円香は寝ぼけ眼でナイトテーブルに手を伸ばし、手探りでスマホを引き寄せた。画面の時計は、まだ朝の八時を過ぎたばかりだ。しかし、ロック画面に表示された一件の新着メッセージを見た瞬間、円香の眠気は一気に吹き飛んだ。【差出人:吉川蒼介今夜、家に戻れ】「はあ……!?」だが、自分が今手にしているのが杏奈のスマホだと気づき、円香はホッと胸を撫で下ろした。「びっくりしたぁ……あのクズ男、とうとう頭がおかしくなって私にまで手を出してきたのかと思ったじゃない」とはいえ、杏奈をあの家に帰らせようとするなんて……円香は険しく目を細め、一秒の迷いもなくそのメッセージを削除した。ついでに、蒼介のアカウントそのものをブロックしておいた。片方で愛人の世話を焼きながら、もう片方で正妻も手放さないつもり?寝言は寝てから言いなさいよね!「ん……円香、何してるの……?」杏奈が、隣で目をこすりながら身じろぎした。「んーん、なんでもないよ」円香はさっさと何事もなかったように戻して、くるりと向き直り、杏奈の細い腰に腕を回して抱きついた。「杏奈ぁ、まだ朝早いじゃない。もうひと眠りしようよ〜」杏奈一人だけなら、この程度の眠気ぐらいすぐに振り払って起き上がれる。でも、親友に甘えた声でそう言われると、温かい布団の誘惑に一気に抗えなくなった。「……そうね、もうちょっとだけ」次に目を覚ました時には、もうすぐお昼になろうとしていた。廊下の向こうから、執事の控えめな声がした。「お嬢様、三浦様。お昼の準備ができました。旦那様が『必ず起きて召し上がるように』とのことです」「わかったー」円香は気怠げに返事だけして、いっこうにベッドから起き上がる気配がない。人間、眠れば眠るほど余計に眠くなるものなのだ。「ほら、起きて」杏奈はさっさとベッドから下りて服を着替えると、布団に丸まっている円香の腕を引っ張った。「朝ごはんも食べてないんだから、お昼まで抜いたら体に良くないよ」「わかっ……てるってばぁ……!」円香は骨抜きになったクラゲのように、されるがままに引きずり起こされた。杏奈は自分の身支度を手早く済ませると、今度はだらしない円香の世話まで整えてやった。二人が一階の食堂に下りてきた時には、色とりどりの料理がテーブルに並んでいた。「あれ、おやじは
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