それだけ言い終えると、祐一郎はもう一度肩を軽く叩き、踵を返して去っていった。……翌朝、空がようやく白み始めた頃、杏奈はすでに起き出していた。身支度を済ませて階下へ下りると、普段着姿の祐一郎がソファに深く腰掛け、新聞を読んでいる。何気なく声をかけた。「あら、お友達は?」「ホテルに泊まってる」祐一郎が顔も上げずに答えた。「何か用でもあったか?」「ううん、ただ聞いてみただけ」杏奈はさらりと返して、ダイニングへ向かった。恵理子が作ってくれた雑炊の、出汁のいい香りがすでに漂ってきていた。「俺の分も一杯頼む」祐一郎が声をかけた瞬間、後頭部をパシッとはたかれた。「まったく、横着にもほどがある。少しは自分で動け」武史が背後からのそりと現れた。祐一郎はのんびり言い返す。「親父、この間まで俺がどれだけ忙しかったか知ってるだろ。やっと少し時間ができたんだ、ゆっくりさせてくれよ」「そうか。じゃあしっかり休んで、杏奈を会社まで送ってやれ」武史は上着を羽織って、さっさと出て行った。「おじさん、雑炊できてますよ。一杯食べてから行きませんか」杏奈は器を持って後を追いかけた。武史は振り返ることもなく手をひらひらと振った。「俺はいい、お前たちで食え」「親父が食わないなら俺が食う」祐一郎はひょいと器を受け取り、満足そうにひと口食べてから続けた。「親父に頼まれたから後で送ってやるよ。早く食え。俺も少し片付けたい用事があるんだ」「お兄ちゃんは用事があるなら先に行っていいよ。私一人で行けるから」「それはダメだ。親父に知られたらまたうるさく言われる」「わかった。じゃあ、サンドイッチを持って行こう」杏奈はダイニングへ戻ってサンドイッチを二つ袋に詰め、祐一郎の車に乗り込むと、そのままルミエールへ直行した。……ビルのエントランス前、車がまだ止まり切らないうちに、お決まりの端役が、案の定姿を現した。「おはよう」那月が朝食の袋を提げて車の窓越しに立ち、人懐っこい笑みを向けてくる。「朝ごはんはもう食べた?ちょうど買ってきたんだけど……」「食べた」那月は無言のまま杏奈を見つめた。まあ、杏奈にとっては想定の範囲内か。「じゃあ、俺はこれで」祐一郎は那月に軽く頷き、杏奈に一言告げてそのまま車を走らせた。「杏奈」那月が
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