凍りつくような沈黙が、華やかな展示ホールに漂った。周囲はしんと静まり返り、絨毯に針が落ちる音すら聞こえそうだった。全員が、まるで信じられない目線で、呆然と海斗を注視した。世界最大の宝石帝国の令嬢を、こんな大衆の面前で真っ向から拒絶するような命知らずが存在するとは、誰も想像していなかったのだ。アレーナの美しく高慢な目に、屈辱の涙が光った。何か言い返そうと震える唇を開いたが、結局口から出たのは子どものようなひとことだけだった。「……最低っ!」袖で口元を押さえ、大粒の涙をこぼしながら、アレーナは足早に立ち去ってしまった。海斗は彼女の背中に一瞥もくれず、すぐに裕司へ焦るような目を向けた。「杏奈さんが今どこにいるか、いつ頃ここへ来るか, 分かりますか?」正直なところ、裕司は内心面食らっていた。世界に名の知れた画家が、杏奈に対してここまで強い執着を見せているとは、まったく予想していなかったのだ。しかしそれ以上は深く考えず、裕司は静かに首を振って穏やかに笑った。「彼女は少し個人的な用事がありまして。それが片づき次第、必ず来ますよ」杏奈の込み入った家庭の用件を、彼に詳しく話すつもりはなかった。話しても事態の解決には意味がないし、この男が絡めば事態がややこしくなるだけだ。「……そうですか」海斗は落胆したように肩を落とし、それ以上は追求しなかった。彼女はいずれここへ来る。焦る必要はない。ただ――長年、万年雪のように凍りついていた彼の心が、今この瞬間だけは胸を突き破りそうなほど激しく打ち続けている。一刻も早く彼女に会って、声を聴きたいという気持ちが、自分でも不思議で恐ろしいほど抑えられなかった。その頃、彼が心待ちにしている人は、すでに療養院に着いていた。勝手知ったる足取りで妙子の病室へ向かい、勢いよくドアを開けたが――中はもぬけの殻だった。静養しているはずの母の姿がどこにもない。呼び出した達也の姿もない。杏奈が慌ててスマホを取り出し電話をかけようとした瞬間、スーツ姿の眼鏡の男が近づいてきて、丁寧に尋ねた。「失礼ですが……三浦杏奈さんでしょうか?」見覚えのある顔だった。母をここへ預けたとき、一度だけ面談したことのあるこの施設のマネージャーだ。その顔を見た瞬間、杏奈の胸に積もっていた黒い怒りが一気に溢れ出
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