「……本当は、もっと綺麗な言葉を考えてた」 晴紀が、静かな動きで、テーブルの上に小さな箱を置く。 胸が、大きく跳ねる。 「でも、君の前だと、たぶん無理だな」 箱が開く。 やわらかな灯りの下で、石がひとつ、静かに光を返した。 「朱音」 名前を呼ばれる。 その声に、七年前の夜も、病室の白い天井も、社長室の別れも、全部が重なって、それでも今だけは、ちゃんとひとつの場所にたどり着いた気がした。 「嬉しい時だけじゃなくて、しんどい時も。 喧嘩する日も、仕事で潰れそうな日も。 みっともない俺も、強すぎる君も、全部ひっくるめて」 一度だけ、息を吸う。 「これから先を、一緒に生きてほしい」 もう、涙がこぼれていた。 「結婚してほしい」 指先が震える。 言葉にしたいのに、胸の奥の方が先にいっぱいになってしまう。 晴紀は続ける。 たぶん、これを最後まで言うために、ここへ来たのだと分かる声で。 「答えを急がせたいわけじゃない。けど、もう君のいない未来を、正しいって言い聞かせるのは終わりにしたい」 低く、静かな声だった。 「朝、同じ家で目を覚まして、くだらないことで笑って、忙しい日は一緒に疲れて……そういう、当たり前の毎日を、君と生きたい」 その言葉が、胸のいちばん柔らかいところに落ちる。 「……一緒に家に帰ろうか」 その瞬間、私はほんとうに駄目になった。 七年前、ここで失ったはずのものが、まったく違う形で胸に戻ってくる。 待たされた夜。 選ばれなかった夜。 独りで帰った夜。 その全部に、今、答えが置かれた気がした。 「……そんなの」 涙で滲んだ視界の向こうで、彼がじっと私を見ている。 「そんなの……断れるわけ、ないでしょ……」 笑いながら泣くみたいな声になった。 自分でも情けないと思うのに、晴紀はそんな私を見て、泣きそうな顔で笑った。 「……うん」 「うん、って……何それ」 「よかった、って意味」 私は泣きながら、でもちゃんと頷いた。 「……帰ろう」 その一言で、晴紀の表情が崩れた。 救われたみたいに、安堵したみたいに。 七年前の私は、この場所から独りで帰った。 期待したぶんだけ傷ついて、何も持てないまま、俯いて。 でも今は違う。
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