All Chapters of 地味なコア一個しか宿らないと思ったらチートみたいでした: Chapter 91 - Chapter 100

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第82話・ラジオ体操第一

 長田先生の担当室で始まったラジオ体操。 しかし、それがすごかった。 ラジオ体操第一を……繰り返し二十回。「一回目。まだです」「八回目、まだまだです」「十三回目、まだまだです、はい」 先生は自分も体操をしているのに、僕をしっかり見ていて、ちょっとでも手を抜くと、CDが終わると同時に容赦なく再生ボタンを押された。「はい、いいでしょう」 ようやくOKをもらえたのは、二十一回目だった。 全身が悲鳴を上げている。 ラジオ体操第一でここまで追い込まれたのは初めてだ。「っひ、膝がガクガク言って……」「はい、限界は見極めなければなりません」 先生はぬぼーっとした顔のまま答えた。「筋肉痛はどうして起こるか知っていますか?」「え? ……運動のし過ぎ?」「はい。運動で筋肉繊維がちぎれます。それが筋肉痛ですが、実は、その間に、身体が成長しているのですよ、はい」「せ、いちょう?」「超回復といい、ちぎれた筋肉が更に強化されて回復するのです、はい。限界を越えなければ成長はないのです、はい」「ラジオ体操第一で、限界って……そりゃ二十一回って半端ない回数やったけど……」「はい。君の追加授業の始めにラジオ体操第一を持ってきたのには、ちゃんと理由があります、はい」 長田先生は僕と同じ回数ラジオ体操第一をやったとは思えない平坦さで、淡々と教えてくれた。「まず、ラジオ体操第一なら、どこででもやれますね、はい。自室でも、教室でも、廊下でも、日本であれば何処でやっていても問題はありません、はい。そして、ラジオ体操は、全身の筋肉を使います。はい。体の歪みも正し、内臓にもいい影響を与えます、はい。本当なら第二までやりたいところですが、はい、第二は運動強度が高いので、多分今の丸岡君の体力では、もたないと思いまして、はい」「……もちません。ていうか……こんな状態で、これから先、訓練、できるんでしょうか……」「後はストレッチをして終わり
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第85話・インチキ

「じゃあ、僕は?」 先生はCDラジカセごと僕に手渡してくれた。「はい。とりあえず土曜日ごとということで一週間。次の経過を見てみたいと思わせたのですから、その期待を裏切らないでください、はい」「ありがとうございま……!」 す、と深々と頭を下げようとして、ジャンプで負担が来ていた膝がかくんと折れた。そのまま座り込もうとする僕を先生がキャッチする。「ちょっと無茶しすぎましたかね。すいません、はい。私の信条には反しますが、ちょっとインチキします、はい」 先生は左手を僕の膝に当てた。何か、掌以外の柔らかい感触。 スッと、膝の負担が遠のいた。「え?」「私の能力は肉体強化、はい、自己治癒力も同じに強化されるのです、はい。それを踏まえて、第三者の蓄積された疲労を治癒する能力も身につけました、はい。つまり、膝の疲れを少しばかり取りました」 先生の左掌には、黒と茶色が混ざったような独特な色のコアがあった。「他者への自己治癒力って……とんでもないレア能力じゃないですか」「なかなか今まで使おうと思う人がいなかったので、はい。それに、私の力は、気休め程度にしかなりません、はい。戻ったらお風呂で存分に筋肉をほぐしてください。でないと明日はつらいです、はい」 先生は手を離した。恐る恐る立ち上がると、膝はかくんとならない。「このコア能力は、黙っていてください。はい。それを目当てに押し掛けられても、対応しきれませんので、はい」「わ……かりました」「では、本日の追加授業はこれで終わりです、はい。復習を忘れずに」「ありがとうございました」 僕は全身ガタガタの身体を引きずって(でも膝だけはマシだった)、長田先生の担当室を後にした。「筋肉痛はひどくなりそうですよー」 担当室を出てからココが言った。「覚悟の上……って言うか覚悟の数段上を行かれたけど、鍛えなきゃいけ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第86話・先輩の話

