บททั้งหมดของ ムラサキの闇と月華迷宮: บทที่ 71 - บทที่ 80

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第二章 二十五の章〜宵闇の花嫁と、春のくちづけ〜

 『あんた知らなかったんだ。陰陽師と式神は、けして結ばれないんだよ』 あたしの脳裏で、花蓮があたしに告げた言葉が響く。 「後で俺、部屋にいくよ」 そう、告げてくれたのに。 闇の中、華やかな結婚の儀が行われるのを背にして、あたしたち陰陽師一行は、家路へと急いだんだ。チラっと後ろを振りかえった時、宵闇に純白の花嫁衣装が浮かびあがって……それは美しく瞳に映った。 「キレイ……」 思わず心が零れる。 花婿の手をとる横顔の輪郭。なんと眩い事でしょう。 篝火の色に染まる、真っ白の花嫁衣装。 パチパチと爆ぜる、薪の燃える音色。 優しく満ちた想いを秘めて、この世で一等しあわせな顔で笑う二人。祝福の歓声と、拍手を耳に刻みながら、あたしは帰路に着いたんだ。 きっとあたしは、あんな風に…… 千年さまと添い遂げることは、できない。 「あたし、自信ないです」 「秋華」 「ごめんなさい」 まっすぐに千年さまの顔が見られなくて、胸が詰まる。あたしはタン! と地面を蹴って、部屋へと足を早めた。ああいう時、どんな顔でどんな言葉を伝えたら良かったんだろうか? 「恋って、わからない」 はー……、化け猫とはいえ武骨すぎるのだ、あたしは。 自分の部屋へと、一目散に戻る。 白い几帳に囲まれた寝所で、ぼんやりと香炉から燻る、白檀の香りに包まれていた。ふと、人の気配を感じて御簾の方に視線を向ける。御簾の向こうに、誰かの影があった。 「あのさ、千年だけど。入ってもいいかな?」 「え、あの……はい!」 どうしよう、緊張する。 御簾をくぐって、千年さまが部屋に入ってきた。晴明さまの屋敷は広いから、式神一人につき一部屋、与えられている。あたしの部屋もけっこう広い、誰かが尋ねてくるなんて滅多にない事だわ。 「その、先刻の事だけどさ」 「先刻、ですか?」 「士道のこと」 「ああ……」 そういえば、おでこにそっ……と口付けされたんだ。 記憶がブワッと一気に甦ってくる。 あたしは部屋の厚畳の上にペタンと座り込む。ゆっくりと、あたしの隣に千年さまが腰を下ろした。 「なんか、驚きました」 「そう、だよな」 しん……と静まりかえる。 春の陽光が、御簾から差し込んで、斜めの美しい光のスジをつくる。あたしの隣に座る千年さまは、金色の髪が
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-09
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第二章 二十六の章〜永遠みたいな口づけを〜

 好きな人と、口づけをした。  その濡れた唇にふれる……。 「ん……」 もう、このまま果ててもいい──── 「ずっと、触れたかった」 「あたしもだよ、千年」 愛おしくて、二度目の唇をかさねる。 ずっと好きだった……。 この世ではもう、報われないって諦めてた。 でも、今触れている千年さまの体温は、本物だ。あたしのモノだよ……。 「離さないで、ください」 「ああ」 「あたし、すぐに不安になるから」 「じゃあ。今日よりこの唇は、俺のモノだ……」 「……んっ」 永遠みたいな口づけ──── 離れがたくて、彼の頬に指を這わせた。 千年さまが、ギュッと強くあたしを抱きしめる。彼の腕の中で瞳を閉じると、他の事すべて忘れられそうだった。陰陽師とか、式神とかどうでもいい! そんな想いが胸を駆けていったの。 今は全部忘れて、この恋に溺れていたい。 この唇の熱さだけが、本物。 しばし二人、時の中で揺蕩っていたの。 ◇ 「は〜……任務いきたくねえ」 あたしの頭に、ほっぺを置いたまま、ぷくーっと千年さまが膨れる。 はー、かわゆ。 「あたしも、行きたくないです」 「だよなあ」 「なれど昨日の婚礼の儀式が、ちゃんと終えられたかどうか、確かめてこい! って、晴明さまが」 「あ〜〜〜〜だよなあああああ」 は〜! と大きなため息をついた。 ぷくぷくと頬を膨らませている千年さまが、あんまり愛しくて。くすくす笑みが零れる。 「もう少し、触れていたかったんだけど」 「そう……ですね」 千年さまに、座ったまま後ろから抱き締められている。 この姿勢もキュンキュンして、こ〜心臓がくすぐったい。 背中がぽっかぽかだわ。彼の温度を背中に感じながら、形のいい頬にやさしく触れるの。 「士道に渡さねーからな」 「ちょっ」 「めっちゃ、ギュッてしとこ!」 「ふぇえええっ……」 もう、ダメですうぅ。 千年さまの頬が、あたしの頬にあたるんですけど。頬が熱を帯びて、息が途切れそうだ……。折りたたんだ足の上に、彼の両手がかぶさる。夢みたいだけど、夢じゃない光景だわ。私は脳裏にフッと浮かんだ不安を、口にしてみる。 「陰陽師と式神は、結ばれない。そう言われましたよね」 「ああ、そうだな」 「じゃあ、この恋は隠さなきゃ」 「そっか、そうだ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-10
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第二章 二十七の章〜糺の森の鴨がかわいいお話〜

