シャワーを浴び終えて脱衣所へ戻ると、そこには蓮司さんの言っていた“小細工”の成果がしっかり用意されていた。壁のフックに掛けられたハンガー。その先に揺れているのは、深い青紫色のワンピース。夜を閉じ込めたみたいな色合い。派手ではないのに目を引く、不思議な上品さがある。生地は柔らかそうで、光を受けるたびにわずかに艶めいた。触れる前から、きっと着心地がいいのだろうと分かる。そして……。その下には、きちんと新しい下着まで揃えられていた。しかも見覚えのないもの。つまり、今日のために用意してくれたということだ。……これも、蓮司さんが?思わず頬が熱くなる。だってサイズ。どうやって把握していたのだろう。いや、夫婦なのだから不思議ではないのかもしれない。でも、そういう問題ではなくて。こういうものを選びに行った蓮司さんを想像してしまって、落ち着かない。店員さんに相談したのか。それとも、一人で真剣に選んだのか。後者だったら、なんだか……着たときの私を想像、したりしたのかな。.私はそっとワンピースを手に取った。想像通りさらりとした生地が指先を滑る。鏡越しに自分へ合わせてみると、落ち着いた色なのに顔色を綺麗に見せてくれそうだった。きっと、私の好みを考えて選んでくれたのだろう。そう思うと、胸の奥がじんわり温かくなる。恋人時間だと言いながら、こういうところはとても“夫”らしい。私の好みも、体調も、全部知った上で気を回してくれる。なんだかそれが嬉しくて、少し照れ臭い。着替えを済ませると、いつもより少しだけ丁寧に髪を整えた。いつも淡めの化粧を、少しだけ濃くする。鏡に映る自分は、普段よりほんの少しだけ大人っぽく見えた。いや、服と場所の雰囲気に騙されているだけかもしれない。それでも、悪くない気分だった。.しばらくすると、浴室の扉が開く音がした。蓮司さんが出てくる。私は思わず視線を向け――そして、息を止めた。きっちりとジャケットを着こなした姿が、反則みたいに格好良かった。濡れた髪を軽くかき上げながらこちらを見る仕草さえ絵になる。シャワー上がりなのに、もう乱れた感じがない。むしろ、いつもより少しだけ肩の力が抜けていて、その自然体な色気がずるい。「どうした?」見つめすぎていたのか、蓮司さんが小さく笑った。「……いえ」格好いいです、とは恥ずかしくて言えない。
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