静寂が、ほんの一拍で張りつめる。 いずみはまばたきもせず、手元の茶器を指でなぞった。「あなたが……判断したの?」「はい。 鬼塚氏と経営企画部長とは意見交換をしましたが—— 最終的に決断したのは、私です」 晴紀はわずかに息を整え、続けた。「季節導線の秋・冬のシーズン企画を含めた、ブランド刷新プロジェクトを……朱音さんに一任します」 会議室の空気が、ひとつ震えた。 いずみの目がかすかに細められる。「……あの人をね。 大丈夫かしら?」「必要だと判断しました」「……誤解されるわよ、いろんな人に」 いずみは淡々と言いながら、ゆっくり椅子の背へ体を預けた。「それは私が対応します」 晴紀は逃げずに告げる。「承認権限は……役員会ではなく、社長直下でお願いします」 空気がさらに冷えた。 いずみの指が、ほんのわずかに止まる。 視線だけを凍らせながら、静かに言葉を落とした。「つまり——私の意見は聞きたくないということ?」「違います。いずみさんの意見は必要です。 ただ——今回の案件はスピードと責任所在が最優先です。 そのために、私が全責任を負う形にしました」 火花が散るような静けさ。 相談役室全体が、いずみの呼吸で動いているようだった。「晴紀さん。 あなた、変わったのね。昔のあなたなら——」「昔なら、逃げていました」 いずみはそこで初めて、ほんのわずかに眉を動かした。「……潔いわね」「変わらなきゃ、会社が持たないからです。 ——清晴堂の未来のためです」 短い沈黙。 銀座の冬の光が、二人の間の空気を細く照らす。「分かったわ」 いずみは穏やかな声で言った。「あなたの好きにしなさい。 ただし——」 茶器を置く。 小さな硬い音。「失敗したら、全部あなたの責任よ。 支援も、人脈も、評判も……私の名前も守れない」 その一語で、晴紀の呼吸が一瞬止まった。 清晴堂の資金の流れ、揺らぐ取引先、その先にある崩落——全部が脳裏をかすめる。 いずみはその沈黙を確かめるように、静かに微笑んだ。「……覚悟しています」 晴紀が立ち上がり、深く一礼し、部屋を出る。 扉が閉まった後、数秒の沈黙。 いずみが指先で茶器に触れた瞬間—— パキン。 陶器の取っ手が折れ、 白い破片が静かに床へ落ちた。 いずみは微笑みを崩さ
Última actualización : 2025-12-20 Leer más