父さんは応接室の中を見て、驚いた顔をしている花嶺辰治と玲子夫人を一瞥したあと。「大した用事じゃなさそうだから、いいよね」……堂々と言い放ったよ。しかも笑顔で……笑顔で毒を吐くからこの人は怖い。父さんにとっては軽口のつもりなのだろうが、言われた側はたまったものではないだろう。実際、花嶺辰治の顔がぴくりと引きつった。けれど父さんは全く気にしていない。気づいていて、なお気にしていない。桐谷家の人間は基本的に身内に甘いが、身内を傷つける相手にはとことん冷たい。「桔梗ちゃん、ちょっといいかな?」呼び出したのは俺ではなく桔梗……もしかして菓子のおねだりか?それも父さんらしいが……いまはちょっと、そういうタイミングではない。おねだりならタイミングを見てもらいたい。いや、父さんにタイミングという概念を期待するほうが間違いか。「少し失礼します」桔梗は花嶺辰治たちに軽く頭を下げてから、父さんに呼ばれるまま廊下へ出ていく。その後ろ姿を見て花嶺辰治の目が揺れた。惜しいものを逃したとでも言いたげな目だった。……その視線だけで腹が立つ。桔梗は物ではない。便利に使える駒でも、都合よく尻拭いしてくれる存在でもない。俺の大切な妻だ―――世界で一番大切な女だ。その背中を、これ以上あんな目で見るなと本気で思う。.「私が選んでいいのですか?」「桔梗ちゃんにはその資格があるでしょう?」「そう……でしょうか」廊下から聞こえてきた会話に、何をしているのか気になって俺も出る。すると父さんがなぜか得意げに紙を広げていた。「……なにしているんだ?」父さんの手にある紙を見て俺は眉を寄せた。そこに描かれていたのは、ある意味で日本人なら誰でも知っている図形。「あれ、あみだくじを知らないの?」「知っているに決まっているだろ」問題はそこじゃない。なぜこの状況であみだくじが出てくる。「悪いね。今回は桔梗ちゃんに選んでほしいんだ。蓮司は次回にね」なんで俺が選びたがっていると思っているんだ?しかも“次回”ってなんだ、定期開催する気か?「いや、全く構わないから」「そう? 桔梗ちゃん、気を取り直して選んで。どこがいい?」桔梗は困ったように笑いながら、それでも律儀に紙を覗き込む。「また誠司とお出かけですか?」そう言いながら右端を指差した。父さんは「ありがとう」と満
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