社長室は、まだ朝のままだった。 カーテン越しの光、冷めかけたコーヒー、資料の山。 すべてが、今朝と同じなのに――心だけが、限界だった。 私は資料を追っているふりをしていたが、文字はほとんど頭に入ってこない。 晴紀も、ソファに沈んだまま、タブレットを握って動かない。 炎上。 失踪。 停滞。 机の上で、私のスマホが短く震えた。 着信。 表示された名前を見た瞬間、心臓が一拍遅れる。 ――D。 同時に、ソファの方でも小さな音。 晴紀のスマホが震えている。 画面に浮かぶ名前は、――いずみ。 ほとんど無言のまま晴紀と視線を交わし、同時に通話ボタンを押した。 「……朱音?」 耳に届いたDの声は、いつも通り落ち着いていた。 「……うん」 『時間がないから、結論だけ言うわ』 短い前置き。 『悠斗さん……やっぱり、神園家に監禁されてる可能性が高い。 軽井沢。 神園家の別荘』 言葉が、静かに落ちた。 私は、思わず息を止めていた。 「……生きてる?」 自分の声が、思ったよりも掠れていた。 『……ええ。少なくとも、今のところは』 「……そう」 それだけ言うのが精一杯だった。 ほんの一拍、沈黙。 「……でも……この情報だけで……」 続きを、言葉にする前に分かってしまう。 『……そうね』 Dは、すぐには否定しなかった。 『この情報だけで警察がすぐ動くかは……微妙だと思う』 淡々とした言い方だった。 でも、その現実味が、逆に刺さった。 「……やっぱり」 『場所の特定も、まだ「確信」には届かない。 証拠も、今のところは状況証拠の域を出ない』 「……そう」 わずかな沈黙。 『……行くつもりでしょうね、あなた』 「……うん」 短く答える。 大きなため息。 『……せめて私は、できることをやる』 「……え?」 『神園家の資金の流れ、もう一度洗うわ。 脱税かマネロンか、何かしら引っかかるはずだから』 淡々とした口調。 でも、その奥には、明らかに「心配」が混じっていた。 「……ありがとう」 『礼はいらない』 少し間があって、Dは付け加える。 『……無茶だけは、しないで。 あなたに何かあったら……私……』 それだけだっ
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