Semua Bab 知らないまま、愛してた: Bab 181 - Bab 190

224 Bab

136

「四連花の五枚目……それを、写真とともに盗んだのが、白洲典正と考えているのですね」心理的に重い時間を過ごして、戻ってきた石川先生から全ての説明を聞いた。ここでようやく、一息がつけた。「なぜ、四連花は無事だったのです?」「偶然だが、そのとき四連花は他国の美術館で展示されることになっていて、通関だか何だかの手続きで僕の手元にはなかったんだ」なるほど……。「石川先生は五枚目を公開するつもりはなかったから、アパルトマンにあったのですね」「そうだ。その泥棒が、白洲典正なら、写真を持っていてもおかしくないし、おそらく絵も白洲典正が持っているだろう」確率は高いが、あくまでも確率。これでは、警察は動いてはくれないだろう。「そこで考えたんだが……桔梗さん、君の絵を描かせてくれないだろうか」え?「私?」え?「嫌です! 困ります……そんな、恥ずかしい……」あんな格好の絵を?その、モデルに?私が?「そ、そうか……蓮司君の説得には骨が折れると思ったし、実際にかなり骨が折れたのだが……」それって……。「蓮司さんは、私の、その……」……えっと、美術用語で……そうっ!「裸婦画に、裸婦画なのに、蓮司さんは賛成したってことですか?」「……ラフ?」詰め寄ると、蓮司さんが『?』という顔をした。そして、ハッと何かに気づいた顔をする。一緒に、石川先生も。……本当に、この二人って、似ているわね!「違う、誤解だ
Baca selengkapnya

137

「石川先生」ずっと黙っていた蓮司さんが、不意に口を開いた。「どうしたんだい?」そんな蓮司さんの声に、何かを感じたのだろう、石川先生がどうしたのか尋ねる。「自分の絵の価値を守るため、六枚目を破壊しようとするのでは?」「それは、可能性があるだろうね」石川先生は頷いた。あっさりとした肯定に、驚いてしまう。「彼は五枚目に執着している。絵に描かれた女の時間を、あの一瞬を永遠に閉じ込めたつもりでいる。だから、更新を許さないだろう」石川先生は、ニッコリ笑う。「でも、自分が六枚目を手に入れられるなら別の話だろう」「六枚目を、手に入れる?」「六枚目はオークションにかける。文化の国外への流出を防ぐという理由付けをすれば、落札は現地でのみ、あと参加者を日本国籍の者に限定して行うことくらいできる」「現地で、ということは事実上の渡航制限が出ている白洲典正は参加できません」「だから、条件を提示して、白洲が条件を満たした場合は日本への渡航を認めてあげればいい」「条件?」「五枚目を持ってくること。先に、吉川凛花さんが持ってきたこの写真を使い、白洲に僕の絵を持っているんじゃないかと問い合わせてみる」「当然、否定しますね」「そうだね。でも、否定されても構わないんだ。僕がそう思っていることを白洲に教えればいい」その状況で、新たな六枚目の公開。でも、白洲典正には渡航制限が出ている。オークションに参加できない。六枚目を見ることもできない。「ここで僕が囁けばいい。桐谷家に口利きをしてあげる、とね。僕と桔梗さんが懇意にしていることは有名な話だから、信じるだろう」「その条件が、五枚目……持ってきますか?」「持ってくるよ、絶対にね。六枚目に、公開前にプライベートで対面することを許可する……それをつければ、必ず持ってくるだろう」蓮司さんが眉を寄せた
Baca selengkapnya