「ここが、あの夫婦の屋敷ね」 千年さまと二人、辿り着いた屋敷は思った以上に大きくて立派だった。 「あ、鴨がいます!」  「本当だ。かわいいな〜」 大樹の幹で紡がれた荘厳な門をくぐると、風情のある和庭園に池があった。そこには鴨が二羽、仲睦まじく水の上に、ぷかぷか浮いていたのだ。 二羽はお互いの羽を毛繕いしたり、寄り添いながら泳いだりしている。ほのぼのとした光景はまるで、一服の水墨画のようであった。 「仲良しさんだ〜」  「本当だな。こころ癒されるぜ」  「こういう二人に……なりたいです」  「ああ。俺もだ……」 すると、背後に人の気配があった。  「昨日は、ありがとうございました。どうぞ中へ。お上がり下さいまし」 振りかえると、昨日は花嫁姿であった奥方が、山吹色の春らしい装束でお迎えしてくれた。 「さ、こちらへ」 案内された部屋は、几帳が桜色という珍しい趣向であった。 実に風雅だと感じたわ。鶯の鳴き声が、耳にやさしく響く。 「昨日のお礼は、こちらです」  「ありがとう存じます」  「いえ、無事に婚礼の儀式が挙げられてホッとしましたわ。糺の森は、想い出の地ですから」 奥方からお礼を受けとる。  彼女は、御簾の向こうにある池の鴨に、視線を馳せた。春の風が、頬をやわらかく撫でていく。 「池で遊ぶ、愛らしい鴨たちは、糺の森にいた子たちなのです」  「え、そうなんですか」 そうだったんだ。  奥方さまは、あの地に眠る想い出を聞かせてくれた。 「糺の森に、キレイな小川があるでしょう?」  「ええ、知っています」  糺の森には、澄んだ川が流れている。  樹上から落ちる木漏れ日が、キラキラと宝石のように輝いていて、実は私も一等好きな場所なのだ。 「夏になると夢の如く、蛍が舞うのです」  「わー、それは素敵ですね……!」  「でしょう? 祭の日、お忍びで出かけた所を、偶然あの人に出逢ったのですよ」  それは素敵なお話だったの。  昨日、お会いした春臣さまも一瞬にして恋に堕ちたというのだ。  「あの人、毎夜通ってくれたのですけど。恋の歌とか、私わからなくて」 聞けば彼女はあたしと同じで、武骨な女だという。 彼はそれがわからなくて、毎夜毎夜
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第二章 二十八の章〜夢のような、夏妃〜

