成功している男で、私生活まで潔白な者など、いったいどれほどいるというのか。むしろ、彼にそれくらいの「欠点」があるからこそ、自分にも入り込む余地が生まれる。馨は、理玖が「独身です」と答えるものだとほとんど確信していた。だが、返ってきたのは、たった一言――短く、簡潔な答えだった。「……いる」その瞬間、会議室の空気が凍りついた。光司も、もともとは娘の代わりに軽く探りを入れただけのつもりだったのだろう。まさか理玖が、ここまで容赦なく面子を潰してくるとは思っていなかったに違いない。取り繕う素振りすら見せない。馨はますます引きつった笑みを浮かべながら、必死に平静を装って口を開いた。「そうなんだ……神谷さん。以前、お母様の喜久子さんに一度お会いしたことがあるのだけれど、その時、あなたの結婚の話についてため息をついておられたから……てっきり恋愛にはご興味がない方なのかと思っていたわ」その場の空気を見た文人が、間髪入れず前へ出る。「馨さん、少々情報が古うございますね。社長は長らく独り身を貫いてこられましたが、今年ようやくお相手ができまして。おじい様も大変お喜びになっております」その一言には、あまりにも多くの意味が含まれていた。そして同時に、それは暗に馨の顔へ泥を塗る言葉でもあった。たとえ喜久子が紬を嫁として認めていなくとも、祖父である浩之が首を縦に振った以上、この話はほぼ決着したも同然なのだ。「……では、そのお嬢様は本当に果報者ですのね」馨の声音には、隠しきれない嫉妬が滲んでいた。「ええ、社長も紬さんも、共に幸せなお方でございます」文人はのらりくらりと受け流すと、すぐさま理玖へ向き直った。「社長、本日、紬さんが『宵庭』にお席を予約されております。社長へのサプライズをご用意されているそうで、私に伝言を託されました」先ほどまで険しく結ばれていた理玖の眉間が、わずかに和らぐ。「分かった。では、私はこれで失礼する」そう言って立ち上がると、理玖は長い脚で大股に歩き、そのまま会議室を後にした。馨は本来、理玖を夕食へ誘うつもりで言葉を用意していた。しかし、その機会は訪れることなく、言葉は喉につかえたまま消えてしまった。普通なら、提携相手から直々に食事へ誘われれば、理玖ほど冷徹な男でも多少は面子を立て
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