138

閉館後の美術館は、昼間とはまるで別の建物だった。「桐谷蓮司様ですね」影になった部分から、美術館の制服を着たスタッフが滑り出てくる。「どうぞ、こちらへ」外で待つという護衛たちとは入口で別れ、スタッフの案内で建物の西翼に向かった。「お連れ様は中でお待ちです。ここからは、お一人でお進みください」スタッフは、音もなくまた影に沈んだ。俺以外の人の気配が消えた途端、美術館の無機質な空間は息を潜めたように、緊張感のある雰囲気が漂いはじめる。いや、緊張しているのは俺か。 ギッ重い扉を開けると、蝶番の軋む音がした。一歩踏み出すと、静まり返った空間に革靴の重い靴音だけが響いた。靴の重さを意識しながら先に進むと、思わず足が止まった。ガラス扉の向こうで、照明を落とした展示室の入口が、夜の水面から見えるように、暗く沈んで見えた。胸の奥が、わずかに鳴った。――いた。暗い水の中で、咲いている花のようだ。桔梗の僅かな動きに合わせて、ふわりとドレスの裾がひらめく。花のようかと思ったが、長い鰭をもった魚のようだ。ガラス扉が、水槽の壁のように見えるからか。まるで生きもののように、淡い生成りのドレスはひらひらと舞う。それは、華やかというより静かなもの。煌めきも、装飾品の派手さもないのに、桔梗はきらきらしている。化粧は、シンプル。髪もまとめただけ。その最小限の装いが、これほどまでに“美”を際立てるとは。自分の美しさを、桔梗は分かっているのだろうか。俯いていた桔梗が視線を上げた瞬間、俺と目が合った。 カツンッ桔梗のヒールが床を叩いた音が、ガラスの扉越しに聞こえた。ガラス扉を開けると、空気がまた変わる。ほんのりと、熟成された果実のような、深みと奥行きのある上品な香り。深く吸い込む
Baca selengkapnya

139

四枚の絵の前をゆっくりと歩く。桔梗とは、歩幅を合わす必要はもうない。互いに一定の距離を保ったまま、自然に同じ速度になっている。俺たちの間に、会話はない。でも、沈黙は重くない。空気を共有しながら、俺たちは部屋の端についた。扉はない。ただ、次の部屋への入口が開いている。どうぞ、と誘うような開き方ではない。ぽっかりと、突き落とすような開き方で、自然と緊張が積もる。喉ぼとけを一度上下させて、一歩踏み出す。続きの部屋は、何もない。照明が落ち、ただ通路だけが続いている。隣の桔梗が、わずかに息を潜めた。「……ここ、やっぱり変ですね」俺の腕を桔梗が軽く引っ張る。止まってほしいという合図に足を止めると、腕に桔梗の重みがかかる。桔梗を見ると、訝し気に自分のハイヒールの靴の裏を見ていた。気持ちは分かる。俺も、足の裏の感触に違和感がある。「変なものを踏んだような感覚がします」「わざとだろうな」特殊な床材なのか、足音が吸われる。壁も床も暗く、距離感が曖昧になっていく。さっきまで見ていた四連花が、その部屋が遠くにいく。あれが、急に“過去”になった気がした。「ここが、五枚目の場所、なんでしょうね」「だろうな」歩いた感覚はなくても、歩いている。一歩踏み出せば、視線の先にあった仄かな照明は、俺の後ろに流れていく。俺の腕を掴む桔梗の手に、力が籠った。「怖いか?」「……少し……多分、ここにいる母が、私には理解できないからだと思います」「やはり、浮気していたことが……引っかかるか?」「そうではなく……私にとって、母は母なので、女の部分に違和感を感じてしまうのです」……女の部分、か。なるほど……俺がいま感じているこの忌避感めいたのは、桔
Baca selengkapnya