 「あたし、友ができました!」  仕事の依頼金を、無事受け取って。千年さまとあたしは帰り道を急ぐことにした。 春の心地よい風が、耳をくすぐる。人の友って初めてだ……! 「なんか嬉しかったです。今度いっしょに、ご飯食べる約束をしたのですよ〜」 「そっか。秋華がニコニコだと、なんか俺もうれしいっ!」 くしゃくしゃくしゃっと、頭を撫でてくれた。 「あたしも……です」 深緑色の川の傍、せせらぎを耳にしながら二人で歩く。屋根のように広がった緑の樹々が、まだらの影を紡いでいた。今日も千年さまは格好いい。 隣を歩いていたら、思わず振りかえってしまうような美しい顔をしていた。 晴明神社までは、もうすぐ。 頬までじんわり赤く染まった顔を、なんとかしなければならない。 「そうだ、走りましょう!」 「へ?」 「猛烈に疾走すれば、顔も紅潮しますもの。照れた顔だって、バレずにすみますよねっ」 「ああ、そ、そうかな」 「あたし先行ってます!」 「ええええええええええええええええっ」 これしか、ない! あたしは驚いて瞳孔かっ開いた千年さまを置いて、地面を強く蹴った。惚れた人置いていくって、どうよ? と自分に突っ込んでみたけれど、全力疾走でもしないと、この頬の赤みは言い訳のしようがないもの。 「俺も負けねえええええええええ!」 「ええええええええええええええええっっ!」 結局、晴明神社までの道を二人、めちゃくちゃ走り抜いた。 抜いたり抜かされたり、負けず嫌いに火がついて、本来の目的を忘れるほどに疾走してしまったんだ。 「はーっはーっ! お、俺が勝ったっ」 「はーっはーっ! ちょっ、手を抜いただけなんで、勘違いしないで下さいっ」 二人して全力疾走したので、ゼイゼイ息を切らせて土の上に座り込んだ。晴明神社の境内には、今は誰もいない。見上げると、澄んだ空。 風もない小春日和だ。 「はあ、キレイ……」 さわやかな蒼天の下。晴明神社に咲き誇るしだれ桜が、はらりはらりと花を舞い降らせていた。すると、誰かが鳥居の向こうから見ているような、なにか視線を感じたの。 「誰?」 「この鳥居さー、くぐれないんだ。結界でも張ってあるのかな〜千年?」 「え……?」 灰色の石造りの鳥居。 その下で、元気にブンブンと手をふる姿がある。 「夏……妃
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-12
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第二章 二十九の蝶〜ふたつの花影〜

 「千年、安心したよー! さ、一緒に行こう」 「夏、妃……」 「この鳥居、全っ然くぐれない。見えない壁でもあるみたいだね〜変なの」 変なのは、この人だ──── 夏妃さんが鳥居の下にたたずみ、何もない空間をドンドンと叩いている。 無論、鳥居の下には何もない。 彼女だけが、透明な壁に阻まれている。晴明神社の中に、入れないのだ。 「本物、なのか?」 「そうさ。会いたかった? 私に」 「俺は、俺だって本当は……っ!」 千年さまの足が、ゆっくりと吸い寄せられていく。 その目は虚ろで、正気を失っているようだ。 嫌な予感がして、心臓が芯から冷える。彼の足が弾みをつけて、ダッと駆け出そうとした瞬間、あたしは叫んだ。 「ダメ、行かないで!」 「えっ」 「その人は、夏妃さんじゃない!」 「なつ……ひ」 あたしは走り出そうとする彼の腕を、両手でギュッと掴んだ。 だって、本能が告げているもの。 背筋が泡立つ、ヒヤリとした感覚。あっちに行ってはいけないんだ! 「あれは人じゃないよ!」 「だって、記憶もそのまま受け継いだんだろう」 「夏妃さんの器が、そこにあるだけだよ!」 「うつわって」 「行っちゃダメ!」 あたしは強い力で動き出そうとする、千年さまの正面にまわる。そうして思いきり、抱きしめた……! 「夏妃さんはね、死んだの! あなたの相棒は、殺されたんだよっ!」 「しゅ、秋華?」 「だから、あたしは此処にいる! 彼女だって、きっと無念だったよ。ずっと一緒にいたかったんだよ!」 「無念って」 「あたしは生きて、彼女の想いを継ぐよ……っ!」 胸からせり上がる、どうしようもない想い あたし知ってる。 彼女もきっと、千年さまが好きだったこと。 ずっとずっと一緒にいたくて、でも志半ばで散ってしまった事も──── それがどんなに無念だったか。 心臓がちぎれるほど、苦しかったか 誰よりもあたしが、痛いほど分かるんだよ……っ! あたしは思わず、彼の着物の襟をつかんだ。 「一緒に戦って、果たしたかった場所まで、行ってみせる!」 「お前……っ」 「だから今はあたしを選んで、千年!」 「しゅう、か」 「お願いだよ……っ、千年……っさま!」 湧き上がる想いを、止められない。 きっとこんな襟首つかむ女の子な
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-13
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第二章 三十の蝶〜夏妃の心臓〜

