胸に溜まった問いが、ひとつの形にもならないまま、静かに沈んでいった。 その沈黙を断ち切るように、後藤の声が落ちる。「……そんでな。晴坊が大学卒業する頃や、先代が倒れはって。 結局、そのまま後を継ぐ形になったんや」(大学を卒業するとき) (あのレストランでの頃だ) 不意に胸が揺れた。 後藤がほんの少し、目尻を下げた。 懐かしさと、誇りが混ざったような顔。 あの晴坊という呼び名に似合う、柔らかい笑み。「……まあ、あの子が戻ってきてくれて、正直、わしはうれしかったんやけどな。」 その表情に、胸がふっと緩んだ。「難しいことはわからんけど……経営があれでな。あの子、よう苦労しとるみたいや」 素朴な声。 責めるでもなく、分析するでもなく、ただ人として晴紀を案じる言葉。 その響きに、私の心は気づけば前へ傾いていた。「……私……」 言葉が勝手に滑り出る。「私も……清晴堂のこと、なんとかしたいんです。 晴紀さんが背負ってるもの……少しでも、力になれたらって」 口に出た瞬間、血の気が引く。(……なにを言ってるの、私は) (復讐しに来たはずなのに……) 自分の声が、自分のものじゃないみたいだった。 後藤は驚くでもなく、ただ静かに頷いた。 その瞳は、どこか優しく、どこか確かだった。「……あんたがそう思うてくれるなら、清晴堂も変われるかもしれん」 (……まただ) (どうして私は、こんなふうに簡単に揺れてしまうの) 仕事のため。 復讐のため。 そう言い聞かせてきたはずなのに。「変わる……?」「変わらなあかんのや」 後藤の声が、少しだけ低くなる。「先代もよう言うとった。 守るだけやと、伝統はすぐ死ぬ。磨け。変われてな」「え……先代が? でも晴紀さん、伝統とか格調とか……ずっと、こだわってて」「せや。そこがあの子の悪いとこや」 後藤は苦笑した。「晴坊はな、伝統菓子の『美しさ』が好きすぎるんや。 時代に合わせて変わらなあかんと頭ではわかっとる。 せやけど……変えたら大事なもんを失うんやないかって、怖いんやろな。」「……そうなんだ……」 胸の奥で、何かが音を立ててつながった。 新しい清晴堂を作りたいという願いと、ここで聞いた先代の言葉が──一本の線になっていく。(ああ……
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