美術館は、いつもより華やいでいた。あまり広くないエントランスには所狭しと、上方向まで使って花が飾られている。その脇を、招待客が行き交うのだが、その豪華な顔ぶれに館長を始めとしたスタッフの顔が蒼褪めている。招待客のほうは、慣れたもので穏やかに歓談をする。騒めきは穏やかで、フラッシュの光が時折瞬いていた。「誠司、一人で歩く」胸を張った誠司の言葉に、蓮司さんが笑いながらその手を離す。その手が寂しそうだったから、私は抱いていた茉白を蓮司さんに渡した。「あー」「そうだ、パパだぞ」パパって感じではなかった気がするけれど、茉白の言葉は私と蓮司さんでは違って聞こえるらしい。「この柱、すごい」誠司が歓声を上げて、入口横の柱に走っていってしまった。子どもがいると目的地までが遠いけれど、大人にはない発見をするから面白い。いまは大理石の柱に夢中だ。「つるつる。ママ、見て、オジーサマさんの頭みたいに光ってる」「くふっ」……苦しい。ここは耐えなければいけないのに、笑いを耐えるのが苦しい。蓮司さん……も、必死に顔を背けて笑うのを堪えている。 .誠司の言う「オジーサマさん」は、私の実父である花嶺辰治さんのこと。私にとってはとっくに縁が切れた人だけれど、あちらは生活の支援を求めてときどき私の前に姿を現す。私は彼を誠司に会わせる気は一切なかったのだけれど、誠司と出先から帰ってきたとき、蓮司さんとのときみたいに家の前で待ち伏せしていて、門が開くまでの隙を突かれて窓ガラスのあのときみたいに叩かれた。私は誠司を守るように抱き寄せたけれど、誠司も私を守ろうとしてくれて、常に携帯している防犯ブザーを訓練通りに鳴らした。慌てたのは防犯ブザーを鳴らされた彼のほうで、必死に「おじい様」だと外から叫んだ。しかし、防犯ブザー
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