「……朝から、にぎやかね」 落ち着いた声。 振り返ると、ミレイユが立っていた。 状況を一目で把握したように、視線が会場をなぞる。「トラブル?」「小さいのが、いくつか」 私が答えると、ミレイユは肩をすくめた。「そう。 でも——致命的じゃない」 その言葉に、わずかに背中の力が抜ける。 彼女は、クレアとルカの方を一度だけ見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。「ええ。 条件は、もう揃ってる」「……わかっていると思うけど」 そう前置きして、ミレイユは会場を一巡させる。「このコンテストでは、ブース展示と実演の両方を見るわ」「完成度だけじゃない。 その場で、どう判断するかも含めてね」 その目が、告げているようだった。 ——ここまでは、問題ない。 開場まで、あと十分。 偶然も、妨害も、基準も、 すべてが、この場所に集まっている。 ——逃げ道は、もうなかった。*** 会場全体に、低く澄んだ音が響いた。「——メサージュ・ダム・エ・ムッシュー」 天井のスピーカーから流れる、落ち着いたフランス語。 ざわめきがすっと引き、足音が揃う。「《ルミエール・ガトー展示会》、本日の一般公開を開始いたします」「出展者の皆さまは、所定の位置で待機してください」 そのアナウンスを合図に、空気が切り替わった。 名刺交換は途切れ、笑顔は奥へ引っ込み、視線だけが、鋭くなる。 評価が始まる。 私は無意識に背筋を伸ばした。(……来た) もう、準備の時間じゃない。 調整も、言い訳も、ここまで。 ここから先は—— 見られる側だ。 隣で、晴紀が静かに息を吐く。 白衣の袖を整える指先は、不思議なくらい落ち着いていた。 クレアのブースに、人が集まり始める。 少し離れた場所では、ルカが無言で立っている。 それぞれが、それぞれの戦場に立つ。 私は、心の中でだけ言った。(やろう) 清晴堂の名前を、この場に刻むために。*** 評価が、静かに始まっていた。 開場と同時に押し寄せる、というほどじゃない。 でも、足を止める人がいる。 通り過ぎずに、戻ってくる人がいる。「……あ、これ」「SNSで見ました」 低い声。 確かめるような視線。 以前、話題になった映像。 断面。 構造。 「完成させない菓子」という言葉。 それを覚えて
최신 업데이트 : 2026-01-31 더 보기