 もう死んじゃった筈の、千年さまが大好きだった人。 ある日突然、晴明神社まで訪ねてくるなんて、思いもよらなかった。 「千年さまに言えなかった言葉」 ざらついた胸の傷に、引っ掛かっている。 彼女は何を想って、何を伝えられなかったんだろう。 人生の最期に、言えなかった言の葉って、何? あたしを選んで、強い言葉を放った、千年さま。 それは嬉しい筈なのに……。夏妃さんの記憶を宿したまま、帰らなきゃいけない彼女の立場を想うと、あたしは胸が軋んだ。 「あっれ〜人じゃないよね。どうしたの、君?」 明るい声が、夏妃さんの背後から響く。 漆黒の長い髪が、風にサラリと艶めいていた。花萌葱色の狩衣に、白の袴。ああ、士道さまだ! 「どうして、士道さま!?」 「はーい! 晴明さまに用事があって来たんだけど。この子さ〜、ヤバイ子じゃない?」 士道さまは明朗に振る舞っているけれど、その視線は険しい。訝しげに彼女の顔をのぞくと、夏妃さんは目を逸らして、プイッと横を向いた。 「私、帰るよ……」 「夏妃さん」 「私にはもう、会いたくないんだろう」 うつむく彼女の肩は、儚げで。今にも崩れ落ちそうに見える。くるりと背を向けて、立ち去ろうとする彼女の腕を、士道さまがグッと掴んだ。 「待ちなよ」 「え、何?」 「君ってどこまでが、人?」 士道さまが夏妃さんの顎を、クイっと持ち上げる。 それを目にした千年さまは、カッと赤面すると、鳥居の前まで走った。 「おい、やめろ! 夏妃に触れるな!」 「千年くん。だってさ〜」 バッキィィィィ──── 鳥居の前まで駆け出して、勢いよく士道さまを殴った。 「いったぁ」 「見たらわかんだろ! 夏妃は傷ついてる。触れないでくれよ……っ」 「……ふーん」 口の端に、血が滲んでいる。 その雫をぬぐいながら、地面に座った士道さまが、砂をパンとはらって立ち上がった。 「傷つくの、その妖怪。模造品なのに?」 「あんたには、関係のない事でしょう?」 夏妃さんの声が、殺気を孕む。 けれどその瞳は、どこか遠くの何かを馳せていた。士道さまは、尚も歩き出そうとする夏妃さんを、じっと観察している。 「ねえ、千年くん。一部始終聞かせてもらったんだけどさ」 「そうかよ。悪趣味な奴だな」 「甘いよりは、いいと思う
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-14
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第二章 三十一の蝶〜あなたは恋の片割れ〜

 「千年君に頼まなくてもさ。僕が心臓、止めてあげるよ」 「士道さま!?」 「だって残酷じゃないか。別に僕は、彼を苦しめたいわけじゃないし」 静謐な晴明神社の鳥居の下。 士道さまはいつになく真剣な声で、静かに告げる。 「僕はね、薬師なんだ。薬や物理のチカラで悪しき妖怪を退治するのが、僕の仕事だから」 「夏妃は、悪しき妖怪じゃねえよっ」 千年さまが、士道さまに荒々しく掴みかかろうとする。 が、華麗にサッとかわされてしまった。 士道様は「やれやれ」といった表情を見せると、千年さまに向き直る。 「彼女が悪しき妖怪なのか、夏妃って女なのか。もう区別がつかないんじゃない?」 「え?」 「君は、頭では分かっていても未練があるんだよー。自分では、気付いてなくてもさ」 「そんな、こと」 「だから、僕がトドメを刺す」 ゾッとする言の葉──── 千年さまは、一歩後ずさる。 その横をすり抜けて、士道さまはスルリと刀を抜いた。よく晴れた空の陽光が、刃に反射して煌めいている。その切先を、ツイ……と夏妃さんの喉元に向けたのだ。 「姿も心も同じなら、まるで本人であろう。しかも、その事に苦悩するなんて」 「士道さま」 「僕が斬らなければ、誰もきっと斬れやしない……!」 チャキッ……と、刀を構えなおす。 その瞳には覚悟の色があった。 夏妃さんは、自分に向けられた刀を払おうともせず、哀しく笑う。 「千年が決めてくれるなら、いいよ」 「夏妃……」 「どんな選択だって、千年が幸せな方がいいんだ……」 「……そんな、俺には……っ」 千年さまは何かを口にしようとして、言葉に詰まる。どうしようもない想いが今、胸を締めているのかもしれない。そんなスキを突いて、士道さまは刀を振りあげた──── 「だから、迷っている時間なんてないんだっ」 「やめて────っ!!!」 あたしは、夏妃さんをドン! と突き飛ばした。  「なっ」 砂塵を巻きあげて、彼女の前にあたしは立ちはだかったの。 士道さまの刀が、あたし目掛けて振り下ろされる。 キイン──── 「やっぱり、こんなの違うっ!」 士道さまの刀を弾いたのは、千年さまだった。 あたしが斬られる前のギリギリで、彼が割って入ってくれたのだ。千年さま、ありがたい。だってこんな終わりってあんまりだ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-15
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第二章 三十二の蝶〜実らなかった恋にも〜