 日曜日は長田先生が言った通り、全身ガッタガタで動けない程の筋肉痛が来た。ココが気を利かせて食事を部屋に運んでくれなければ、僕は空腹でも部屋から出られずもんどりうってただろう。 そんな時、長田先生から届いたのが、大量のシップだった。 先生が送ってくれただけあって、シップを貼ると、本当に痛みが和らいだ。シップ臭くはあったけど、筋肉痛はすごくマシになって、何とか食事をとれた。  そして月曜日、平日の朝。 僕は早起きして、部屋の中でラジオ体操をした。 出来るだけ大きな動きで、使っている筋肉を意識して、全力で。 何だか気に食わなかったので、七回ほど繰り返した。 確かに長田先生の言うとおり、筋肉痛になる前より体が大きく動いている気がするし、息も切れてくる。体力と筋力を鍛えるにはぴったりだ。 シャワーを浴びて食堂へ行く。 男子寮の食堂はいつも賑やかだった。「おう、ちょうどいいところに」 後ろから声をかけられて振り向いたら、一先輩が親子丼のトレイを持って立っていた。「食いながら話していいか?」「あ、はい」 角の方の、あんまり人が来ない辺りに移動して、先輩と僕は差し向かいで座る。 僕の食事は鮭の塩焼きと味噌汁。ていうか朝一で丼物食べる先輩はすごい。「長田先生に気に入られたようだな」 小声で話す一先輩に、僕は首を傾げた。「気に入られた……って言うのかなあ。正直怒ってたって言ったし、意地悪したって言ってたし……」「その長田先生の意地悪を、ラジオ体操OKが出るまで繰り返したんだろ?」「見てたんですか?」「まさか。俺もやられたんだよ、担当教員の時間で」 先輩は親子丼を五口ほど食べてから、頷く。「俺の時も言ってた。こんなに真面目に体操第一に付き合ってくれた生徒は初めてだって。それで見込みがあるって言われて今でも俺の担当教員なんだ」
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第91話・ラジオ体操第2

 長田先生の担当室で、先生は相変わらずぬぼーっとして待っていた。「はいこんにちは。彼方君も追加授業希望ですね」「ああ」「では、まず最初に。私の指示には従ってもらいます、はい。そして、疑問を口にすることは許しますが、口答えや私の指示以外の行動をすることは認めません、はい。それでいいですか?」「ああ」 ぶすっとした顔のまま彼方は頷いた。「では、ラジオ体操第一と……今日からは第二も始めましょう、はい」 ラジオ体操第二が追加かあ。「はい、もちろん、手抜きだったりした場合は最初からやり直します、はい。例え第二の終わりでも第一の最初からやり直します。筋肉の動いているところを確認して、身体全身を全力で動かしてください、はい。出来ますか?」 最後の質問は彼方に投げかけられた。「やる」「では、始めましょうか」 一週間、一日十回ほど繰り返したラジオ体操第一を、全力でやる。 先生は自分でもやりながら、僕と彼方をしっかり見ている。 CDは止まらず第二を始める。 ……正直、第二はしんどかった。 そして、僕の疲れや躊躇いを見て、先生はまた最初から始める。 彼方はぶすっとした顔のまま、その繰り返しを続けていた。 中学の時から運動でも勉強でも一番だったという彼方は、確かに僕より余裕もあって動きも大きい。「はいまた最初から」 ぶすっとした顔がどんどん深まっている彼方を気にする様子もなく、第一・第二は十五回で終わった。 僕は肩で息をしているし、彼方の息も荒い。「はい今日はこれまで。ストレッチに入ります」「おい待て、ラジオ体操だけで終わるのか」「ストレッチもありますが、はい」「これで本当に効くのか」「ラジオ体操第一を続けた丸岡君の技の威力を見たでしょう」「…………」 彼方は黙り、そして聞いた。「俺にも、効くのか」「効きます。確
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第92話・大海を知ったカエル

