スマホを耳に当てた晴紀の表情が、みるみる緊張の色に変わっていった。 「……悠斗、どういうことだ。 不正会計の疑いって……」 受話器の向こうから、ため息にも似た沈黙が落ちた。 『結論から言う。 数字が意図的にズラされてる。しかも複数箇所だ』 晴紀の指がぴくりと動いた。 「……ミスじゃなくて?」 『違う。操作されてる。 特に固定費と棚卸しの数字……おかしい。 普通じゃありえないズレ方だ』 「誰がやった?」 低く抑えた声。 その静けさの裏で、朱音の胸がひやりと冷えた。 『……坂東だ。経理部長の坂東誠司。 七年分の過去データにも手が入ってた。 これ、相当慣れてる手口だよ』 晴紀は、息を呑んだ。 「なんで……坂東が……」 『理由はひとつ。 清晴堂を沈めるのが目的じゃなきゃ説明つかない』 電話越しでも、悠斗の声には怒気が滲んでいた。 『で──これが一番の問題なんだが』 一拍の間。 『……いずみさんから連絡があった。 神園家が裏で動いてる可能性が高い、って』 「……いずみが?」 『多分、本人は全容知らない。 でも、坂東に直接指示を出してた人物…… その名前を偶然見たらしい』 晴紀の拳が震えた。 「……父親か。神園の……」 『まだ断定はできない。でも……限りなく黒に近い。 清晴堂を自然死させるための数字操作……そう見てる』 (……そんな……) (いずみさんは……知らなかったの……?) 朱音の胸がざわついた。 電話の向こうで、悠斗が短く息を吸う。 『……兄さん。 本当は、お前に今すぐ帰れって言いたい。』 はっきりとした声だった。 『でも──帰ってどうする? いま帰国したら、パリの勝負は終わりだ。 あっち(神園家)はそれを望んでる』 沈黙。 『こっちは、俺がなんとかする。 数字の洗い直しも、坂東の動きも……全部押さえる。』 「……でも悠斗、お前一人じゃ──」 『一人じゃない。 ここは任せろ。 お前は……パリで勝ってこい』 その言葉は、命令でも励ましでもなく、 背中を押す仲間の声だった。 晴紀は、長く息を吐いた。 「……わかった。 任せる。絶対に、勝ってみせる。」 『ああ。 そのためにも──ここは俺が守る
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