 夏妃さんの瞳に、迷いはなかった。 「あんたが斬るなら、いいかもしれない」 その一瞬だけ視線が交わる。そうして、あたしの横をすり抜けると青い空に目を馳せた。 「ねえ、千年はもう、死化粧師じゃないの?」  「今は、陰陽師をしています」  「そう……」 夏妃さんは微かに寂しげな表情を浮かべると、ふところから折り畳まれた紙を渡した。 「これ、水鏡さまから」  「え……!」  「手紙だよ。預かってきたのさ」 その白い紙には、何か文字らしきものが綴られてあったの。 受け取ったものの、あたしはしばし途方に暮れる。 「あたし、文字が読めないんです」  「そうなんだ」  「だってあの、化け猫なので」  「そっか、そうだよね。千年に読んでもらいなよ」 ゆっくり振りかえる視線の先に、千年さまが佇んでいた。 「俺が読むよ」  「そうね、それでいいと思うよ」  「行っちゃうのか?」  「……行ってほしくないの……?」  夏妃さんは憂いを帯びた顔で近づくと、千年さまの頬にそっと触れた。 「千年が帰れって、言ったんだよ」  「そうだよな。ご、ごめん……お前の気持ちとか、全然考えなくてさ」 彼女が長い翡翠色の髪を、片耳にかける。  息がかかりそうな距離まで、顔が近づいていく。 そうして言い淀む千年さまの頬を、彼女はほわりと両手で包んだ。え、ちょっ……近すぎない? 「ダメよ、許さないから」 そのまま彼女は、千年さまに口づけをしたの──── 「やだ……っ」  あたしは思わず、呟いた。 夏妃さんは、千年さまの顔を両手で引き寄せる。 そうして、唇をかさねたの。 美しすぎる二人の横顔は、鮮やかな新緑を背景にした絵巻のよう。 どういう……こと?   あたしは今、何を見せられているの。 夏妃さんはわずかに俯くと、彼の唇からそっと離れた──── 「……ごめん、千年」  「え、ちょ、どういう事……っ」 顔が真っ赤だ。  ああ、好きなんだ。  言葉なんか無くたって、あたしには一瞬でわかるよ。  千年さまの心には、彼女への恋の……残り香がある。  恋に揺れる彼の表情が、胸にキシキシ痛い。  なんだろうこれ、あたしには強敵すぎる……っ!  もう死んじゃった彼女なんて、理想の極みすぎるで
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-16
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第二章 三十三の蝶〜言の葉の刃、花の隠り世〜