「大海を知った気分はどうですか、はい」 長田先生に言われて、筋肉を解しながら彼方は疑問の視線を送った。「はい、君は今まで、中学校という狭い世界で一位でした、はい。しかし、弧亜学園に来たことで、君以上のコア能力者、頭脳、肉体に出会ったはずです、はい。君が直接戦闘したのは、私と丸岡君だけですが、それでも広さを知ったでしょう」「…………」「答えは求めていません、はい。ただ、君以上の力の持ち主は大勢いて、越えるには努力が必要だということを思い知ったことだと思います、はい。それを忘れなければ、君は、きっと」 小さく、本当に小さくだけど、彼方は頷いた。「へえー。丸岡さんの言った通りになりましたねー」 練習中は黙って見ているココが口を挟んできた。 彼方に聞こえてたら多分切れてるだろうなあ。 しっかり身体を解し終わって、先生はパン、と手を叩いた。「はい、では、暇のある時間に、ラジオ体操第一と第二を、自分の納得できる動きができるまで繰り返してください、はい」 彼方はほとんど何も言わず、先生に渡されたCDを持って帰った。「彼も、目が覚めたようですねえ、はい」 先に帰る彼方の後姿を見送って、ぬぼーっと先生は言った。「君は風紀委員ですから、はい、場合によってはコア戦闘をしなければならない立場です。その分実践は多くなりますが、彼方君は基礎能力が高い、はい。一週間の差など、すぐに追い抜くでしょう。はい、君も真剣にならないと、彼方君に追い越されますね」「頑張ります」 僕も真剣に言った。「頑張って、体鍛えて、自分に自信を持てるくらいになります。ですから先生、どうか、これからもよろしくお願いします」「はい。ちゃんと真面目に課題をこなす生徒には、私も全力を持って返します。君は、ついてこれるように基礎体力と筋力を鍛えてください」「はいっ!」  追加授業を終えて、寮に戻ろうとすると、誰もいないグラウンドを
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第93話・教員会議

 第二・第四金曜日は、教員会議と言うのがあるらしい。 学園長・教師・教員が揃って、学生の成長などを話し合うってことだけど、とりあえず今の僕には関係ない。 会議のため授業は少し早く終わるので、僕はラジオ体操に精を出すことにした。     ◇     ◇     ◇     ◇ 職員棟。 教員会議は、一年生から三年生まで、それぞれ第一~第三会議室で行われる。 生徒一人一人について話し合い、学園長が来たらその報告をする。 第一会議室、一年生担当の会議室。「彼方壮はどうでしょうね」「随分変わったと思いますね、はい」 長田直治体育教師が答える。「はい、私の追加授業を、文句も言わずにやっています。和多利先生の指導も効いたのではないでしょうか、はい」「いや、それは私の指導ではない」 和多利和豊生徒指導・彼方壮担当教員が首を振る。「私の頼みに快諾してくれた丸岡君と渡良瀬君のおかげだ」「コア戦闘で勝ったんですよねえ」 渡良瀬瑞希担当教員の阿古屋開の言葉に、和多利は頷く。「コア能力としてはコピー相手とほぼ同じ。しかし、初めて使う能力でもある程度以上コアの制御ができる。全力解放しかできない彼方との戦闘で勝つのは当然」「三年の空木に、天野と協力して勝ったのもありますね、はい」「話は彼方君とはずれるが、丸岡君は、コア戦闘に関しては、かなりの素質があると思う」 和多利は断言した。「使ったことのない力を使いこなし、相手と同等のコア能力を制御によってそれ以上の効果を出す。丸岡君は、彼方君と同等あるいはそれ以上の可能性がある、と私は判断している」「和多利先生がそこまで言いますか」「言えるだけの可能性が彼にはある」 和多利の断言に、教師・教員陣が頷いた。「残念ですねえ。コピーではなく、何か攻撃的なコア能力を持っていれば、戦闘的には最強ランクになっていたのになあ」「あ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第94話・学園長