140

夢心地のまま美術館を出ると、夜の街の喧騒に包まれた。でも、俺はその音を感じられなかった。感じるのは、繋いでいる桔梗の手だけ。美術館スタッフから、うちの者が預けていた車の鍵を受け取り、エントランスに停められていた車まで桔梗をエスコートする。桔梗はまだ夢心地なのか、足取りはしっかりしているものの、俺の後をついてきているだけの感は否めなかった。 バタンッ車のドアが閉める音が、やけに大きく聞こえた。俺は、助手席に座らせた桔梗を見る。白いふわふわしたスカートが桔梗を包み込んでいるからか、白い大きな花束のようだ。運転席に座ると、俺は桔梗を見る。桔梗も、俺を見ていた。でも、まだ夢心地。どこか現実から半歩だけ遠いような、ふわふわとした顔をしている。「……帰るか?」言いながら、自分の声が少し低いことに気づく。質問しておきながら、桔梗の答えを求めていないことに気づく。いや、違う。桔梗の答えが分かっているから、聞けた。ふわふわとした顔の中に、熟成された女の色香があったから。「……帰りたく、ないです」桔梗の声は、小さかった。でも迷いはなかった。行き先は、決まった。車のエンジンをかける。体を揺らす重低音に、助手席の桔梗がビクッと震えたのを感じる。でも、それには触れない。サイドブレーキを解除して、アクセルペダルを踏んで、ハンドルを切る。いつもと同じ流れ。でも、今この瞬間だけは絶対にミスできないという緊張感で、手順を確認しながら車を発進させる。車は走り出す。自宅とは逆方向へ。桔梗は何も聞かなかった。どこへ行くのかも。理由が、分かったからだろう。静かに、助手席に座っている。でも、桔梗から漂う緊張感。心臓の音が聞こえてきそうだ。でも、それを指摘しない。揶揄うなど、もってのほか。この絶妙なバランスの上で成り立っている雰囲気は、些細な言葉で壊れてしまいそうだった。   *  「……ここ……」目的地が分かったところで、桔梗がか細い声をあげた。その声に、恐怖を感じ取ったが、俺は必死で気づかない振りをする。ここは、俺が桔梗に……桔梗と、取り返しのつかない一夜を過ごした場所。桔梗にとっては、忌まわしくて堪らない場所。俺にとっても愉快な記憶ではないため、俺たちは意識してここを話題にすることも避けてきた。でも、今夜、俺
Baca selengkapnya

141(※)

自然と、口づけは深くなる。最初の頃は唇を恥ずかしそうに薄く開くだけだったが、今の桔梗は自分から求めるように唇を開き、舌を根元まで絡ませてくる。桔梗の甘えるような声は、静かな部屋に溶け、俺の脳を溶かす。俺は手を伸ばし、桔梗の頬に触れる。驚くほど、温かい。俺の手に、桔梗が頬を擦り寄せる。甘える仕草に、心が痺れる。 桔梗の髪に刺さったピンを抜いていく。一本、一本、丁寧に。纏めた髪が解けるたびに、桔梗が対外的なものではなく、俺だけのものになっていく気がする。「痛くないか?」「大、丈夫……あと、一本だけ」これだと言うように、桔梗が顔を傾けてみせる。黒曜石のように煌めく金属を、ゆっくりと抜く。桔梗の体から力が抜ける。気持ちよさそうな吐息が、桔梗の唇から漏れ出て、俺の背中がぞくりと痺れる。桔梗の髪が柔らかく解けて広がり、柔らかな表情を浮かべる桔梗の髪を縁取る。「蓮司さん……」桔梗が、笑う。まるで、花の蕾が、綻ぶようだった。 俺の忍耐力を試すような、桔梗の背中にズラリと並んだ小さなホックの最後の一つを外した。「待って……」胸元に手をかけると、桔梗が待ったをかけた。乳白色の双丘を名残惜しく思いつつ、桔梗の顔を見れば戸惑った顔。「あの、電気……」「眩しいか?」桔梗は首を横に振ってそれを否定した。「明るくて……恥ずかしい……」桔梗が、横を見る。室内の照明を反射して、鏡面のようになった窓ガラスに、重なる男と女が映っていた。これから交わるのだと、男の目元が赤いのは興奮しているからだろう。男の体の下にいる女の顔は、逆上せたように薄紅色に火照っている。……見せつけてくれる。「こちらも、見せつけてやろう」他人に行為を見せる趣味など俺にはなかったが、この女は俺の女なのだと知らしめたい気持ちがいま分かった。ドレスの胸元を下にずらせば桔梗が驚いた声を上げ、ふるりと震えながら桔梗の胸が現れる。茉白の影響で、甘いミルクの匂いがする。茉白を産んだあとの桔梗との性行為は、子どもが二人いる都合で回数や頻度は当然減ったが、それなりの回数を重ねて、注意するところもなんとなく分かっている。強い刺激は痛みになるので、先端を優しく指で抓む。指の腹で擦り上げれば、桔梗の甘い声が漏れ出ると同時に、触れている部分が湿る。指先のベタつきに、桔梗が俺
Baca selengkapnya

142(※)

