All Chapters of 協議離婚したら、忘れていた夢が叶い始めた: Chapter 511 - Chapter 513

513 Chapters

第511話

謝罪を受けた円香はそれ以上追及しなかった。ふんと鼻を鳴らしただけで、まあ分かればいいわ、という空気を漂わせる。杏奈の方へ向き直ると、まだ少しむくれた口調で言った。「杏奈、ここは国内でしょ。外国人に好き勝手させるわけないじゃない」「とにかく、怖がらなくていいの。いざとなったら正面からぶつかればいいだけの話よ」鈴木家と三浦家、それにルミエールの三社連合に加え、玲子のテレビ局における影響力まで考えれば、確かにそれほど恐れる必要はない。しかし杏奈が真に恐れているのは、正面切っての衝突ではなかった。アルバートソンズが裏から手を回してくることが問題なのだ。国際的な武器商人ともなれば、配下に殺し屋や傭兵を当然のように抱えているだろう。自分の命は惜しくない。でも、身近な家族や大切に思う人たちが巻き込まれるかもしれない――そう考えると、胸がざわついた。眉を寄せながら、やはりもう少し様子を見るべきかと思い始めた時、翔真が静かに口を開いた。「もしかしたら、僕がお役に立てることがあるかもしれません」その一言に、その場にいた三人の視線がいっせいに向いた。テレビ局のエース司会者というだけあって、彼には地元で相当な影響力がある。しかし、裏社会の武器商人であるアルバートソンズに対抗できるほどの力があるかといえば、さすがに話は別だろう。円香はとっさに「何を大げさな」と言いかけたが、その前に翔真がゆっくりと続けた。「改めて自己紹介させてください。僕は、濱海の寒川家の、寒川翔真です」「寒川家」という名が、まるで雷に打たれたような衝撃を全員に与えた。心臓が一瞬激しく跳ね、喉元まで飛び出しそうになる。短い静寂を、円香の素っ頓狂な声が破った。「寒川家の人なの!?」「そうです」「私が知ってる、あの寒川家?」「はい」「代々政治家を輩出し、一族から何人もの高官を出していて、濱海市で絶大な影響力を持つ、あの寒川家?」「うーん……」翔真は思わず頷きかけたが、彼女の言葉の危うさに気づくと、浮かびかけた笑みに困惑が混じった。「鈴木さん、その表現はさすがにまずいですよ。本当に噂が広まったら、明日には特捜部が動くことになってしまいます」円香も言い過ぎたと気づき、慌てて両手で口を押さえた。「ご、ごめんなさい」杏奈が苦笑しながらフォローに入
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第512話

個室に、しばし沈黙が漂った。全員の目が円香に集まり、苦笑と驚きが入り混じった表情が並ぶ。翔真も彼女の突拍子もない発想に思わず苦笑した。「本当に動かすようなことになったら、さっき鈴木さんが心配していたことが、本当になってしまいますよ」「あ、それなら」円香はけろりとした顔で手をひらひらさせた。「ちょっと考えたんだけど、一族丸ごとの連帯責任くらいなら、歯を食いしばれば何とか……んむっ」これ以上とんでもないことを言い出す前に、杏奈が素早く口を両手で塞いだ。翔真に向かって苦笑する。「うちの円香はちょっと自由奔放なところがあって、ご迷惑をおかけしてすみません」翔真は笑った。「いいえ、鈴木さんは……裏表のない、とても素敵な方ですよ」その点については、その場の全員が素直に頷いた。駆け引きや腹の探り合いが当たり前の世界に長くいると、円香のような裏表のない人間といる時間が、自然と心地よくなってくるのだ。「そうでしょ」円香は胸を張り、得意げに続けた。「私は生まれながらにして、世の男性を虜にし、万人を魅了する魔性の女になる定めを持った女だもの……」その言葉が笑いを誘い、個室の空気がほぐれた。他愛のない冗談を言い合ううちに、窓の外では夕焼けの名残がいつの間にか夜の闇にのみ込まれ、梢の上に丸い月が浮かんでいた。星々が瞬き始め、夜の街を彩るネオンと溶け合って、濱海市の夜景を一枚の絵のように彩っていた。玲子が時計を確認してから、全員に声をかけた。「もうそろそろいい時間だし、食事も済んだなら準備に向かいましょうか」今夜のパーティーはアルバートソンズをもてなすために開かれるもので、会場は濱海市きっての名勝として知られる庭園――翠嵐園だという。かつては将軍家の鷹狩場として使われた由緒ある地であり、幾世代にもわたり手入れが重ねられた今も、古き良き面影を宿す名園としてその姿を今に伝えている。そこは、一国の賓客でも招かぬ限り門が開かれることさえない特別な場所だ。その会場選びひとつ取っても、彼らへの並々ならぬ配慮が伝わってくる。そんな席に、普段着で乗り込むわけにもいかない。杏奈たちもフォーマルウェアを用意してから向かうことになった。「食べ終わったわ」「私も」「じゃあ行きましょう」全員が席を立ち、会計を済ませてから、近くの高級ドレスシ
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第513話

「……母さん」語尾を伸ばした、すがるような声が、由里子の胸をぎゅっと締めつけた。軽く息子の頭を叩いてやりながら、奥歯を噛みしめて言う。「大丈夫。私がいるわ。誰がまたあなたに意地悪しようとしても、今度こそ母さんが絶対に許さないから」「うん」しばし穏やかな時間が流れた。そこへ、インテリ風の細身の中年男性が小走りで駆け寄ってきた。「由里子、あの若い男は誰だ!?」後ろには三、四人の取り巻きがついてきて、声をかけたり止めたりしている。「おい、俺さっき見たぞ。お前の奥さんが若い男と抱き合ってたぞ」「やめろやめろ、何か誤解があるかもしれないだろう。事情を聞いてから――」「抱き合ってたんだぞ、言い逃れできるか。俺の見立てじゃ、お前の嫁は……」由里子の表情が険しくなった。言い返そうと口を開きかけたその瞬間、翔真が腕の中からすっと身を引き、一歩踏み出して「お前の嫁は」と言いかけた男の前に立った。腰の入った重い一撃を、ためらいなく腹へ叩き込んだ。「ぐっ……」鈍い呻きとともに、男は腹を抱えて膝をつき、盛大にえずいた。周囲の面々は蛇に睨まれた蛙のように固まり、ふいに拳を収めた、おとなしそうな優男・翔真を恐る恐る見つめた。「お前は何者だ、いきなり人を傷つけるとは……」父親・寒川泰明(さむかわ よしあき)が問いかけた途中、翔真の顔をはっきりと見て、言葉が止まった。妻が若い男と密会していると確信していたのに、それが自分の息子だったとは。あまりにも想定外な展開だった。「お前……」口を開けたはいいが、何も出てこない。何を言えばいいのか、本人にも分からなかった。翔真は父親に一瞥もくれず、今も地面でえずいている男を見下ろして、絶対零度のような声で言った。「次に余計な口を叩いたら、この一発では済まないぞ」男は目を逸らしたまま、か細い声を絞り出した。「わ、分かりました。もうしません」翔真は短く告げた。「行け」視線を残りの面々に向ける。一言も発しなかったが、意味は十分に伝わった。ほどなくして、ぞろぞろと押しかけてきた野次馬たちは夜の闇へと逃げるように消えた。その場に残ったのは、寒川家の三人だけだった。二つの顔――どこか似た、ひどく不機嫌な顔を前にして、泰明はじっとりとした嫌な汗をかいた。「……誤解だって言っても、
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