ホテルの部屋は、静かすぎるほど静かだった。 高層階。 窓の外には、夜の東京が広がっている。 光は多いのに、音はほとんど届かない。 分厚いカーテン。 整いすぎたベッド。 神園家が用意した部屋。 ——檻みたい、といずみは思った。 スマートフォンをテーブルに置いたまま、ソファに沈み込む。 さっきまで、何度も同じ画面を見ていた。 【清水晴紀】 名前は出る。 でも、そこから先が押せない。 展示会の会場で見た、あの横顔が頭から離れなかった。 怒りを押し殺していた表情。 いずみを見たとき、ほんのわずかに揺れた目。 「悠斗が、行方不明になった」 あの言葉が、何度も頭の中で反響する。 ——誘拐。 ——事件。 ——神園家。 そこまで考えて、思考が止まる。 そのとき、スマートフォンが、震えた。 画面に表示された名前を見て、息が止まる。 【ルカ・ベルナール】 通話ボタンを押す前から、分かっていた。 彼はもう、すべて知っている。 「もしもし」 『プレスルームでの会話が気になって』 ルカの声は、いつも通り落ち着いていた。 『行方不明になったという人は、どういう状況なんです?』 「……まだ、何もわかりません」 正直に言うしかなかった。 「ニュースにもなっていないみたいで」 一拍、沈黙。 それから、ルカは静かに尋ねた。 『それで、君はどうしたいです?』 心臓が、わずかに強く打った。 どうしたいか。 そんな問いを、これまで誰かに向けられたことがあっただろうか。 神園家の娘として、誰かの判断に従い、誰かの決定に守られて、ただ「与えられた役」を演じてきただけだった。 唯一、欲しかったのは。 晴紀、ただ一人だった。 それだけでよかった。 それだけを信じていた。 でも、その想いは、何もかもを壊して、終わった。 私の立場も、彼との関係も、きっと、取り返しのつかないところまで。 だから—— 「……怖い」 ぽつりと、漏れた。 『怖い?』 「もし、神園家が関係していたら…… 私、どうしたらいいのか分からなくて」 通話の向こうは、すぐには返ってこない。 でも、切られていない。 ただ、聞いてくれている。 数秒のの
최신 업데이트 : 2026-02-10 더 보기