冬の夜の山門は、息をするたびに自分の存在を白く目に見える形にしてきた。吐いた息がすぐに凍りつきそうな空気の中、石畳に立つ隆寛の耳を、風が容赦なく刺してくる。僧衣の下に厚手の下着を重ねていても、足首から這い上がってくる冷えは誤魔化せない。境内はとっくに暗くなり、本堂の灯りも落とされている。庫裏の窓から漏れてくる明かりだけが、寺の中にまだ生活があることを示していた。山門の外側の道路には、街灯が一つ。白い光が、山門の木の枠の内側に長方形の窓のような影を落としている。エンジン音が近づく気配がした。街灯の向こうから、ヘッドライトの光が現れる。低い車体がゆっくりと近づき、山門の前で止まった。光が消えて、闇が戻る。運転席から降りてきた長身の影が、門の影をくぐる。「寒くねえのか」浩人が、息を白くしながら眉を寄せた。「寒い」即答すると、相手の口元に笑みが浮かぶ。「だったら、もうちょっと庫裏寄りで待っとけよ。山門で待ち伏せる必要はねえだろ」「ここまで出るのが、けじめだろ」「けじめねえ」浩人は、小さく笑って首を振った。吐く息が二つ、重なって、すぐに透明に溶ける。「ただいま、って言いたくなるな」ぽつりと漏らされた言葉に、隆寛は目を瞬いた。「ここで?」「山門が玄関みたいなもんだろ」冗談めかして言いながらも、その声には、どこか住み慣れた場所に戻ってきたような安堵が滲んでいた。「…行くか」隆寛は、首をすくめるようにしてうなずいた。凍えて固まった足を一歩前に出す。石畳を離れ、山門をくぐり抜けると、外の空気の冷たさがいっそう鋭く感じられる。車のドアを開けると、暖房の残り香のような温かい空気が頬を撫でた。乗り込んでドアを閉めると、外の静寂が、ガラス一枚で遮断される。「ほら」浩人が、センターコンソールのドリンクホルダーから、温かい缶コーヒーを一本差し出してきた。「さっき買ったやつ。多分ぬるくなってるけど」
Last Updated : 2026-02-06 Read more