「い、いえいえいえいえ!」 名無しは小さな手をちたぱたと振った。「そこまでご迷惑はかけられません! お水もいただいたし、コア監視員から庇ってくれたし、訳アリなのを聞かないでくれて……。そこまでしたら、わたしが怒られます!」「大丈夫? ひとりで行ける?」「はい、瑞希さん」 こくんと名無しは頷いた。「何故落ちて来たかは聞かないけど、今度は気をつけなきゃ」「はい、ご忠告ありがとうございます、仁さん」 名無しは頷いた。 ふわりと半透明の羽が広がる。コア監視員の羽が蝶に近いのに対し、彼女の羽はトンボに近い。「創造主《クリエイター》の許可が降りましたら、後程お礼に参ります。この度は本当にありがとうございました」 立ち上がり、羽を限界いっぱいまで広げて、ロケット花火のように一瞬で上空まで行く。 そのまま、きらきらした輝きをまとった名無しは、光跡を残して中庭の切り取られたような四角い空から姿を消した。 「何だったんだろうね」「何だったんだろ」 渡良瀬さんとの会話が僕のオウム返しが多いことになりがちだけど、それしか言葉が浮かばないんだからしょうがない。「……でも、一つだけ分かったことあるよ」「何?」 聞かれて、僕は首を竦めた。「あの名前のない子のことを、コア監視員には言っちゃいけないって」「そうね。すごく怯えてたし……。きっと何か事情があるんだわ」「第一コア監視員に見えないって言うんなら、コア監視員の創造主《クリエイター》がやって来て僕たちを調べ始める可能性だってある」 うん、と渡良瀬さんは頷いて、そして首を傾げた。「でも、あの子の創造主《クリエイター》が、コア監視員にも見えない設定にしたのにわたしたちには見えたって調べに来る可能性もなくない?」「あるよ」 僕は首を竦める。「でも、自我を持っていて、判断もできるコア監視員やあの子を創ったような創
Last Updated : 2025-11-24 Read more