それからは、探すようになった。 朝、少し早く家を出る。 校門の前を見渡して、晴紀の姿を探す。 いなければ歩調を落とし、見つけたら同じ方向へ歩く。「……おはよう」「おう」 それだけ。 話さなくても、追い払われなければ十分だった。 放課後。 いずみは教室に残ったまま、鞄を閉じずに席に座っていた。 ――帰りの迎えは、断った。 ほんの一言で済むことなのに、電話を切るまで、指が少し震えた。 晴紀が立ち上がる。 いずみも、少し遅れて立つ。 何も言わずに、隣に並ぶ。 そのとき、晴紀は一度だけ、何か言いたそうな顔をした。 眉がわずかに動いて、口を開きかけて――やめる。「……帰るん?」 探るような声。「うん」 それだけ答える。 理由は聞かれない。 説明もしない。 並んだまま、廊下を歩いた。*** それが、毎日続いた。 教室で待って、立つタイミングを合わせて、当然のように隣に来る。 最初の頃は、晴紀は少しだけ距離を取って歩いた。 でも、何も言わない。 止めもしない。 しばらくして、 晴紀はもう、何も言わなくなった。 隣に来ても、振り向かない。 いるのが前提みたいに、そのまま歩く。 さらにしばらくしてから、ぽつりと声が落ちた。「今日、部活休みなん?」「うん」「そっか」 それだけ。 会話は短くて、意味もない。 でも、無言ではなくなった。 それからは、帰り道で、当たり前みたいにそんなやり取りが増えた。「小テスト、だるかったな」「ほんま」「英語、意味わからん」「わかる」 特別な話はしない。 でも、話す。 並ぶことも、話すことも、どちらも説明されないまま、日常になっていった。 その日、帰り道の途中で、急に雨が降った。 ぽつり、と大粒の雨が肩に落ちる。「……あ」 足を止めた瞬間、隣で布の擦れる音がした。 黒い傘が、静かに開く。「……入る?」 それだけ言って、晴紀は前を向いたまま、傘をほんの少しだけ傾けた。 ほんの数センチ。 でも、それで肩が濡れなくなる。「……ありがと」「ん」 それだけで終わった。 肩と肩が、ときどき触れる。 歩くたびに、布越しに体温が伝わってくる。 息を吸うと、ちゃんと、胸に空気が入った。(……ああ) そのとき、はっきり思った。 私は、この人の隣
Última actualización : 2026-01-11 Leer más