 「千年くんさー、君。口づけしてたでしょ、夏妃って人と」 「なっ! バッっ! 言うなあああああっ」 絶叫する千年さまを横目に、士道さまは晴明神社の鳥居をくぐり、クルッと華麗に回転する。漆黒の長い髪が、艶やかに揺れていた。 「僕キッチリ見てたんで」 「そうかよ」 「そんな事いう資格って、ないと思うけど〜」 士道さまがバッキバキに、言の葉の刃で切り裂いてくれた。いいぞ、もっとやれ。 確信ついてるわー。 あたしは思わず、千年さまに背中から抱っこされながらも、プクリと頬を膨らませて呟いた。 「その通りだと思います」 「秋華までっ」 「だって、妬いたもの。あたし」 「……うー」 千年さまにとっては、耳に痛い話だったのかも。 彼は唇を噛み締めて、なにか納得いかないような、悔しげな表情であたしをぎゅーっと抱きしめる。 「んっ……。ギュってしすぎです」 「ごめん。なんか……色々、ごめん」 「むぅぅ〜」 スウゥゥゥゥゥッっと息を肺まで吸い込んで、あたしは呟いた。竹林の向こうから、ウグイスがさえずっていた。 「あたし、ちょっと嫌でした」 「うっ」 「千年さまにとって、あたしって何ですか?」 彼の手をほどきながら、あたしはプクリと拗ねてみせる。 頬がじんわりと熱を帯びていた。背中から抱きしめられて、うれしかった思いと。裏腹に、どうにも納得いかないモヤモヤした感情が、胸の奥にズシリと詰まっていた。 純粋に好きだった想いを、スミで真っ黒に塗りつぶされたみたい。 そんなつもりじゃなくたって あたしが好きなら拒否して欲しかったよ。 「あれは、気付いたら唇がふれていて……」 「ふうううううううぅぅぅぅん」 胃の底から、ムクムクムク〜っと爆発しそうな。闇の塊みたいなモノが、迫りあがる。やだな、こんな思いになりたくないのに。あたし、女の友情は信じる派だし。夏妃さんの最後の願いだったのなら、理解してあげたいのに。胸に詰まって、上手に言葉を紡げないよ。 「あたし、焼きもちとか苦手なの」 「そう、なのか」 「うん。夏妃さんの想いも、よく分かるよ。だからこそ、こんな自分も嫌なのっ!」 思わず、竹林の奥へと駆けだした。「秋華っっ!」 背後から、千年さまの声が耳に届く。 でも振りかえらない。 そこには、藤の花の隠れ里へとつづく道。「緋色の
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-17
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第二章 三十四の蝶〜花冠乱舞〜

 「またこの里に来たんだね〜、お姉ちゃん。ちょっと戦ってく?」 「遠慮するわ。あたし、絶望してるから」 「絶望?」 雪華の髪に、白き着物。その帯だけは、あわい薄紫の少女。 あたしの言葉を受けて、キョトンと首を傾げている。 幼さの残るあどけない仕草からは、13歳くらいの年齢を想像させた。 「ここへは、水鏡さまを探しに来たの。ごめんね、放っておいてくれる?」 「水鏡さまって〜。夕月夜が気に入ってる、闇の姫君のことー?」 「たぶん、合ってる」 「夕月夜と一緒にいるから、通せないかな」 雪椿はあたしの前に立ちはだかると、バーンと両手を広げた。にっこりと無邪気な仕草で、通せんぼする。彼女の後ろには、藤の花の大樹。ゆらゆらと風に身を任せていた。 「せっかく、この里に来たんだからさ。夕月夜の過去を見ていきなよ〜」 「夕月夜の、過去?」 「そ! 今から術をかけるね〜」 「え、ちょっ、どういう意味?」 すると、雪椿は右手を大きく振って、峨嵋刺を風車のように回転させる。 そのままタン! と、上空に跳躍 軽やかにクルンと宙返りを決めると、華麗に詠唱した。 「穿て! 花冠乱舞──────っ」 「え?」 雪椿の峨嵋刺から、ブワッと嵐が巻き起こる! 刹那、藤の花びらの吹雪がはらはらと、渦のようにあたしを包んでいく。  「何これ、花びらの渦……っ」 「幽玄の庭で、夕月夜が待ってるよ───」 耳に残る、儚き少女の声。 あたしの視界は、ムラサキの花びらでいっぱいに染まる。 脳が溶けていくような、甘い眠りに誘われて……あたしの意識は、朧になっていく。藤の花の闇に溶けていったの────── ◇ 「もういーかーい」 「もういーよー」 誰か、子どもの声がする。 柔らかな草が、あたしの頬にサヤサヤと触れていた。あたたかな陽射しが背中を染めていく。心地いい微睡みの中で、あたしは瞼をひらいたの。 「ここは楽園、かな……?」 目が覚めると、そこは神社。 鬼ごっこをしている少年少女たちが、笑いながら駆けていく。その中に一人、際立って美麗な少年がいる。10人はいるであろう子ども達の中で、少年だけが神に魅入られたように、美しかった。 「あの子、夕月夜?」 肩まである銀の髪、白磁の肌、夢のように艶
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-18
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