誰ひとりとして、声を上げなかった。「相手がまだ子どもだから」、ただその一点のみを理由に、皆が必死で怒りを腹の底にこらえていた。「小春ちゃん、そんな酷いことを言ってはいけませんよ」恵理子が一応、大人としてたしなめる。あくまでその場を穏便におさめるための、形ばかりの一言だった。だが小春はそんな大人の配慮などお構いなしに、隆正の首にぎゅっとしがみついて、さらに言い募った。「嘘じゃないもん!曾おじいちゃん、あたし、あの嘘つきおばさんが大嫌い!あんな人を……」「……黙りなさいッ!」杏奈の鋭い声が、氷の刃となって空気を切り裂いた。その目に宿った冷たさは、小春がこれまでただの一度も見たことのないものだった。その低く沈んだ声には、怒りがビリビリと滲んでいる。「ここにいたいのなら、今すぐ口を閉ざして黙っていなさい。それができないなら、今すぐ出ていきなさい。円香は、私がこの家に招いた大切な『お客様』よ。あなたたちこそ――」杏奈は、嫌悪に満ちた眼差しを突き刺した。小春はその目に見覚えがあった。かつて自分とパパが、目の前のママに向けていた、あの見下すような目とまったく同じだ。まさか、自分がその眼差しを向けられる日が来るとは思いもしなかった。「あなたたちこそ、誰にも招かれていないのに厚かましく押しかけてきた、招かれざる『お客様』でしょう」「客」という言葉をことさら強調して口にしたとき、杏奈の視線は、黙り込んでいる蒼介へと流れた。その目には、強烈な皮肉の色が滲んでいる。だが蒼介は聞こえていないかのように、表情の筋肉ひとつ動かさなかった。当然、腰を上げる気配も微塵もない。激しい拒絶を受け、小春の大きな目はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。涙がぽろぽろと頬を伝い、床にシミを作っていく。「うわぁん!ママなんか、大嫌い!あっちへ行ってよ!もう顔も見たくない、今すぐここから出ていって!」泣きじゃくりながら足をばたつかせて叫ぶ。杏奈は不快げに眉をひそめた。これ以上、この我がままな子どもとまともな話し合いにはならないと悟り、鋭い目を蒼介へ向ける。その視線の圧を受けて、今度は蒼介も素直に動いた。小春のそばへ静かに歩み寄り、隆正の腕からひょいと受け取って、その頭をそっと撫でながら柔らかい声で言い聞かせる。「ほら、泣かない。ママは
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