last updateLast Updated : 2026-01-17
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第76話 検査

 最初の取り調べから三日後、警察の留置所にネオジェネ社の社長であるロバート・アンダーソンが訪ねてきた。「どうしてここにロバートが?」と範経。「美登里さんに呼び出されたんだよ。君を何とかしてほしいとね」とロバート。「それは申し訳ない」と範経。「いいんだ。それより、本当に拘留されてたんだね。びっくりした」とロバート。「この国のお巡りは馬鹿なんだ」と範経。「この国のは、ましなほうだよ」とロバート。「それで、大会社の社長様がなぜここへ?」と範経。「君を説得するように頼まれたんだ」とロバート。「何を?」と範経。「高井氏のご子息の治療だよ」とロバート。「ぼくは医者じゃない」と範経。「医者がさじを投げたんだ。それで君に頼みたいと」とロバート。「可能だとしても、とても引き受けられないよ。奴のおかげでぼくは無実の罪で豚箱にぶち込まれたわけだから」と範経。「協力すれば君を釈放してくれるそうだ。お礼もすると言っている」とロバート。「よくもぬけぬけとそんなことが言える」と範経。「言えないから、私が頼まれたんだ」とロバート。「あんたも神経が太いね」と範経。「君の家族にも頼まれたんだ。みんな心配している。特に美登里さんは取り乱して大変だった。とにかく引き受けて、ここから出るんだ」とロバート。「わかったよ」と範経。 美登里が警察署の玄関前で待っていた。「範経、ごめんなさい」と美登里。「美登里姉さん、ぼくは何ともないよ。大丈夫だから」 範経は笑った。「よかった。よかったわ」  美登里は範経を抱きしめた。 涼子が車で待っていた。範経らを乗せて警察署の駐車場から出た。「範経君、これから高井氏に会ってもらうよ」とロバート。 涼子はフランチレストランの駐車場に車を停めた。一同は車を降りて、レストランの入り口に向かった。後ろからもう一台の車が駐車場に入ってきた。車から降りてきたのは、岩田ともう一人の背の高い刑事だった。 涼子が案内係のウエイターに予約済みであることを伝えると、入り口から一番遠い席に案内された。午前中で開店したばかりの広い店内はがらんとしていた。 テーブルにはすでに二人の男が座って、コーヒーを飲んでいた。二人はロバートが近づくと立ち上がって挨拶をした。「こちらがタカイキャピタルのCEO、高井敏明氏だ」とロバートが一人の男を範経に紹
last updateLast Updated : 2026-01-18
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第77話 治療

 その日の午後、仮死状態の高井洋一は救急車で佐和田大学病院からアルゴー社の研究室に運ばれた。 範経は高井敏明と二人の刑事に言った。「ここで見たことは口外しないでください。すべて秘密です。それから高井さん、うまくいくかどうかは分かりません。それでも良いのでしょうか」「もちろんです。お願いします」と敏明。「高くつきますよ」と範経。「息子の命がかかっているんだ。いくらでも払う」と敏明。「前川副社長、見積もりをお出しして」と範経。「少し時間がかかりますが」と涼子。「待つよ」と範経。「できればすぐに始めてください。金額は問題ではありません。お願いします」と敏明。「分かりました。それから、岩田刑事とおまけの人、あなたたちにも秘密は守ってもらいますよ」と範経。「もちろん守秘義務は心得ている。君に不利になるようなことは何もしゃべらない」と岩田。「そうじゃなくて、何もしゃべらないでくれということです。そもそも、あなたはここにいる必要はないのでは?」と範経。「そうはいかない。私はこの事件の捜査をしている」と岩田。「だからといって、わが社の重要な企業秘密を見せる理由にはならないよ。どう思う、塚原副社長?」「社長、その通りです。岩田さん、出て行ってもらえないでしょうか?」と美登里。「居続けるなら、すぐに弁護士を呼びます」「君たちの会社の事情には配慮する。だがこれは殺人事件の捜査なんだ。解決したらきちんとした形で埋め合わせをしよう。約束する」と岩田。「あんたの言葉には誠意のかけらも感じないよ」と範経。「頼む、お願いだから始めてくれないか。警察の件は私の知り合いの優秀な弁護士に頼むことにするから」と敏明。「そうですか。レイ、こちらに来てくれ」と範経。「社長、お呼びでしょうか?」と壁際にいたレイが範経のそばに寄った。「同期をするから準備を」と範経。「はい」とレイ。「この方は?」と敏明。「秘書のレイです。患者の端末をぼくの端末に接続して」と範経。「はい」とレイ。「患者の解析を始めてくれ」と範経。「はい」とレイ。「どういうことだい? 高井さんの子息の端末を人工知能につながないのかい?」とロバート。「ぼくの端末を経由して彼につなぐんです。そのほうがリスクを低く抑えられる。それに、ぼくも患者の状態を直接見ることができる」と範経。「なるほど。いつも
last updateLast Updated : 2026-01-19
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第78話 帰宅

 夕食後、リビングルームで美登里たちがくつろいでいるうちに、範経はソファーで寝てしまった。「結局、治療の後、誰も帰ってくれなかったわね」と涼子。「あの親子、大騒ぎして。立場を分かってたのかしら?」と美登里。「その分、たっぷり請求しておいたから」と涼子。「範経がかわいそうだわ。拘置所を出てすぐに同期させられて、そのまま親子のメロドラマに付き合わされて」と美登里。「お兄ちゃん、起きないね」と圭。「三日ぶりに帰ってきたのに」と明。「このまま寝かせるわ。あなたたちのベッドに運ぶから」と美登里。「今日は姉さんたちに譲るわ」と圭。「二人とも、昼間すごい顔してたわよ」と明。「大変だったのよ」と涼子。「私は明日の朝、範経に会わせる顔がないわ。涼子姉さんが一緒に寝てあげて」と美登里。「いいのかしら?」と涼子。「どうぞ。今日は姉さんが功労者よ」と美登里。「それではお言葉に甘えて、範経は頂くわ。明日の朝、怒らないでね」と涼子。「ご自由にどうぞ」と美登里。「では、このまま運んでくださる? 範経をお姫様抱っこで運ぶなんて私には無理だから」と涼子。「ええ、いいわよ」と美登里。「私たちはお兄ちゃんにキスして寝るわ」と圭。「おかえりなさい、お兄ちゃん」「おやすみなさい、お兄ちゃん」と明。「お兄ちゃんを連れて帰って来てくれてありがとう、美登里姉さん、涼子姉さん」と圭。「おやすみなさい、美登里姉さん、涼子姉さん」と明。「おやすみ、圭、明」と美登里と涼子。  美登里は涼子の部屋に範経を運んで、ベッドにおろした。 「ここでいいかしら?」「ええ。ありがとう」と涼子。「じゃあ、おやすみなさい」と美登里。「ちょっと待って」と涼子。「何かしら?」と美登里。「少し心配なの」と涼子。「何のこと?」と美登里。「範経よ。範経の才能はずば抜けている。それを利用しようとする人が出てきたとき、範経は必ず衝突するわ。範経は汚い大人が大嫌いだから」と涼子。「私も同じことを思っているわ。範経は物怖じしないで嫌悪感を丸出しにする。今日だって、本人を目の前に、親子そろってクズだ、なんてよく言えたものよ。私、改めて感心したわ」と美登里。「私もそういう範経が好きよ。でもこの先、このままだといずれトラブルに巻き込まれてしまうわ」と涼子。「そうね。生意気盛り
last updateLast Updated : 2026-01-20
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