病室は静かだった。 昼と夜の境目が分からなくなるくらいには。 点滴の落ちる音と機械の低い駆動音だけが、ここに時間が流れていることを教えてくれる。 私はベッドに横になったまま、開かない扉を見ていた。 もう何度目か分からない。 軽井沢に向かう前、あのときの言葉が、ふいに胸の奥で形を持った。 「……戻ったら、もう待たないから」 あれは、本気だったのだろうか。 それとも、追い詰められて思わず口にしただけの言葉だったのか。 「朱音が嫌だって言うまで……俺、引かない」 あんな言葉を、あんな顔で言われたら、信じてしまう。 信じたくなる。 それなのに。 ここには来ない。 胸の奥で、小さな不安が、はっきりとした形を取り始める。 ——もしかして。 あれも。 これも。 全部、私の勘違いだった? そう思った瞬間、記憶が、勝手に引きずり出される。 東京で、清晴堂の再建に追われていた日々。 資金が尽きかけ、逃げ場もなくなって、社長室で震える声で「もう、これ以上は逃げたくない」と絞り出した晴紀。 その未来を、私が形にすると応じた夜。 あの時、晴紀は確かに変わったと思った。 雨の屋上。 四面楚歌で、肩を震わせて座り込む背中を、後ろから抱きしめたこと。 「救われるだろ……そんな言い方されたら……立つしかないだろ」 あの声の震え。 暗い企画室で、倒れかけた私を、無言で抱きとめた腕。 「倒れるまでやるなよ」 叱るくせに、逃げ場を失うほど、まっすぐだった視線。 パリで。 七年前のことを、やっと言葉にされた夜。 巻き込むのが怖かったと、守り方を間違えたと、震えながら告白された機内。 セーヌ川の光と夕暮れ。 「勝てたら、また来ないか。一緒に、ゆっくり歩きたい」 あのキス。 ホテルの部屋で、背中合わせに眠った夜。 「隣にいてくれて、ありがとう」 あの距離。 ——好きになってしまったのに。 昔よりも、ずっと、ずっと。 ——なのに。 最後に浮かぶのは、ホテルの床。 淡い水色の革のメモ帳。 拾われることもなく、視線も向けられず、ゴミ箱に落ちた音。 静かすぎて、はっきり覚えている。 あのとき、答えはもう出ていたのかもしれない。 信じたのも
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