二か月が経った。 清晴堂は——かろうじて生き返りかけていた。 不採算部門は痛みを伴いながらも閉じ、工房の動線が改善され、店舗の原価率が数字で見えるようになった。伝統派の抵抗は想像以上に強かったが、それを押し切ったのは、晴紀と悠斗の執念に近い踏ん張りだった。 (よくここまで……来た) そして、秋企画《希望の赤》も、静かに、でも確実に灯を大きくしていた。 京都と東京を何十回も往復して、職人と五十以上の試作を重ねた。 琥珀糖に果実ジャムを内包し、 さらに中心で林檎の蜜煮の芯を揺らす構造など、 技術的には無理と言われて当然だった。 でも——秋の光をそのまま閉じ込めたような和菓子が、どうしても必要だった。 伝統の技で、洋菓子の果実感と透明の紅葉を三層で重ねる。 それが清晴堂の未来になると思った。だから反対されても、失敗しても、職人と一緒に前へ進んだ。 ある朝、 琥珀糖の外殻が澄み、 その内側で果実ジャムが瑞々しさを保ち、 中心の芯が揺れる―― 三層すべてが狙い通りに噛み合った、その瞬間—— 工房が、静かに沸いた。 その無謀な挑戦の物語ごと、《希望の赤》はSNSで火がつき、マーケティングの核になった。 (これは、いける……はず) でも寝てない。 目の奥が痛い。 二日前なんて、職人に無理やり帰されるまで工房にいた。 ——そして、その朝。 駅の大型ビジョンいっぱいに《希望の赤》が映った瞬間、立ち止まった。 透き通る薄紅の琥珀糖がパリンと割れ、 無花果のジャムと林檎の蜜煮が、光を受けて滲む。 ——ほんの一瞬で、紅葉が散ったみたいだった。 「なにこれ……」 「和菓子でここまでやる?」 「この動画、バズるでしょ」 通勤客が次々スマホを向け、Xではもうタグが立ち上がっていた。 #希望の赤を割ってみた #紅葉を閉じ込めた琥珀糖 ジャムの艶、薄膜の透明感、包丁のパリン。 映像映えが完璧すぎて、火がつく予感がした。 でも、それだけじゃない。 (Dが動いてくれた……) 影でDがインフルエンサー群に種をまき、「清晴堂・老舗の最後の挑戦」という物語ごと拡散させていた。 和菓子の美、職人の執念、老舗の瀬戸際というストーリー—— その全部が重なって、
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