「それ、うちでは普通やけど」 いずみは、ほんの首を傾けてそう言っただけだった。 通っていたのは、京都でも名の通った私立中学だった。 親の顔で入る子もいれば、 奨学金で必死に席を守っている子もいる。 同じ制服。 でも、世界は同じじゃない。 いずみは、それを知らなかった。 知らないまま、口にしてしまう側だった。「毎朝、迎え来はるし。 制服も、汚れたらすぐ替えが出てくるし」 教室の空気が、一瞬止まる。 言った本人は気づいていない。 自慢している意識がないからだ。「……へえ」 クラスの中心にいた女子が、笑った。 彼女は、特待に近い形で入ってきた子だった。 でも、その笑みは目まで届いていなかった。「神園さんってさ、 やっぱ世界ちゃうよね」 笑い声が起きる。 軽い。冗談みたいに。 いずみは、少しだけ困った顔をした。「え……? そんな大したことやないけど」 それが、決定打だった。(否定しながら、上にいる顔) そう受け取られたことに、いずみは気づかない。*** 変わったのは、その日からだ。 声をかけられることが減り、 輪の中から、自然と外される。 体育のあと、ロッカーを開けると、 体操服が床に落ちていて、少し濡れていた。「……あ、ごめん。踏んだかも」 謝りながら、誰も拾わない。「でも神園さんやし、 また新しいのあるんやろ?」 悪意は、笑顔に包まれていた。(……なんで?) 思い当たるのは、昨日の一言だけ。 でも―― 正論と金持ちは、いじめの最短ルートだった。*** 家に帰って、そのまま話した。 父は新聞から目を上げず、 兄は、紅茶を飲みながら言った。「どうしてほしい」 事務的な声だった。 心配でも、怒りでもない。「相手を潰してほしいのか」 いずみは、言葉に詰まる。「……そんなこと、思ってへん」 父が、静かに紙面をめくる音がした。「なら、いちいち言ってくるな」 兄は視線も向けずに続ける。「お前が浮いているだけや。 神園家の人間なら、それくらい分かるやろ」 正論だった。 どこにも、間違いはない。(……何かしてほしいわけじゃない) 胸の奥で、声にならない言葉が揺れた。(ただ、聞いてほしかった) それだけだった。 でも、そのそれだけが、 この家では一番、不要なも
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