蓮司さんとの性行為には、慣れたはずなのに。蓮司さんが体の中に入ってくる感触にはいつも、どこか、戸惑いのようなものを感じてしまう。息苦しさと、充足感。多幸感と、気恥ずかしさ。 くちゅり探るようなゆっくりとした動きは、私の感覚を研ぎ澄ますのか。つながる場所が奏でる水音は、いつもクリアに私の耳に届く。そこが濡れていることは、指で解されながら蓮司さんに指摘されたし、私自身も自覚している。求めている。欲している。蓮司さんを。私が。感じているのだと知らしめる声があがる。体が勝手に震える。一定のリズムで揺すられることに慣れてくると、それを察知して蓮司さんが変化を与えてくる。深さを変えたり。速度を変えたり。蓮司さんが私の中をこすり上げる感覚。ゾワゾワっと熱が拡がる感覚に、声があがる。蓮司さんの、口角があがる。悪戯が成功したような、子ども染みた笑い方。……大人なことをしているのに。ギャップに、悶えてしまう。「……桔梗っ」蓮司さんが、顔を歪めて、切なげな声を漏らす。色っぽくて……。「絞め……す、ぎ……」ゾクッとしてしまう。「なんて、表情を……」……表情?どんな、顔をしているの?「くそっ」蓮司さんの腕が背中に回ったと思った瞬間、ぐっと引っ張られて、世界が急転する。体の奥深くまで蓮司さんが入り込んでくる感覚。衝撃を逃したくても、蓮司さんに肩を抑え込まれていては無理で、私はそのまま強い刺激を甘受する。世界が、白く瞬く。体中の筋肉が動いているのに、全く動けない。 .気づけば蓮司さんの肩に頭を預けていて、宥める様な手つきで蓮司さんに背を撫でられていた。ゆっくりとあやすような規則的な動きに、呼吸が落ち着いてくる。深呼吸しよう。そう思ったら……。「ふぅ……」蓮司さんに、先を越された。……私も、別にすればいいんだけど……。「桔梗?」タイミングを逃した、悔しさみたいなものが湧いてきて、目の前の太い筋が浮いた蓮司さんの首に唇でくわえ、歯を立てる。蓮司さんの体が、ビクッと震えた。私の中で蓮司さんが大きくなる。中を広げられる感覚に、腰が戦慄く。……熱い。「ふはっ」燻った熱を呼吸で逃がして、噛んだ場所を確認しようと目を開ける。蓮司さん越しに、ガラスに映った女性と目が合った。上半身は、はしたないほ
Baca selengkapnya

143|蓮司×桔梗(第1部)最終話

目が覚めた。どれくらい、眠っていたのだろう。分からない。いつ、眠ったのかも、分からない。 .しばらくぼんやりしていたら、静けさが気になった。無音ではない。耳をすませば、かすかに空調から送られてくる風の音と、規則正しい呼吸が聞こえる。……呼吸。それが誰のものかを、目で確かめる必要はない。―― 俺だけを知っていればいい。うん、私は蓮司さんしか知らない。背中に触れる熱も、肩に回された腕も、指先を絡める掌も、蓮司さんしか知らなくていい。蓮司さんの温もりに頬を摺り寄せると、タオル地に触れた。私も、蓮司さんも、バスローブを着た状態でソファに横になっている。体を動かすと、革張りのソファがわずかに軋んだ。その音に、昨夜の行為が思い出される。抱き合うごとに熱が増し、熱さを払うように互いの着衣をはいでいった。覚えている最後は、全ての服を床に脱ぎ散らかして、裸の体を絡ませていた。目だけ動かして見えるソファの周りの床には、何もない。鼻をひくつかせても、少し汗のにおいはするものの、甘い花の香りと森の匂いが混じって薫るだけ。髪や顔からも、整髪剤や化粧品の重みは感じない。……お風呂に、入ったのだろうか。いつの間に……どうやって? .「……どうした?」すぐ近くから、低い声。少し掠れた蓮司さんの声の色っぽい響きと、昨夜のあれこれを思い出していた疚しさから、慌ててしまい、表情を作れないまま蓮司さんを見てしまった。蓮司さんは、こちらを見ていた。まだ夜の名残が残り、部屋の中は薄暗い。顔が熱いから赤くなっているだろうけれど、これならバレることはないだろう。「……おはようございます」蓮司さんの目が少しだけ大きくなって、次の瞬間優しいものになる。「おはよう」短い言葉。
Baca selengkapnya