「全くその通り」 丸岡仁担当の御影秀敏が頷いた。「決して体力的に優れているわけではない。だが、それを補うだけの努力とセンスがある。長田先生のトレーニングを受けて体力と筋力を手に入れれば、かなり強いコア能力者となるだろう。それだけの将来性はあると思う」「御影先生がそこまで言いますか」「あの能力であそこまでの才能があれば、万能の天才となるだろう」「それだけではないわ」 突然入った女性の声に、一同の視線がそちらを向く。「学園長!」 若い女性……美丘千鶴学園長がやって来たのだ。「学園長、どうぞ」 美丘千鶴は上座に座り、一年生担当の教師・教員を見回す。「学園の為になりそうな生徒は、誰だと思うかしら?」「かなり様々な生徒がいます。他者への鎮静化を成せる渡良瀬、コア能力と戦闘センスを兼ね備えた彼方、しかし……」 和多利が断言した。「学園の為になる、と言えば、コアのレア度と戦闘センス、そして努力家である丸岡仁でしょうね」「でしょう」 美丘は微笑んで頷いた。「コア能力のコピーという能力は、恐らく世界でも唯一ね」「精神面がいささか弱いのが気にはなりますが、努力で乗り越えられるレベルであると思います」「ええ、ええ」 学園長は嬉しそうに頷く。「学園長は入試の時点から彼に目をつけていたようですが」「入試前に偶然見かけてね」 美丘は足を組んで教師を見回した。「彼方君と揉めているところを見たので、止めようとしたのだけれど。恐らくはその時初めてコア能力に目覚めたんでしょう。自分では気付いてなかったようだし」「だから入試の時、彼にコア攻撃をしろと」 試験官でもあった和多利が納得したように頷いた。あの時、何のコアの力も発揮していなかった受験生に水での攻撃を指示したのはは判定役の彼女だった。そして受験生はそれに反応して、水で攻撃した試験官の一人と同じコアの色を宿し、反射的に攻撃したのだ。
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第95話・努力する

 どんどんどん! 部屋のドアが激しく叩かれて、ラジオ体操中の僕の動きが止まった。「ココ、誰?」 「彼方さんですー。どうしますかー?」 僕は考えたけど、断るという選択肢はなかった。 確かに怖い相手ではあるけれど、同じ追加授業を受けているんだし、今の彼ならいきなり攻撃してくることもないだろうし。 ドアを開ける。 相変わらずぶすっとした顔の彼方の姿があった。「どうしたの?」「ラジオ体操の途中か」「そう、だけど」「見せてもらっていいか」「へ?」 きょとん、とした僕に、彼方は苛立ったように言う。「お前の合格点をもらったラジオ体操がどんなか、見せてくれって言うんだよ」 ああ、そう言うこと。「別にいいけど……」 彼方はずかずか入ってくると、どん、と机の上に何かを置いた。「何それ」「プロテイン」 更にきょとん、とした僕に、彼方は苛立ったように言った。「筋肉作るには必要なものなんだよ!」「あ、ああ」 それは僕も知っているので、頷いた。「持ってきてくれたの?」「いるだろが」「あ、ありがとう」「ラジオ体操を見せろ」 相変わらず単刀直入と言うかぶっきらぼうと言うか。 僕はCDを再生した。 ラジオ体操第一の音楽が流れ始める。 毎日続けることによって、この音楽を聴くだけで体が動く準備を始める。 僕は全力でラジオ体操を始めた。 まず背筋を伸ばし、次に屈伸。 出来る限り最大の力で体を動かす。 第二は息が切れてくるけど、それでも真面目に音楽をなぞる。 全力で動かして、納得できる運動を。 一つでも気に入らない動きがあれば、CDが終わったのと同時にもう一度再生ボタンを押してやり直す。 はっ、はっ、はっ、はっ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第97話・拾ったのは

