涙で滲んだ視界の奥で、ほどかれた絹の帯が静かに床へ落ちていくのが見えた。その動きはやけにゆっくりで、現実というよりも水の中で何かが沈んでいくような、曖昧で遠い光景に感じられる。自分の身体の一部が、音もなく切り離されていく―――そんな錯覚すら覚えた。男の手が迷いなく腰紐へと伸び、結び目を解く。わずかに開いた前合わせの隙間から、冷たい空気が忍び込むように肌へ触れた瞬間、背筋に細い電流のようなものが走った。……なに?ぞくり、と震えたその感覚は、寒さとはまるで違う。むしろ内側からじわじわと広がってくる異様な熱と混ざり合い、説明のつかない違和感がある。……体が、おかしい。なに、これ。心臓がうるさい。早鐘のように打ち続け、胸の奥から何かを押し上げてくる。呼吸がうまくできない。空気は喉の奥で粘つくように絡みつき、吸うたびに頭がぼんやりしてくる。頭はぼんやりするけれど、体の感覚は妙に敏感になっている。さっきまでただの布だったはずの襦袢が、肌に触れるたびに過剰な刺激へと変わる。「んっ」思わず漏れた声に、自分で驚いた。確かに自分の喉から出たはずなのに、その響きはまるで他人のもののように遠く、耳の奥で歪んで反響する。「やだっ」そう言ったはずなのに、言葉は弱く、意味を持たないまま空気に溶けていく。解けた髪が首筋に触れる。そのわずかな接触が、神経を直接撫でられたかのように鋭く響き、背中を跳ねさせる。くすぐったさとは違う、逃げ場のない刺激。思考がまとまらない。何かがおかしいと分かっているのに、それを止める手段がどこにもない。空気そのものが重く、湿り気を帯びて肌にまとわりつく。自分の身体が、自分のものではなくなっていくような感覚。それは恐怖よりも、もっとこう、喪失……失われていく感じ。境界が崩れていく感じ。自分という輪郭が曖昧になり、どこからが自分でどこからが外なのか分からなくなる。「薬が効いてきただけだ、怖がることはない」男の声は穏やかで、まるで当然の現象を説明しているかのようだった。その言葉を理解した瞬間、胃の奥が氷のように冷たくなる。これは自分の変化ではない。でも、この男によって変えられている。私の意志とは無関係に、おそらくこの男の望むように……いやだ、気持ち悪い。皮膚の上を撫でる空気さえ、ぬめりを持った異物のように感じられ、触れられるたびに拒絶と
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