144|蓮司×桔梗 後日談

「若奥様、今朝は随分とご機嫌ですね」桐谷家に通いで来ている岸谷さんの言葉に、私はハッとした。恥ずかしい。顔が熱い。「コ、コーヒーを持っていかないと」あたふたとトレーにコーヒーを淹れた蓮司さん用のマグカップをのせると、岸谷さんがもう一つ、私用のマグカップ、こちらはカフェオレ入り、を置いた。「本日の若旦那様は遅めの出社と聞いております。お二人でどうぞごゆっくりなさってください」「……ありがとう」どうやら、私が浮かれているのは、今朝の蓮司さんは長く家にいるからだと思われているみたい。それも嬉しいから間違いはないのだけれど……どちらにしても、浮かれているのはバレてしまっているのだから恥ずかしい。ダイニング入ると、大きな窓から差し込む朝日が、長いテーブルの上に明るい線を描いていた。光は私の手元にまで届き、カップの縁が淡く光る。「桔梗」蓮司さんが読んでいた新聞から顔をあげた。ふたつのマグカップを持って蓮司さんの隣にいくと、蓮司さんが新聞の角度を変えて、先ほどまで自分が読んでいた記事を見せてくれた。「“石川明梗の新作 時を超えて四連花に終止符”……ですか」写真には石川先生と、新作となったあの絵。「随分、大きく扱われましたね」自分がモデルになって、この絵が美術館の展示室に飾られたところも間近に見たけれど、やっぱり……。「蓮司さん?」低く唸る蓮司さんの声に、思考が途切れた。「予想以上だな」“なにが?”と思って首を傾げたら、蓮司さんが記事の一文を指さした。【四連花の続編とされる本作は、母性と普遍性を兼ね備えた傑作。すでに国内外の美術館が購入に名乗りを上げている】「……これはもう、五倍どころじゃないな」「
Baca selengkapnya

145

この日の桐谷家は、朝から家中が少しだけ浮き足立っていた。自分の準備をすませて子ども部屋に向かうと、お義父様とお義母様の弾んだ声が何メートルも前から聞こえた。今日の服装は祖父母プロデュースにしたいと仰ったから、二人にお任せしたのでどんな子どもたちになったのかは分からない。「ママッ」覗き込むと、すぐに誠司が私に気づいた。とても可愛い。まるで小さな蓮司さんだ。「僕、パパみたい?」スーツ姿は、誠司の中で蓮司さんと“お揃い”になるらしい。サスペンダーに半ズボンというところが可愛らしい仕上がりになって、蓮司さんとは違うなとは思うけれど、大好きなパパとのお揃いに喜ぶ誠司に水を差すつもりはない。「蓮司より何倍も何倍も誠ちゃんのほうが素敵よ」「うんうん。何と言ってもあの子は、いまの誠司くらいの頃から不愛想だったからね」そして祖父母の分厚い孫フィルターによって褒めそやされた誠司は、もう鼻高々状態。「誠司、いらっしゃい」しゃがみ込み、小さなネクタイを整える。白いシャツに紺のジャケット。まだ丸みの残る頬が、いつもより少しだけきりっとして見える。お義父様とお義母様の孫フィルターを笑えないわね。私も、親馬鹿スイッチが入ってしまう。「ママ、茉白も見て。すっごく可愛いの」自分の名前に気づいたのか、ふわりと広がるワンピースに包まれた茉白が顔をあげる。今日はいつもよりお姫様。でも、なんでかすぐに茉白は俯いた。どうしたのかと思って覗き込めば、そこには手鏡。鏡の中の自分を見て、茉白は「あー」と声を上げた。柔らかな髪には、小さなリボン。後ろについているのは、見えたら茉白は引っ張ってしまうからだろう。「桔梗、そろそろ時間だぞ」蓮司さんの声がして、戸口をみると蓮司さんが立っていた。何となく気恥ずかしそうなのは、いつもの黒や紺で
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1
...
1718192021
...
23
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status