「大丈夫?」 覗き込んでいる僕と渡良瀬さんに気付いて、小さな生き物はびくりと怯えた顔をした。「あ、なた、だれ? わたし……」「君は空をふらふら飛んで落ちてきたんだよ」「わたし、でも、そんな……」「何してるんですか?」 ココの声が聞こえた。 思わず僕は両掌で覆うように謎の生物を隠した。「ミャル? 今までどこ行ってたの?」 ミャルって言うのは確か渡良瀬さんのコア監視員の名前。二人そろって同時に戻ってきたんだろうか。 掌の中で小刻みに震える生き物を隠してココを見上げる。 もう一つおかしいことに気付いたのだ。「ココ、聞きたいんだけど」「何ですかー?」「コア監視員は離れていても僕のやってることとか把握してるんだよね」「その為のコア監視員ですからー」「なら」 何でこのコア生物らしき生き物がいるのに今の今まで出てこなかったの? それ聞こうか聞くまいか悩む僕の、貝のような掌に気付いたんだろう。ココはひらひらと飛んで行った。「何隠してるんですかー?」「あ、いや、これは」 ココはひらひらと飛んで僕の掌の中を覗き込む。「なーにーをかくしているのかなー?」 歌うように言って、僕の指の隙間から中を覗き込む。「何だ、何もないじゃないですかー」「???」 思わず渡良瀬さんと顔を見合わせた。「ミャル」 渡良瀬さんもコア監視員に声をかけている。渡良瀬さんの視線が空から僕の掌に移動し、何も感じないがコア監視員が覗き込んだらしい。渡良瀬さんに視線で問いかけると、渡良瀬さんは小さく頷いた。 恐らくは、渡良瀬さんのコア監視員にもこの掌の中身が見えていないんだ。「まー、でも、私はできたコア監視員ですからー。お二人でいる時は席を外させてもらいますよー。忙しい日常の幸福な一時をお邪魔しちゃいけませんからねー」「お、おい、
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第98話・名無しの監視員

 ココや渡良瀬さんのコア監視員が消えた。 もし今掌の中にいる彼女がコア監視員なら、彼女たちが姿を消すはずがない。コア監視員が弱っているなんて知ったら、絶対全コア監視員に伝わり、会った事もないコア生物の創造主が駆けつけてくるだろうから。 でも、創造主どころかコア監視員すら現れない。「えーと」 僕は持ってたスポーツドリンクのペットボトルの上に彼女を座らせて、視線を合わせた。「君は、何者なんだい?」 だけど、コア監視員にしか見えないその生き物は、おどおどと僕と渡良瀬さんと交互に見るばかり。「ダメだよ、丸岡くん」 降ってきた声に顔をあげると、渡良瀬さんは首を横に振っていた。「名前を聞く時はこっちが最初に名乗らないと」 言って、僕の隣にしゃがんで謎の生物に視線を合わせた。「私は弧亜学園一年の渡良瀬瑞希。こっちは丸岡仁くんね。あなたのお名前はなんて言うの?」「ない、です」「ナイって名前?」「違います。名前は、ありません」 名無し? 確かにコア監視員は生まれた時には名前を与えられない。監視対象につけられて初めて名を名乗る。てことは……。「あなたはコア監視員なの?」「い、いいえ、違います。わたしは……」 怯えたように言って、辺りを見回す。「あなたがたには、わたしが、見えるんですか?」 僕と渡良瀬さんは顔を見合わせた。「君が空から落っこちてきたところから見えてた」「私は丸岡くんが見上げた先を見たら、見えたわ」「ど、どうして……誰にも見えないはずなのに……わたしはコア監視員にも感知されないようにしたって言われてるのに……どうして……」 小さな目に光るものが浮かぶ。「僕たちには見えたけど、コア監視員には見えてなかった……?」「そうね、あのお節介でおしゃべり好きで世話焼きのコア監視員が、こんな状況になってるのに出てこないわけ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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