炎上は初動の速さで、二日で沈静化した——リュエールだけじゃない。鬼塚の炬コンサルティング、神園家、清晴堂、ありえない速度で一斉に動いた。 ただ一人、中心にいた私だけが何もできなかった。 会議は外され、仕事は他人へ。周囲だけが忙しく流れ、私の席の周りだけ、時間が止まっていた。(……自分の責任だから、仕方ない) そう思いながらエントランスを出た瞬間、腕をつかまれた。「……朱音」 顔を上げた瞬間、呼吸が止まる。 ——晴紀。 雨上がりの夜気が冷たいのに、 彼の指先だけが熱を持っていた。「話がしたい」「……何しに来たの? あなたがここに来たら、また騒ぎになるの。 ——帰って」 語尾を強くして、はっきり言った。 昔なら絶対に言えなかった言葉。 晴紀は一瞬だけ目を伏せた。「……そうか。ごめん」 そのすぐ謝る癖が、胸の奥をかすかに刺した。 昔は、その素直さが好きだった。 でも今は——自分の脆さを見せられているみたいで、苛立つ。「……ここはまずい。少しだけでいい。 人目につかないところで話させてくれないか」 その声があまりに低くて、 謝っているのに追い詰められているみたいで、 断り切れなかった。 私は短くため息をつき、うなずいた。「……裏の搬入口なら、誰も来ない」 二人で歩く。 夜の湿った空気。 コンクリートの匂い。 足音だけが響く。 人目のない搬入口に着いた瞬間、 晴紀がゆっくりと私の前に立った。「……悪かった。 本当に……言い訳のしようがない」 肩の線が落ちている。 強がりも見栄もなく、 ただ真摯だった。「……あの騒ぎは俺のせいだ。 巻き込んだのは、全部俺の責任だ」 視線が揺れていた。 言い訳しないで謝る——彼の悪い癖。 それがまた、痛かった。(これまで積み上げてきたものが、全部崩れた) (それは……私のせいでもあるけれど) (でも——こんなふうに簡単に謝って、許せると思わないで) 胸の奥に、静かな怒りが広がる。 なのに。(七年前のあの時は……謝らなかったのに。 私たちの記念日の夜、別の女と過ごしたのに。 別れの一言もなく、私の世界から消えて別の女と結婚したのに。 式場で、花嫁に嘲笑われた私を、あなたはただ見て見ぬふりをしたのに…
Última actualización : 2025-12-14 Leer más