「私が舐められるとでも思ってるの?」円香は、挑発するように眉を吊り上げた。杏奈はゆっくりと首を振り、真っ直ぐな眼差しで親友を見つめ返す。「あなたが簡単にはやられないってことは、よくわかってるわ。でもね、仕掛ける方はいつでもできるけど、守る方が四六時中警戒し続けるなんて、どう考えたって無理な話じゃない」小さくこぼれたため息には、どこか諦めに似た色が滲んでいた。「私が毎日ここに張り付いて守ってあげられるわけでもないし……ちょっと気を抜いた隙に、さっきみたいに罠にはめられでもしたら、目も当てられないわ」数日間の療養を経て、杏奈の体調はほぼ元通りに回復していた。本来の仕事に復帰しなければならない時期が迫っていた。円香は顎に手を当てながら、それもそうねと納得したように頷いた。「怖いとか怖くないって話じゃなくて、確かに備えは必要よね。ねえ……」ふふっ、と。彼女の唇の端が、ニヤリと吊り上がった。杏奈もよく知っている、彼女が誰かを徹底的に追い詰める直前に見せる、小悪魔のような顔だ。「先に相手の弱みを握ってしまえば、あんなふうに堂々とふんぞり返ることもできなくなるんじゃないかしら」「まあ、そうだけど……」杏奈は少し言い淀んだ。「でも、円香のお父さんが動いてくれない限り、私たちだけで調べるのは難しくない?」円香は「ふん」と軽く鼻を鳴らすと、頼もしげにぽんと自分の胸を叩いてみせた。「そっちは心配しなくていいわ。私に任せて」以前、玲子が一緒に反撃を考えようって言ってくれていたし。玲子に頼めば、きっとどうにかしてくれるはず。「……わかったわ」すでに確かな勝算があるのだと伝ってくるその表情を見て、杏奈はそれ以上何も言わなかった。ただひとこと、念を押すように付け足す。「何かあったら、すぐに言うのよ?」「もちろん!」……昼休みが終わり、午後の収録が再開された。ただし、前のパートとひとつだけ違う点がある。グループパフォーマンスという新しい演目が加わっていることだ。観客席からは、杏奈が円香へ向けて力の限り声援を送っていた。声出し禁止という暗黙のルールがなければ、立ち上がって彼女の名前を叫んでいたに違いない。だが、無邪気にはしゃいでいたその顔が、ふいにこわばった。視線が鋭く細められ、ダンスユニットで円香の隣に並ぶ
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